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「……ここ、どこ?」
僕は疑問と共に周囲を見回した。というのも、階段を上った先は不思議な場所だったからだ。辺りが淡い光に包まれていて、空間がぼやけているような錯覚を受ける。気がついた時には階段すら無くなっていた。足元までもが輪郭を留めていないので、空中に浮かんでいるような感覚を抱いてしまう。心が何となく落ち着かなかった。
「まさか、地上……?」
そんなわけがない、と僕の心が訴えていた。しかし、ならばここはどこなのだろう。検討もつかない。
途方に暮れながら立ちすくんでいると、視界の奥に何かが見え始めた。よく目を凝らすと、それは見慣れたあの立て札だった。はっきりした地面が存在するかも分からないので一歩を踏み出すのには躊躇があったが、歩いてみると普通の床のような感触だった。まるで、真下が透明なガラス張りになっているかのようだ。
立て札の前に到着して、一応手で触れておいた後、僕は内容を読み進めた。
『ちょー重要な掲示板! その13』
『愛しの君へ。
ダンジョンクリア、おめでとう!
ここまでたどり着くのに、君はいくつもの困難を潜り抜けてきた筈だ。その経験はきっと地上でも生かされる事だろう。
もしかすると、今の君は戸惑っているかもしれないね。
「地下一階を上れば、地上に出る筈じゃないのか」って。
恐らく察していると思うけど、ここは地上じゃない。ちょっとした異空間だ。実を言うと、この場所に限った話じゃないんだけどね。まあ、その事は本筋に関係ないから流すとしよう。
さて、これから君はいよいよ地上へと向かう事になる。そこでは様々な困難が待ち受けているだろう。けれど、ここで体験した数々の事が、きっと君の助けになる筈だ。苦難に躓いても、決して諦めないでほしい。
また、君の記憶と過去についてだけど、今はまだ教えられない。ごめんね。いつか時が来れば、話す事になると思うから、それまではあまり気にしないようにしておいてほしい。それに、現在の君が紛れもない君自身なんだ。その事を決して忘れないでね。
いつか、君の求める真実が近付いてくるその日まで、絶対に生き延びるんだ。
この掲示板の内容を読み終わる頃には、きっとこの空間は消え始めるだろう。この場で君にアドバイス出来るのも、これが最後だ。後は自分自身の力で頑張ってくれ。
それでは、幸運を祈っているよ。
補足
地上では、君の身に付けている衣服以外の道具は全て消失する。覚えておいてね。』
「……どういう事なのさ」
文章を読み終えた後、僕は戸惑いながら呟いた。
「さっぱり意味が分からないよ。ここはどんな場所なの? どうして僕はここに連れてこられたの? 僕の求める真実って何? ねえ、教えてよ」
呼びかけても、返事をする者は皆無だった。
「ねえってば……うわっ」
やがて、空間を包んでいる光がだんだんと煌めきを増していく。あまりの眩しさに、僕は両手で目を瞑った。それでも瞼の裏側まで、白い輝きが入り込んでくる。
どれくらい、そうしていたかは分からない。
視界を奪っていた白光がだんだんと薄らぎ始めていく。
そして。
気がつくと、僕は広大な草原の中に立ちつくしていた。