プロローグ
「……あれ?」
目覚めると、僕は無機質な床の上に転がっていた。
「ここ、どこ?」
呟いてみても、答える者はどこにもいない。見回すと、辺りは薄暗い洞窟のような場所の小部屋だという事が分かった。硬そうな岩盤の所々に埋め込まれた石達が、まるで火を放っているかの如く煌めいている。完全な真っ暗闇ではないのは恐らくそのせいだろう。
ただ、輝く石は僕のいる小部屋のみに存在して、通路に向かうと思しき空間の先は暗闇しか映らない。
早く、ここから抜け出さないと。
何となく、そんな感じがした。けれど。
「僕は、誰?」
思わず、胸の内に浮かんだ疑問をそのまま口にしてしまう。そう、僕は自分が何者なのか思い出せなかった。それだけじゃない。どこから来たのか、なんでここに倒れていたのか、言葉以外のありとあらゆる記憶が抜け落ちてしまっている。
「もしかして、記憶喪失……?」
戸惑いの言葉は洞窟にか細く反響して消えていく。と、僕は少し進んだ場所に木で出来ていると思しき立て札がある事に気がついた。
「なんだろ……」
近づいて、タイトルを見る。
『ちょー重要な掲示板! その1』
「……え?」
思わず、絶句した。なんだろう、このかなりラフな文章は。続きに視線を移す。
『ここに倒れ込んでいる愛しの君へ。
君が倒れているのはなんと……とある封印されたダンジョンの最深部!
階数は地下10階。
この立て札のある部屋は安全だけど、その他の場所には怖い怖いモンスター達が待ち受けている!
今、君に与えられているのはボロ切れの服のみだけど、頑張って階段を見つけて地上に脱出してね!
ちなみに、地上に近づけば近づくほどにモンスターは手強くなるよ!
地下一階には凶悪なボスが徘徊しているから注意だ!
補足
もし倒されたりしたらこの場所に戻されてしまうから要注意。
けれど、戻してもらえるだけマシだと思って。
地上に出れば、死んだらそれっきりなんだから。』
「随分と、分かりやすいけど。でも、なんだかなぁ……」
つまり、僕は化け物だらけのこの場所をどうにかして脱出し、地上にまで出なきゃいけないらしい。ふと自らの服装を見やる。なるほど、確かにボロ布を適当に繋ぎ合わせただけのような服だ。胡散臭い掲示板だけど、書いてある事は信用しても構わないだろうと思う。
けれど、この文章は肝心な事を書いていない。
「僕の名前とか、ここに倒れていた理由とか、そういうのを教えてくれれば良かったのに」
自然と溜息がこぼれる。しかし、いつまでもこうしていられるわけではないのだと気づいた。今は何ともないが、だんだんとお腹も減ってくるだろう。けれども、僕は食料を何一つ持ってはいない。服しか着ていないのだから当たり前だ。飢えをしのぎたいのであれば、遅かれ早かれ、この場所を出なければならない。怪物がいる、という事を正直恐れてはいるが、背に腹は代えられない。
「……よし、先ずは生き延びよう」
覚悟を決めて、僕は小部屋の出口へと歩いていった。