18
ノルス達と別れ、僕達は通路を歩いていく。奇妙な構造をした遺跡内はやはり不気味で、自然と探索も慎重になっていた。
「しっかし、本当に変な所じゃの」
金属性の壁に取り付けられていて、時折に点滅する怪しげな装置の数々を興味深げに見つめながら、メノが口を開いた。
「一体、どんな原理でチカチカしてるんじゃろうか」
「恐らくは魔力で動いているんだろうね。」
警戒の視線を前方に向けたまま、セディルが答えた。
「この近辺には空気中の雷魔力の濃度が高いからね。それを利用して、稼働しているんだと思うよ。制御する人が皆無になってからも、ね」
「なるほど、過ごしやすい環境が整っているからこそ、魔物達が住み着いているというわけじゃな」
「けど、不思議だね。どうして、この場所に魔力が溜まっているんだろう」
「さあ、そこまでは僕も知らないよ……敵だ!」
突然、セディルが叫んだので、僕の身は自然と強ばった。しかし、通路の影から飛びかかってきた何者かの姿を捉え、反射的に剣を構えてバックステップする。メノもまた、
「うひゃあ!」
と驚いたような叫び声を上げて、一目散に僕達の後ろへと逃げていった。僕は息を整えつつ、襲撃者を観察する。
――トカゲ?
一見して、まずそんな感想を抱いた。ただ、サイズは小柄な大人くらいあるだろうか。濁った緑に黄色い線の入った体色をしているのが印象的だ。胴体と同じくらいの長さをした太い尻尾には、まるで威嚇するようにビリビリと電気が走っている。
間違いなく、魔物の類なのだろう。
「電撃ビリビリ大トカゲか……」
相手から視線を逸らさず、セディルは神妙な口調でそう洩らした。発言とのギャップが面白く、僕は彼のやや後方で大剣を構えたまま、たまらず吹き出した。途端、振り返った騎士は僕をジロリと睨みつけ、
「今、笑ってる場合じゃないんだけどね」
「ごめん、なんか面白いっていうか、そのまんまなネーミングだと思って」
「確かにふざけた名前だけど、危険な魔物なんだ。油断していると痛い目に遭うよ。この魔物は……」
セディルが皆まで言い終わらないうちに、『電撃ビリビリ大トカゲ』なるモンスターは再び飛びかかってきた。電気をまとわりつかせた尻尾をまるで鞭のようにしならせ、彼へと振り下ろす。
「くっ!」
セディルは敵の攻撃を大槍で受け止めた。忽ち、電撃が武器を伝って彼の全身へと流れていく。騎士は歯を食いしばって体を襲う苦痛を耐え、次の瞬間、
「はあっ!」
と、勇ましい掛け声と共に槍を突き出した。繰り出された鋭利な先端は逃げようとした化け物の腹部を見事に貫き、周囲には少なくない量の血が飛び散る。
すぐさま彼が槍を引き抜くと、魔物は力無く通路に倒れ、身動き一つしなくなった。どうやら、先ほどの一撃で絶命したらしい。
「ほほう、お主。なかなか強いんじゃの」
「まあ、僕が本気を出すとこんなものさ」
感嘆を口にしたメノに対し、セディルは得意げな表情で胸を張った。チラリと僕を見た目には、どうだ、と言わんばかりの自信満々な感情が明らかに灯っていた。
それから。何度か魔物に遭遇しながらも難なく撃退し、僕達は順調に探索を続けていた。
そして、一つの部屋にたどり着く。
「あれ、また行き止まりじゃの」
首を傾げた薬売りの視線の先には、固く閉ざされた扉があった。近づいたセディルが手をかけるが、押しても引いてもビクともしない。
「うーん、どうやらこのままじゃ開かないみたいだ」
「ねえ、あれは何かな」
部屋の中央に位置する銀色の台の上に奇妙な物を見つけ、僕は二人に呼び掛けた。近づいてみると、どうやら備え付けのスイッチらしい。恐らく、扉を開くための鍵だろう。しかし、先ほどノルス達と分担して押したスイッチとは、また異質だった。まず、数が八つもあり、一列に並んでいる。次に、色がそれぞれ、赤、緑、青、黄と異なる。最後に、形状もまた、丸、三角、四角、バツとバラバラだ。
表にして示せば、ちょうど下記のようになる。
赤黄青緑黄赤緑青
×△○□□△×○
「なんじゃ、コレは?」
メノは眉を潜めて、
「とにかく、全部押していけば扉が開くんかの?」
「いや、こっちを見なよ」
何かを見つけたらしいセディルが、台の隅を示す。彼の指先を追うと、金属の上に彫ってある文字が目に入った。
『これらのスイッチのうち、四つを定められた順番に押せ。
さすれば先へ進む扉は開かれ、一つでも間違えれば退路が断たれる。
順番に関しては、次の文章を参考にせよ。
1・緑の隣には押さなければならないスイッチが一つ以上存在する。
2・赤には押してはならないスイッチが一つ以上存在する。
3・青の右隣は押してはならない。
4・黄の隣には押してはならないスイッチが一つ存在する。
5・一番目に押すスイッチは□の形状。
6・二番目に押すスイッチは△の間。
7・三番目に押すスイッチは○の間に無く、○でも無い。
8・四番目に押すスイッチは×と隣り合わせ』




