表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/275

19

 小部屋に戻り、立て札に触れ、安堵の息をつきながら地面に腰を落ち着ける。これでもし倒れてしまっても、取りあえずここからやり直せる。


 それにしても。僕は先の戦いの事について思いを馳せた。


「どうやって階段までたどり着けば良いんだろう」


 部屋には大きくて強い番人がいる。何とか撒いて階段まで近づいても、高くそびえる岩壁に行く手を遮られる。力の草を使っても脚力には意味がないらしく無駄だった。


「……やっぱり、階段の事はひとまず置いておこう」


 とはいっても、と僕は両手で頭を抱え込んだ。


「あんなの、どうやって対処しろっていうのさ」


 倒す、というのは端から選択肢に無い。今までに遭遇してきたどのモンスターとも比べ物にならない桁外れの強さだ。まともにぶつかったら万に一つの勝機も無いだろう。ただ、鈍重な動きという事が唯一の救いだ。攻撃を避ける事に専念すれば、どうにか立ち回る事は可能だ。


 しかし、それだけではどうにもならないのがこの階の厄介な点である。これまでも倒せない敵ばかりではあったが、基本は通路移動だった為に上手に立ち回れば戦闘を回避して階段まで到達する事が出来た。だが、この階は敵と階段が同時の場所に存在し、今までのように慎重に進んでいくという行動は取れない。ゴーレムと相対しつつ、階段をどうにかして上りきらなければならないのだ。


「力の草は一本残っているけど……使い物にならないし」


 これを飲んで壁をぶち破るという事も考えたが、地下九階で使用した時の感覚を思い出すに、恐らく不可能だ。使用者の強さに比例して、効果も高まっていく類なのだろう。元々非力な僕が使ったとしても、岩を叩き割る強さは得られない。


「木の棒で殴ったとしても返り討ちに遭うだけだろうなあ」


 近付く事自体がそもそも危険である。


「ゴーレムをどうにか足止めして、その間に階段を駆け上る……って、結局無理だ」


 結局、先に階段まで到達する術を考えなければならないようだ。しかし、良い案が一向に浮かばない。


「あの壁さえ無ければ、こんなに悩まなくて済むのになあ」


 部屋の端を通ってゴーレムの拳を避けながら階段を上っていく。これならばどんなに簡単な事だろうか。


「そうだよ。問題はあの壁なんだ。あれをどうにかしなくちゃ。でも……どうにかってどうすれば良いんだろう」


 首を捻って考え込む。


「壊すのは無理、飛び越えるのも駄目、よじ登ろうとしても攻撃を食らうかもしれない」


 気分が胃の底まで落ち込み、僕は深くうなだれた。


「結局、全部不可能じゃんか」


 愚痴を吐いても、どうにもならない。僕は地面に寝転がり、頭の下で両腕を組み、沈うつな気持ちで天井を見上げる。僕は何気なく呟いた。




「誰かがあの邪魔な壁、取っ払ってくれないかなあ」




 次の瞬間、僕はある事を閃いた。


「……あ」


 突然降って湧いた考えを脳内で整理しながら、体を起こす。


「自力じゃ駄目なら、他力で……」


 自然と口元が綻んでいく。


「やれるかもしれない!」






 あれからしばらくして、僕は階段部屋の入り口に立っていた。視界の中にはいくつもの岩達が転がっていて、僕が部屋に足を踏み入れた途端、それらはゴーレムと変貌するだろう。


 僕は心の中でもう一度、自分の作戦を復唱する。


 ――大丈夫、きっと成功する。


 意を決して、僕は勇気のいる一歩を踏み出した。直後に地鳴りが起こり、岩達が空中に浮いて一つに結集し、再び岩石の巨体が姿を現す。


 まず、僕は最初の時と同様、部屋の左端へと移動した。今度はすぐに走り出したから、相手が到達してくるには随分と余裕がある。そのおかげで攻撃に備えるだけの時間がたんまりとあった。


 やがて、一ヶ所に立ち続けている僕に近付いてきたゴーレムは両手を振り上げる。その動作を合図に、僕は全速力で走った。地面に拳が叩きつけられる衝撃が耳に響く。


 ――よし、いける!


 そのまま僕は直進し、階段のすぐ前で止まる。勿論そこは高い岩壁に覆われていて、僕の通る道は無い。


 ――これで、準備は整った。


 ゴーレムがこちらを向き、ゆったりとした動作で近付いてきて、僕の目の前で立ち止まる。威圧的な風貌に、思わず逃げ腰になり、走り出してしまいそうになる気持ちを懸命に堪えた。


 やがて、再びその両手が空中へと上げられる。


 ――今だ!


 僕は全力で地面を蹴った。ゴーレムの強烈な一撃が、先程まで僕の立っていた場所に振り下ろされる。


 そして、すぐ後ろの岩壁はその攻撃に巻き込まれ、もの凄い音を立てて一部が損壊した。


 ――やった!


 僕は喜びを噛みしめる。しかし、まだ油断は禁物だ。


 今度は入り口の方まで戻り、ゴーレムをこちら側へと引き付ける。三度目の攻撃も前と同じ要領で避け、僕は全速力で走った。後ろを振り返る事もなく、上へと続く階段を息を切らしながら駆け上がる。


 ――これで、やっと地上に出られるぞ!


 胸の内に途方もない幸福感が広がっていく。




 そして、地下一階を出た途端に、僕の周囲は目映い光に包まれた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ