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「……よし、これで合ってるかな」


 最後の確認を行いつつ、僕は呟いた。その独り言を聞きつけたメノが、


「ん、その様子じゃと分かったのか?」


 と、期待のこもった眼差しを向けてくる。


「うん、多分解けたと思うよ」


 彼女の問いかけに小さく頷くと、今度はセディルが険しい面持ちで、


「それじゃあ、先に君の考えた答えを話してくれ。もし間違っていたなら、僕達はここに閉じこめられてしまうんだ。慎重にいかないと」


 若干、語調が高圧的に感じられるのは、自分がたどり着く前に僕が正解を閃いたからかもしれない。だが、その事は取りあえず気にしないでおく事にして、


「分かったよ」


 僕は彼の言に同意した後、自身の導き出した答えについて説明を始めた。


「えっと、まずは最初のスイッチがどこかだけど。それはヒントの三番と五番を見れば分かるんだ」


『3・青の右隣は押してはならない。

 5・一番目に押すスイッチは□の形状』


 三番目のヒントに従うと、押してはいけないスイッチは一ヶ所だ。


   ×

赤黄青緑黄赤緑青

×△○□□△×○


 続いて、五番目のヒントに示された位置は下記の通り。


   !!

赤黄青緑黄赤緑青

×△○□□△×○


 この二つを照らし合わせてみると、一番始めに押さなければならないスイッチの位置が判明する。


   ×1

赤黄青緑黄赤緑青

×△○□□△×○


「その次に押さなければならないスイッチの在処は、ここから六番目のヒントを考えれば簡単に分かるんだ」


『6・二番目に押すスイッチは△の間』


 この文章から読みとれる、正解の可能性があるスイッチは三つ。


  !!!

赤黄青緑黄赤緑青

×△○□□△×○


 これを一番目のスイッチを考える過程で得られた図に照らし合わせると、自ずと答えが判明する。


  2×1

赤黄青緑黄赤緑青

×△○□□△×○



「三番目のスイッチは、四と七のヒントから分かるよ。ついでに、最後のスイッチもね」


『4・黄の隣には押してはならないスイッチが一つ存在する。

 7・三番目に押すスイッチは○の間に無く、○でも無い』


 この二つ、そして残りのヒントに従うと、最終的な図は下記のようになる。


×32×14××

赤黄青緑黄赤緑青

×△○□□△×○


「これが多分、正解だと思うよ!」




 それから。僕達が意を決してスイッチを順番に押すと、先へ続く扉が電気の走る音と共に見事開いた。


「やった! 当たりだったのじゃ!」


「……君の考えが間違ってなくて良かったよ」


 小躍りする薬売りとは対照的に、騎士の少年はホッと胸をなで下ろした様子で言った。


「とにかく、だ。せっかく道が開いたんだ。進めるだけ、先に進んでみよう」


 新たに出現した通路に出ると、そこは今までと比べ、更に異質な様相を呈していた。道幅は広く、金属で出来た妙な管が床から壁から天井から、至る所に存在している。ランプなど照明の類は設置されておらず、周囲は薄暗いものの、そこらかしこからパチパチと電気の弾ける音と光が迸っていて、それらが生まれては消えていく光景が貴重な灯りとなっていた。


 だが、最も僕達の興味をそそったのは、床が微妙な下り坂になっている、という事だろう。


「あれ? ここって地下があるの?」


 僕がが首を傾げながら言うと、セディルもまた不可解そうな面持ちで、


「そんな話は初耳だな……」


「あ、うちは噂で聞いた事があるのじゃ」


 甲高い声を出した薬売りに対し、騎士は眉をひそめて、


「噂? 一体どこでだい?」


「ちょっとした探し物で各地を巡っていた時、同じ宿に泊まっていた旅人から聞いたのじゃ」


 探し物とは恐らく、彼女がずっと集め続けている薬の材料の事だろう。メノ曰く、『雷の迷宮』についての情報も同じ人物から高値で仕入れたものらしい。本当はその旅人に護衛を務めてほしかったそうなのだが、行き先がまるで違ったので諦めざるを得なかったのだそうだ。


「へえ、そんな事情があったんだ」


「うむ。じゃから都で護衛を募集していたというわけじゃ」


 薬売りは深い嘆息をついて、


「うちも色々と、苦労者での」


「た、大変だね……」


 むしろ、苦労を周囲に振りまいているように思えるのは気のせいだろうか。そんな事をふと思った僕は、自然と苦笑していた。


 そんなこんなで、僕達は迷宮の探索を再開した。だが不思議な事に、外界と遮断されていたにも関わらず、地下通路には数多くの魔物が潜んでいた。しかも、今まで遭遇したものより強力な類がわんさかといて、僕達は苦戦しつつ何とかそれらの猛攻を退けた。安心して前衛を任せられるセディルと、メノ手作りの速効薬には随分と助けられた。僕自身も習得したばかりの地魔法を操って戦ったが、きっと一人だけだったなら呆気なくやられていただろう。それだけ敵は強かった。


――フォドとノルスは大丈夫かな。


 電気そのものといった風貌の怪鳥の群れを撃破し、ほっと一息ついたところで、僕はふと別行動を取っている二人の事が気にかかった。幾ら熟練した剣の腕を持つ彼らでも、この迷宮に生息している魔物達を倒すのは相当骨が折れるに違いない。一人でも頭数の惜しい現状では、ミレナとエリシアを連れてこなかった事すら悔やまれた。


――二人とも、今頃どうしてるんだろ……。


 可愛らしい制服に身を包み、接客に勤しんでいるだろう彼女達の姿を思い浮かべながら、僕は果てなく続く暗闇の回廊を仲間達と共に注意深く歩き始めた。

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