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あれから。イルラミレのお陰で手に入れた大金を手に、ワズリースと別れた僕達はフォドが遊びまくっていたカジノへと向かい、金貸しでもある店主に借金を返済した。その後、宿に戻り昼食を済ませ、これからの事について再び議論を重ねた。だが結局、手っとり早くお金を稼ぐにはやはり依頼掲示板しかないという結論に至ったのだった。
そして、翌朝。軽めの食事を済ませた後、僕はフォドと共に掲示板のある広場へと向かっていた。ミレナの発案で、僕達は二人ずつに別れてお金を稼ぐ事になったのだ。グループ分けは男同士と女同士という、実に単純なものである。また、これも彼女の提案なのだが、効率よい報酬の依頼を見逃さないため、それぞれ別々の場所で依頼をこなしていく予定だ。
「はぁ……初めて自由のない生活を送っている気がするぜ」
出店の並ぶ通りを歩きながら、フォドは沈みきった溜息をついた。
「悔やんでもしょうがないって。気を取り直して、借金返済頑張ろうよ」
慰めの言葉を掛けつつ、僕は空を見上げる。彼の気持ちをそのまま表現しているかのように、どんよりした雲が視界一杯に広がっていて、地に降り注ぐ筈の日光を殆ど遮ってしまっていた。その所為か、活気のある町並みも普段より暗く感じられる。尤も、行き交う人々の数は全くといって差し支えないほどに変わっていないのだが。
「うう……虫が良すぎるのは分かってるけどよ、どうせなら全額タダにしてくれりゃあ良かったのに」
虫が良すぎるのは分かっている、という事は、頭では理解していてもついつい愚痴を吐いてしまいたくなるくらいの心境なのだろう。
――フォドも結構、思い詰めてるみたいだ。
「ま、まぁ。利子がつかないだけでも有り難いと思おうよ」
「そうだよな、そう考えるしかないよな」
彼は自らに言い聞かせるように、何度も頷く。そうこうしているうちに、僕達は目的地に到着していた。広場の片隅に大きな立て札を見つけ、歩み寄る。前に他の町で依頼を探した時と同様、木製のボードには大小様々な紙が張り付けてあった。その中に手頃にこなせる依頼はないか、僕は視線を巡らせる。最初に目に入ってきたのは、こんな頼み事だった。
『家を引っ越す予定なのですが、人手が足らなくて困っています。どなたが手伝って頂けませんでしょうか。大したお礼は出来ませんが、私は帽子店を経営しておりますので、お望みでしたらお好きな店の帽子を一人一個ずつ差し上げます』
引き受けやすいといえば引き受けやすいが、お金に窮している現状、帽子を貰ってもしょうがない。小さく首を振り、その隣の大きな紙に視線を移す。
『ままがかってくれたおもちゃあとしてしまいました。かなしいですだれかさがしてばくのところにもってきてくたさい』
どうやら、小さな子がオモチャを落としたショックで張り紙をしてしまったらしい。探してあげたい気持ちは山々だが、ヒントも宛名もなければ引き受けようがない。微妙な気持ちになりながら、またまた別の依頼へ目を向ける
『私の実験に協力してくれる方を募集します。報酬は一千万ゴールドです』
実にシンプルで金額も申し分ないが、それだけにどこか不気味な印象を抱く。うまい話には裏があるというし、取りあえずスルーしておく事にした。フォドだって、こんな得体の知れない依頼は引き受けたがらないだろう。
そろそろ普通っぽいのがこないかなぁ、と思いつつ、次の依頼だ。
『魔法を覚えてみたいのですが、周りに教えてくれる人がいないので困っています。どなたか、私に魔法を教えて頂けないでしょうか。報酬は話し合いで決めさせて頂きます。
追記:二十代以下で彼氏がいない魔女の方のみ募集します。面接有りです。当方のスペックは……』
「……こういうの、もしかして流行ってるの?」
デジャブを感じ、僕は思わず呟いてしまっていた。
それから様々な文章に目を通してみたのだが、一向にマトモな仕事は見つからない。これはもしかするとあの一千万ゴールドの依頼を引き受けた方が一番マシなのかな。うんざりした僕がそんな事を考え始めた頃だ。
「おっ」
と、隣でフォドが小さく声を上げた。すかさず僕は訊ねる。
「どうしたの?」
「これとか、どうよ」
彼が指さしたメモ用紙に、僕は目を通す。
『家の地下倉庫に、魔物が住み着いてしまったみたいです。あまり強そうではないのですが、かなりの数がいるようで、家族一同、対処に困っています。どなたか、駆除して頂けないでしょうか。報酬は五千ゴールドです』
「あっ、これ良いね」
ようやくマトモな頼み事を目の当たりにし、僕は歓喜にも似た感情を抱きながらも口を開いた。借金の額と比べると微々たるものではあるが、それでも五千ゴールドはかなりの金額だ。十分に引き受ける価値はあるだろう。一度、問題の地下倉庫を確認してみて、退治が厳しいなら無理せず諦めればいい。ただ、それだけの事なのだから。
「じゃ、この家に取りあえず行ってみるか」
「うん、そうだね」
こうして、僕達は紙に書かれている住所へと足を向けたのだった。




