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 それからノルスの話した内容は、とても興味深いものだった。


 現在は魔物の巣窟と化した雷の迷宮。民衆の間ではその存在理由が謎に包まれているものの、城の書庫にはその建造物に関する古代の文献が僅かながら遺されている。その貴重な資料によると、あの場所には王都一帯の気象その他に干渉出来るだけの強力な術式が存在しているのだそうだ。城下町に出回っている噂のように、かつての王国が天気を制御して人々の暮らしに役立てようとしていたかは定かではない。とにかく重要なのは、未だ遺跡に保たれているであろう『術式』にそのような力が秘められている可能性がある、という事だ。


 王都トルヴァーラで連日のように続いている悪天候。宮廷魔術師達が総出で力を振り絞っているにも関わらず、事態は一向に解決の日差しを見せない。このあまりに不可解な現象の影には、第三者の力が関わっていると考えた方が自然だ。そこで城の役人、貴族、将軍達は都の南に位置する雷の迷宮で何らかの異変が起きているのではないかと考え、国を救った勇者にその場所の調査を要請したのだった。


「ただ、俺一人でモンスターだらけのダンジョンに向かうのは危険だと思ってね。フォド達は借金返済で忙しそうだし、それでセディルに同行を頼んでいたってわけさ」


「……その調査に僕達がついていったら、お礼に大金を頂けたりはする?」


 頭に浮かんだ疑問を訊ねると、ノルスは小さく笑って、


「勇者の仕事はボランティアみたいなものさ、ろくに報酬は貰えないよ。セディルは将軍達に自分の力を示す良いアピールになるだろうけどね」


「そ、そうなんだ」


 案外、勇者というものは苦労の割に合わない職業なのかもしれないと、ふと思った。


「けど、それなら丁度いいぜ。なあ、レン」


 と、フォドは名案を思いついたとばかりに笑みを浮かべて、


「この際、ノルス達も誘おうぜ。どんなタチの悪い罠や魔物に出くわすか分からないし、仲間は多い方が安心だしな」


「ん? つまり、君達もあの遺跡に向かう事情があるのかい?」


 彼の言葉を聞いたセディルが眉を潜めて訊ねてくる。僕達がメノから受けた依頼と明日の探索について説明すると、ノルスは、ああ、と両手をパチンと叩いて、


「何だか聞き覚えがある名前だと思ってたけど……いつか話に出てきた、ロルダ山脈で出会ったっていう薬売りの女性だね」


「そうそう、その人だよ」


「なるほど、確かに名案かもしれないね」


 腕組みをしたセディルは神妙な面持ちで口を開いた。


「騎士団の人員を割けないからしょうがないとはいえ、僕達も二人きりでは戦力が心許ないと思っていたところだったんだ」


「じゃあ、手伝ってくれるんだね」


 僕がそう話しかけると、彼は両目を閉じ、不適な笑みを口元に浮かべて、


「勿論さ、ミレナさんと一緒に遠出が出来るせっかくの機会だからね。有り難く申し出は受けさせてもらうよ」


「ああ、そういう事……」


 どこまでもそっちの方向に思考を持っていくんだなあ、と僕は半ば呆れてしまった。


「ま、レン君は安心して後ろに下がってるといいよ。彼女の身の安全は、僕が騎士の誇りにかけて守るから」


 ――何でイチイチ突っかかってくるかなぁ……。


 何はともあれ。こうして僕達は共同で明日の探索に臨む事になったのだった。




 その日の夜。宿に戻って食事を取りにいくと、席には既に女子二名の姿があった。日中の別れ際に起きた出来事のせいか、僕とフォドに対し気まずそうな表情を浮かべている。


 しかし、その態度にまた別の感情が含まれている事を知ったのは、野菜たっぷりのスープを味わいながら、僕達がノルスとセディルの同行について話していた時だった。


「あの、ね」


 顔を伏せたミレナは彼女に似合わないおずおずとした調子で口を開くと、僕とフォドをチラチラ交互に見つめながら、


「アタシとエリシア、明日の探索に同行出来ないかも……」


 詳しい事情を聞くと、昼間に働いていた例のデザート屋で、またもや急な欠員が出てしまう事になったらしい。そこで店長から、翌日も再び臨時バイトとして働いてもらえないかと頼まれてしまったのだそうだ。今日の売り上げが普段に比べて良かった事もあり、今度は給料も賄いも奮発してくれるのだという。


「店長さんがすっごく困ってて、私達も強く断れなくて……」


「ほら、明日はアタシ達だけじゃなくて、二人にもお土産に幾つか持って帰ってくるから……」


 二人の発言は平常の時と比べて、明らかに歯切れが悪かった。フォドは彼女達を複雑そうな表情で、


「え、えっと。エリシアちゃん達がそんなに気を遣わなくていいんだぜ? 元々、こうなったのは俺の責任なんだし」


「そうそう、二人が気にする事ないよ」


 僕もまた、好機を逃さず口を開いた。


「僕達だけじゃなくて、ノルス達も一緒に行くんだし。戦力的にはプラマイゼロだし、同時に二つの依頼を達成した方が結果的には効率がいいと思う。気兼ねしないで、店に行って働いてきなよ……って、どうしたの?」


 三人がやけに目を丸くしているので、僕は首を傾げながら訊ねた。やがて、


「いや、なんか」


 と、フォドが頬を掻きつつ、悪いものでも食ったのかとでも言いたげな眼差しで問いかけてくる。


「お前、変に饒舌になってねえ?」


「え……そんな事ないと思うけど」


 内心ヒヤヒヤとしつつも、僕は平静を装ってそう答えたのだった。

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