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「これは……」


「恐らく、古代文字の一種だろうね」


 呟いたメノに対し、セディルは神妙な面持ちで文章を眺めながら言った。


「城の書庫で調べ物をしていた際、同じようなものを何度か目にした事があるよ」


「なら、読めるのかの?」


「いや、それは無理だ」


 薬売りの問いかけに、騎士は小さく首を振って、


「王国の歴史を調べている学者達でも、こういった文章を解読出来るのはほんの一握りだ。それに、多少の単語はその意味がおおよそ判明しているとはいえ、殆どは未だ推測すらもつけられていない。仮に知識ある人間をこの場へ呼んだとしても、ここに刻まれてある長文を理解出来る者が何人いるか」


「じゃあ、ここから先へ進むのは諦めた方が良さそうじゃな」


「そういう事になるね。残念だけど、一旦引き返して別の道を」


「あの」


 二人の間で方針が決まりかけそうになったので、僕は慌てて言った。


「僕、これ読めるよ」


 途端、セディルは驚いたように目を瞬かせて、


「……君が?」


 彼の問いかけにコクリと頷いた、その時。メノは何かを思い出したような面持ちで両手をポンと合わせ、


「あっ、そういえばロルダ山脈でも、お主は同じような文字を解読しておったの!」


「……じゃあ、僕達に分かるようにこの文章を訳してくれないか?」


「うん、分かった」


 未だ半信半疑の様子でいる騎士と、彼とは真逆に期待のこもった眼差しを向けている薬売りに、ボクは金属で出来た台に彫られている文字を普段使っている言葉で読み上げた。それと並行して、自分の中でも問題文をもう一度確認する。




『これらのスイッチのうち、四つを定められた順番に押せ。さすれば先へ進む扉は開かれ、一つでも間違えれば退路が断たれる。順番に関しては、次の文章を参考にせよ。

1・緑の隣には押さなければならないスイッチが一つ以上存在する。

2・赤には押してはならないスイッチが一つ以上存在する。

3・青の右隣は押してはならない。

4・黄の隣には押してはならないスイッチが一つ存在する。

5・一番目に押すスイッチは□の形状。

6・二番目に押すスイッチは△の間。

7・三番目に押すスイッチは○の間に無く、○でも無い。

8・四番目に押すスイッチは×と隣り合わせ』




 全てを訳し終えて、しばらく経った頃。メノは小首を傾げながら、


「要するに……この問題を解けば、先に進めるって事かの?」


「彼の言が正しいとすると、そんな意味合いらしいだね……ただ」


 と、セディルは神妙な面持ちで文面を見つめながら、


「ここに『一つでも間違えれば退路が断たれる』と書いてある以上、下手に押したら命取りになるかもしれない」


「つまり、この部屋に閉じこめられてしまうのじゃな……」


 発言しつつ、メノは恐々と言った様子で後ろを振り返った。僕もまた彼女につられてそちらの方に視線を向ける。部屋の出入り口は開きっぱなしだが、左右に金属で出来た引き戸のような物が見受けられた。もしかすると、問題を間違えた途端に、あれが動いて外への脱出口を閉ざしてしまうのかもしれない。


「とにかく、そうと分かったら話は別だ」


 セディルは僕と彼女を交互に見つめて、


「スイッチの順番について考えてみよう。それさえ分かれば、先に進めるんだから」


「うん、そうだね」


 だが、彼の提案から程なくして。全員がそれぞれ物言わずに考え込んでいた最中、


「あー! こんなの分かるわけないじゃろ!」


 と、メノが両手を天井に向かって突き上げながら大声を上げた。


「頭の中がゴチャゴチャこんがらがって、どうにもならん!」


「メノって、薬を調合したりするんでしょ? こういうのも得意そうだけど」


「薬売りになるのに、トンチの知識なんているわけないじゃろ!」


「……なるほど」


「けど、確かに僕達には荷が重いね」


 眉を潜めて苦心していた様子のセディルが、僕をチラリと見つめながら、


「まぁ、君の方はだいぶマシだろうけど」


「どういう事?」


「だって、君は問題文をいつでも確認出来るじゃないか」


 彼は、はぁ、と小さな溜息をついて、


「けど、僕や彼女は肝心のヒントを見直す事すら出来ない。ここには書く事の出来るものも見当たらないし、僕達だって持ち込んでいないだろう?」


「あ、そっか」


 それは尤もな意見だ、と思った。となると、ここは僕がどうにかして、スイッチを押す順番を突き止めるしかないだろう。


 ――でもなぁ。僕だって、一見じゃ全然分からないよ。


 取りあえず、情報だけでも整理してみよう。重たい気分を無理矢理に押し上げて、僕は台の上のスイッチ群を眺めた。


赤黄青緑黄赤緑青

×△○□□△×○


 最初に、一番目のスイッチに関するヒントを思い返す。


『一番目に押すスイッチは□の形状』


 ――って事は、可能性があるスイッチはここか。


   !!

赤黄青緑黄赤緑青

×△○□□△×○


 次に、二番目に関するヒントだ。


『二番目に押すスイッチは△の間』


 ――それは、ここの間で……結構、一番目と重複してるなぁ。


  !!!

赤黄青緑黄赤緑青

×△○□□△×○


 続いて、三番目。


『7・三番目に押すスイッチは○の間に無く、○でも無い』


 ――こっちはかなり移動したぞ。


!!

赤黄青緑黄赤緑青

×△○□□△×○


 最後に、四番目のスイッチの在処。


『四番目に押すスイッチは×と隣り合わせ』


 ――これは結構バラバラになってる。


 !   ! !

赤黄青緑黄赤緑青

×△○□□△×○


 ――後は、色に関するヒントを考えれば……。


 こうして、僕はじっくりと時間をかけながらスイッチの順番を一つ一つ解き明かしていった。

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