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「ミレナさんが来ないだって!?」


 爽やかに照りつける朝の日差しの下、セディルはショックに満ち溢れた絶叫を上げた。広場を行き交う人々が、いきなり奇声を上げた金色の若き騎士を訝しげにチラリと見つめながらも、物も言わずに通り過ぎる。


「一体どういう事だ、それは!」


「どういう事って、さっき言った通りだっつーの」


 先ほど事情を説明したフォドは戸惑うように肩を竦める。彼の方はというと、しばらく放心状態で突っ立っていたが、やがてハッと我に返り、僕を血走った眼でキッと睨みつけると、


「まさか……君が謀ったんだな!」


「い、いや。僕は全く関係ないよ」


「どうだか」


 僕の弁解に対し、彼は不服そうに鼻を鳴らして、


「大方、その気になったミレナさんを唆したりしたんじゃないのか?」


「ハハハハ、ヤダナァ。ソンナコト、スルワケナイジャン」


 その事ズバリとつつかれ、動揺した僕の口からは乾いた言葉が発せられた。


「片言とは随分と怪しいな……」


「まあ、そんなに気にしなくてもいいじゃないか」


 険悪なムードになっている僕達を取りなすように、ノルスが困ったように頬を掻きながら口を開いた。


「人助けならしょうがないし、ここにいるメンバーだけでも探索の戦力としては充分さ。危なくなったらすぐに引き返して、後日改めて赴けばいいんだしね」


「そうじゃそうじゃ」


 僕らの依頼主であるメノは彼の言に頷きつつ、


「うちも目的の物品さえ手に入ればそれだけで良いのでの。下らない喧嘩は止めて、とっとと出発じゃ!」


 彼女の鶴の一声で、僕達はようやく広場を後にしたのだった。




「そういえば、久しぶりに都を出た気がするよ」


「だな。ここに到着してから随分と経つし」


「うん」


 フォドと会話をしながら、後ろを振り向く。随分と歩いてきた広大な平原の向こう側に、魔物の侵入を阻む堅牢な外壁に囲まれた王都の姿があった。謎のダンジョンでの冒険やミレナとの二人旅、そしてエリシアを護衛して過ごした長い日々が、今では相当昔の事のように思えてくる。あの城下町に着いてからも、色々な事を経験した。国王に伝えられた謎の予言、占い師の力で判明した自らの名前と力、貧しくも逞しく生きる少女との出会い、父親によって明かされた彼女の過去、名高い大会で繰り広げた死闘、急に降ってわいてきた借金話。


――この調子だと、のんびりとした日常が帰ってくるのはまだまだ遠そうだなぁ……。


 目的地に向かって野宿生活を営んでいた頃の方が、精神的にはまだゆとりがあったような気がした。


 そんな事を頭の中で考えつつ、南の方に位置するという遺跡を目指し、先導役である薬売りの後に続いて僕は進み続ける。勿論、人の住む地を離れて移動している以上、安全な道中とはいえず、当然ながら獰猛な獣や魔物の類と何度も遭遇した。しかし、五人という大所帯でパーティーを組んでいる事もあり、戦闘自体は比較的楽に行えた。フォド・ノルス・セディルと、近接戦闘の得意な人員が過半数を占めていたのも影響しているのだろう。傷を負った者にはメノが無償で薬を提供していた事もあり、僕達は順調に歩を進めていく事が出来た。


 そして、草原の中を長い時間をかけて歩き続け、僕達はようやく問題の遺跡に到着した。


「うわあ……」


 眼前の光景に、僕は自然と感嘆の声を上げていた。自然溢れる野原の直中ににポツンと聳える、場違いな何か。外装を余す事無く植物の蔦に覆われているものの、その形状からして、人為的に手を加えられた建造物である事は明白だった。だが、そのサイズが尋常ではない。ひょっとすると、都の建物で最も巨大な王城に匹敵する程かもしれない。いや、ともするとそれ以上か。


「噂には聞いていたけど、やはりデカいな……」


 緑一色の建造物を見上げながら、隣のノルスが口を開いた。


「僕も実際に来たのは初めてだ」


「え、お前ら一度もここまで来た事無かったのか」


「当たり前じゃないか。都からここまで、だいぶ距離があっただろう?」


 フォドに対し、セディルは半ば呆れているような口調で、


「こんな辺境までわざわざ足を伸ばすような奴は、よほどの物好きか変人、もしくは冒険者だと相場が決まってるよ」


 まあ、確かにメノは『よほどの物好き』といえるかもしれない。


 その、『よほどの物好き』が言った。


「じゃあ、まずは入り口を探すとするかの」


「え、そっから始めなきゃいけないのかよ」


「当然じゃろう。うちだってこんな辺鄙な所、今まで用が無かったんじゃから。ほら、さっさと行動じゃ行動」


 遺跡に近寄って、周囲をグルリと回ってみる事になった。約半周したところで、ようやく扉を発見した。その部分だけ蔦が殆ど取り払われているところを見ると、前にここを訪れた者達が除去していたのだろう。


「さて、準備はいいかの?」


 メノが振り返り、全員に問う。僕達は互いに目配せし合った後、ほぼ同時にコクンと頷いた。




 こうして。僕達は遂に『雷の迷宮』へと足を踏み入れたのだった。

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