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調べ物があるというノルスを城に残し、ワズリースに連れられて僕達が到着したのは、日数が立ちすぎて最早愛着すら湧き始めている城下町だった。
「こ、このパターンはもしかして」
「何よ、どうかしたの?」
思わず独り言を洩らしていた僕を、ミレナが訝しげな眼差しで見てくる。僕は肩を竦めて、
「いや、何だかデジャブっていうか、こうなってくるとやっぱりあの人なのかなとか思ったりとか」
「はぁ?」
「あ、いたいた」
彼女が素っ頓狂な叫びを上げるのと、ワズリースが嬉しそうに呟いたのはほぼ同時だった。
「彼女が例の『知り合いのお金持ち』さ」
彼の指先が示しているのは、通りの端に即席の怪しげな店を構えている、如何にも占い師っぽい格好の女性。対面の椅子には客と思しき若い男性が座っていた。何故か、手の平を広げて彼女に差し出している。
――やっぱり、イルラミレさんなんだ。
予想が当たって嬉しい気持ちが半分、彼女の素性に関して疑問に思う気持ちがもう半分。彼女の店へと近づいていくと、繰り広げられている会話も自然と耳に入ってくる。
「うーん……かなり宜しくないわね。正直に言うけど、貴方死ぬかも。それも、一ヶ月以内に」
「ええっ!? どうにかならないんですか!?」
「そうね、この特別なお守りを肌身離さず持ち歩いていれば大丈夫よ」
「そ、そうなんですか……値段はおいくらで?」
「本当なら五十万ゴールドは下らないけど……特別価格で五百ゴールドに大まけしてあげる。命落としかねない人を、流石に見捨てられないしね」
「あ、ありがとうございますっ!」
ペコペコと頭を下げて代金を払い、受け取った品を両手で大切そうに握りしめ、客の男は町中へと去っていく。それを見届けた後、様子を見守っていた僕達は店へと歩み寄る。彼女の方もこちらの存在に気がついていたらしく、小さく手を振ってきた。
「何とも物騒な占い結果だったじゃないか」
ワズリースが開口一番に言うと、イルラミレは苦笑して、
「私も驚いたわよ。あんなに手相が悪い人、今まで見た事がなかったんだから」
「詐欺じゃないわよね」
と、ミレナがジト目で占い師を睨みつける。彼女はその口撃を笑って軽く受け流した。
「あら、失礼ね。私の占いは殆ど当たるって評判なのよ」
それに、とイルラミレは人差し指を天に向け、
「詐欺は引っかける方だけじゃなく、引っかかる方にも多少の問題があるのよ?」
僕の傍らにいた少年の心に、グサリ、と鋭い言葉の刃が刺さった音がした。あら、とイルラミレはガックリとうなだれるフォドを不思議そうに見つめて、
「まさか、引っかかっちゃったの?」
「その『まさか』なんだよ」
かくかくしかじか。ワズリースが代表して事情を説明すると、彼女は哀れみのこもった視線を絶賛意気消沈中の少年へと向け、
「あらあら、それは災難だったわね」
と、呟くように言った。
「それで、私がこの子達から相談を受けたわけなんだ」
「なるほどね、会いに来た理由は何となく察しがつくわ」
「話が分かって助かるよ」
ワズリースはフォドの背を軽く叩き、
「どうだろう。君の力でこの少年を救ってやれないだろうか」
「ここまで知って、嫌って言うわけにもいかないじゃない。目覚めが悪くなるのはゴメンよ」
イルラミレは小さく溜息をつくと、何処からかドバッと札束を取り出した。急に大金が眼前に現れ、彼女自身とワズリースを除く僕達は驚愕する。町を行き交う人々も好奇の視線を彼女へ浴びせていた。
「一体、どこにしまっていたんですか?」
目を見開いたエリシアの質問に、当の本人は茶目っ気たっぷりにウインクをして、
「それは内緒よ」
と、どこか含むような口調で言い、フォドに札束を押しつける。彼は自身の手の内に渡った返済金を呆然として眺めた後、
「マ、マジでくれんのかよ!?」
と、大声でイルラミレに問いかけた。すると彼女はニコッと笑って、穏やかだが凄みのある声色で告げた。
「いいえ、利子は無しで構わないけど、後でしっかり全額返済してもらうわよ」
「う……結局は返さなきゃならねえのか」
「まあ、そんなに旨い話は世の中そうそうないって事さ」
「大体、利子がつかなくなるだけでも大助かりでしょうが。感謝しなさいよ」
再び沈んだ表情に戻りつつある少年に、親子が声を掛ける。一方、エリシアは可愛らしく頭を傾げ、
「じゃあ、やっぱりどうにかしてお金を稼がなきゃならないって事ですよね」
と、全員を見回しながら発言する。僕は首を縦に振って、
「うん、そうだね」
と彼女に同意した後、ワズリースとイルラミレに問いかける。
「効率良くお金を稼げる方法って、何かありませんか?」
「それは……」
「そうね……」
二人は顔を見合わせた後、
「やっぱり、配達とかの安全な依頼でもコツコツこなすのが無難じゃないかな」
「高額な報酬の依頼を引き受けるのが一番だと思うわよ。それだけ危険でしょうけど」
と、同一のようで真逆のようでもある意見をそれぞれ述べたのだった。




