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17

 騎士の側に近づくと、正面からでは伺えなかった装置に構造に気がついた。恐らく、彼はあれに気づいて僕達を呼んだのだろう。


「見てくれよ、スイッチだ」


 セディルは得意げな調子で手元を示しつつ、


「きっとこれは、あの通路の奥へ進む為の仕掛けに違いないと思うね」


 と、激しく振動している電流を見つめながら言った。


「じゃあ、取りあえず押してみるか?」


「何を馬鹿な事を言ってるんだ。不用意に触れたら何が起こるか分からないじゃないか」


「馬鹿言うな! このまま突っ立っててもしょうがねえから、一応提案してみただけだっつーの!」


 フォドとセディルの言い合いを聞きながら、僕はふとこんな事を思った。


――もし彼女がいたら、真っ先に押してたかもしれないなぁ……。


 とにかく。それから僕達はしばらく話し合ったのだが、やはり行動してみなければ何も始まらないという事で、試しに押してみる事にした。


 しかし。


「……何にも起きないのじゃ」


 代表でスイッチに手を伸ばしたメノが、首を捻りながら言った。彼女の言う通り、僕達の通行を妨げている電気は未だ途切れる事なく流れている。その他、灯りが消えたり隠し通路が出現するなど、室内に目立った変化は何も起こらなかった。強いていえば、押した瞬間、装置が僅かに振動したくらいか。


「これ、もうぶっ壊れてるんじゃねえのか?」


 フォドが存在感抜群埃被った装置をしげしげと眺めながら、


「もう、かなり年期入ってるみたいだしよ」


 その言葉を受け、仕掛けを慎重に調べていたセディルは、


「いや、さっき押した時には反応したじゃないか。やっぱり、ここには何かあると思うね」


 と、真っ向から反論する。


「何かって、何だよ」


「それを今から見つけるんじゃないか」


「俺、そういうのは苦手なんだよなぁ……」


 フォドは溜息混じりに呟きつつ、頭を掻いた。


「じゃあ、取りあえず手分けして部屋の中を調査しよう」


 ノルスの鶴の一声で、僕達は室内に散らばり先へと進む為のヒントを探す。程なくして、


「あっ! こっちにも同じようなのがあるのじゃ!」


 と、反対側からメノの叫び声が上がった。反応して彼女のところに赴くと、確かに装置の側面に同じようなスイッチがある。


「取りあえず、押してみてはどうですか」


「う、うむ」


 セディルに促され、彼女が再び指でスイッチを押す。カチッという音と共に低い振動が響きわたったものの、やはり何も起こらない。


「……やっぱ、壊れてるんじゃね?」


 フォドが肩を竦めていった、ちょうどその時。僕の頭に、一つの考えが浮かんだ。


「もしかして、スイッチ同士が連動してるんじゃないかな。同時に押さないと反応しないとか」


 途端、四人は、ああ、と小さな呟きを洩らした。


「なるほど、そうかもしれないね」


「それじゃ試してみようぜ」


 そう言って、ノルスとフォドが歩いていく。僕、セディル、メノはその場に残り、二人が右側のスイッチの所まで到着するのを待った。


「レン、こっちは準備オーケーだ」


「じゃあ、一、二の、三で押そう」


 一、二の、三。お互いに大声で確認しつつ、僕達は同時にスイッチを押した。


 途端、装置は今までよりも強く振動し、室内にも大きな変化が生じた。迷宮の奥に続く通路への進行を妨げていた障害が消失したのだ。それも、右側と左側、両方である。


 だが、もう一つ。喜ばしくない異変も起きてしまった。


「これじゃ、合流出来ないな……」


 今度は部屋に流れ始めた電気の渦を眺めつつ、セディルが顔をしかめて呟いた。電流はちょうど、通ってきた通路への道、僕達のいる場所、そしてノルスとフォドがいる対面の空間を三等分するかのように張り巡らされている。


 つまり、スイッチを押した状態では分散して行動しなければならず、更に道を戻る事も出来なくなるというわけだ。


「おーい、無事か?」


 向こうから、フォドの心配そうな声が届いてくる。


「うん、こっちは無事だよ。そっちは?」


「俺達の方も心配ないぜ。戻れなくなっちまったけどな」


「それは僕達も同じだ」


 と、セディルが口を開いた。


「この先へ行くとなると、全員での行動は無理みたいだね」


 ややの間をおいて、ノルスが提案した。


「……よし、じゃあこうしよう。俺とフォドでこちら側のルートを探索してみる。そっちの通路は三人で調べてみてくれ」


 ノルス達の方が人数少ないけど、大丈夫。そう口にしようとしたが、すぐに思い直した。実際の戦力的には大差ないような気がしたからだ。メノは戦闘員としては期待出来ないし、僕も前線で戦うようなタイプじゃない。そう考えると、分厚い鎧を身に纏うセディル、魔法攻撃役の僕、道具持ちのメノというパーティーと、前線で身軽に戦えるノルスとフォドのコンビという組み合わせは、なかなか理にかなっている感じがする。


 異を唱える者は皆無だった。お互いに言葉を掛け合った後、僕達は同時にそれぞれの通路へ足を踏み入れたのだった。

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