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 城の警備についていた門番二人に事情を話すと、すぐにワズリースが歩いてくる。だが、その後ろからもう一人、見知った金髪の勇者もついてきていた。


「やあ、みんな。久しぶりだね」


 右手を挙げ、少年は朗らかな笑顔を浮かべて挨拶してきた。


「ノルスじゃない」


 ミレナは驚いたように目をパチクリとさせて、


「何でアンタまでついてきたのよ」


「ノルス君とはつい先ほどまで話をしていたんだ」


 彼の代わりに、父親が娘の質問に答えた。


「その途中で兵士が君達の来訪を報告してきたから、じゃあ一緒にいこうか、となったわけさ。多分、彼に聞かれて困るような話じゃないだろう?」


 確かに、ノルスの耳に入ったからどうこう、といった事にはならない。フォドにチラリと視線をやると、若干気まずそうな面持ちではあるものの、何も言わずに黙っていた。恥ずかしいが特に異存はない、という事だろう。


 ワズリースの後に続き、僕達は王城の廊下を進んでいく。途中、ノルスが話しかけてきた。


「そういえば。レン、大会のときは凄かったじゃないか」


「いや、そんな」


 急に誉められると、気持ちが何だかくすぐったくなり、僕は照れ隠しに頬を掻きながら、


「ノルスみたいには戦えなかったよ、やっぱり」


「いやいや、あの魔法の威力は凄かったよ」


 彼は神妙な顔つきになって、腕組みをした。


「とても、即席で練習したとは思えない出来だった。今、思い返してみてもそう思う」


「あ、ありがと」


「ま、アタシに比べればまだまだひよっこだけどね」


 聞き耳を立てていたのか、前を歩いているミレナが尊大な口調で会話に入ってくる。すると、ノルスは何故かクスリと笑い、僕の耳に自身の口を寄せると、囁き声で、


「あんな事を言ってるけどさ、観戦した俺達の中で一番驚いていたのはミレナだったんだよ。君にも見せたかったなぁ、彼女の反応。セディルと君が戦っている時なんか……」


 ドガッ。そんな擬音語と共に高速の鉄拳が繰り出されたかと思うと、勇者の頭にはあっという間に巨大なタンコブが出来上がっていた。


「いてて……」


 強烈な痛みが走るのか、たちまちノルスは両手で殴られた箇所を押さえる。一方、危害を加えた張本人は彼をギロリと猛獣すら逃げ出すような眼光で睨みつけた後、


「それ以上言うと……命無くなるわよ」


 と、冗談とは思えないような声色でボソリと告げた。


「分かってるよ、ハハハハ……」


 乾いた笑みを洩らす少年の首筋に冷たい汗が流れたのを、僕は恐怖心と共に見つめていた。


 しばらくすると、ワズリースは僕達をとある部屋に案内する。そこはどうやら外からやってきた客が通されるような場所らしく、柔らかそうなソファが四つ、ガラスの机を四方から囲むようにして置かれていた。一つのソファには僕、フォド、ノルスが。その反対側にはミレナとエリシアが、僕らに挟まれるようにしてワズリースが座る。


「じゃあ、ミレナ。さっそく用件を聞こうか」


 ミレナと、そしてフォドが今までの経緯を詳細に説明すると、事情を今知った二名はほぼ同時に嘆息の息をついた。


「うん、しょうがないけど、それはフォドが悪いね」


 開口一番、ノルスは憐れむような表情で隣のフォドに言った。するとツンツン頭の少年はガックリと肩を落として、


「だってさ、最初は本当に儲かってたんだぜ? けど、だんだん負けが重なってきて、意地になってたらいつの間にか借金が膨らんでさ」


「それが向こうのやり口だよ。最初は良い夢を見させて、財布の紐が緩くなったら徐々に金を毟り取っていくのさ」


「そんな事、出来るのかよ」


「簡単だよ。イカサマすればもっと簡単だ」


「まあ、ここはそういった商売を認めている場所だからね」


 と、ワズリースが表情を悩ませつつ口を開く。


「賭け事に関しては、騙される方が悪い。客側だろうと、逆に店側だろうとね。簡潔に言えばそういう方針なんだ。だから、その店を潰してお金を取り返したりは出来ないな」


「そ、そんな……」


 すっかり意気消沈した様子で、フォドはガックリとうなだれる。いつもピンピンと逆立っている髪も、今ばかりは心なしか萎れているような気がした。


「どうにか、フォドさんを助けてあげられませんか?」


 エリシアが懇願するような口調で、ワズリースに問いかける。彼はうーん、としばらく唸りながら考え込んでいたが、やがて何かを思いついたように両手をパンと叩いた。


「そうだ! やっぱり、こういう時は知り合いのお金持ちに相談するのが吉だね」


 ――知り合いのお金持ち?


「そんな人、王都にいたの? アタシ、大富豪になんて会った事ないけど」


 ミレナが眉を潜めて、彼を見る。そういえば、彼女は父親と共に何度も王都を訪れた事があると聞いた。だからこそ、不審に思ったのだろう。一方、ワズリースはあっけんからんとして、


「ああ、いるとも。ミレナも既に会った人さ」


「え、記憶にないけど」


 彼女は首を傾げ、その視線を空にさまよわせるが、やがてその表情が歪んでいく。どうやら誰も思いつかなかったらしい。それを面白おかしそうに見届けた後、ワズリースはゆっくりと立ち上がりながら声高らかに言った。




「じゃあ、早速向かおうか。その人の下へ」

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