表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/275

16

 僕はあれから何度も探索を試みたのだが、どうしても骸骨達の追撃を振り切る事が出来なかった。


「うーん、一体どうやって奴らの目をかわせば良いんだろう」


 階段部屋で、長時間考え込んでも、良いアイデアが思い浮かばない。まさに八方塞がりと呼べる状態だった。


 しかし、このまま闇雲に突っ込んでも再び倒されてしまう事は明らかである。


「何か、突破口になりそうな事は……うーん」


 頭を捻って脳をフル回転させる。口からはか細い唸り声が自然と洩れていた。


「そういや骸骨達って……生きてるのかな? 死んでるのかな?」


 ポツリと呟き、そして自答する。


「そりゃ死んでるよね、だって骨だもん」


 なら、と僕は独り言を続けた。


「どうやって動いてるんだろう? 魔法とかかな」


 魔法、という現実感のない言葉を普通に口に出来るのは、きっとここでの生活にすっかり慣れてしまったからだろう。


「もし魔法を使って何者かが彼らを動かしているなら、制限とかがあるんじゃないかな」


 普通に遭遇しただけでは走ってこないのは、きっとそのせいなのだろうと思う。


「じゃあ、彼らの動きから一定の法則を見つけだせれば……もしかしたら攻略の糸口が掴めるかもしれない」


 勿論、そんなものは存在しないのかもしれない。けれども、試してみる価値はあると思った。


 僕は立ち上がり、


「今度はあまり先を急がずに、彼らの動きを観察してみよう」


 と、自らに強く言い聞かせ、そして再び迷宮の中へと足を踏み入れた。






 前に出会い頭の出会いを果たした通路の曲がり角の近くで、僕は歩みを止めて息を潜める。ここで敵と出会う確率がかなり高いのだ。案の定、視界には入らない通路の奥から骨の軋む音がし始める。彼らのうち一人が、やってきたらしい。


 ――見つかるかもしれない。


 そんな不安を抱いたが、ギリギリまで逃げずに留まる事にした。


 近くまで足音がやってきて、やがてピタリと止まる。どうやら、通路を曲がったすぐの所に制止しているらしい。


 ――気づかれたのかな。


 体中から冷たい汗が流れ出す。荒くなりそうな呼吸を懸命に押し殺す。その甲斐あってか、どうやら敵は異常なしと判断したようで、その場で後ろを振り向くような音がした後、足音はだんだんと遠ざかっていった。


 ――覗いてみよう。


 意を決して、僕は頭だけを少しだけ伸ばし、曲がり角の先を見つめる。見覚えのある白骨死体が、ゆっくりと歩を進めていた。僕には未だ気がついていない様子だ。しばらく悩んだ末、僕は抜き足差し足で、音を立てないようにこっそりとその後ろを追いかける事にした。


 ゴブリンよりは音に敏感だとしても、どうやら忍び足なら気づかれないらしい。


 敵はのろのろと通路を歩いていき、いくつもの分かれ道を素通りする。やがて、相手はとある小部屋を少し通り過ぎた所で立ち止まった。慌てて僕は部屋の中に身を隠す。通路の向こうで、敵が振り返る音がした。


 ――今度こそ気づかれちゃったのかな。


 だんだんと、足音が近づいてくる。部屋の壁際で、僕は息を殺して相手が素通りするように願った。


 やがて、僕の祈りが届いたのか、足音は部屋を通り過ぎて、先ほどの通路の方へと向かっていった。僕はホッと胸をなで下ろし、再び相手の尾行を続けた。


 そして、妙な事に気がついたのだ。


 ――あれ?


 敵は先ほどと同じように通路を直進し、僕と鉢合わせしかけた場所で立ち止まったのである。前と同じく、僕は手近にあった通路に体を滑り込ませる。しばらくして、骨の軋む音が再び近づき、遠ざかっていった。そっと様子を窺うと、骸骨は再び、僕が身を隠した小部屋のある方向へと歩を進めていた。


 ――もしかして。


 僕の頭に一つの考えが浮かぶ。ひょっとすると、彼らが普段通る道は一定なのかもしれない。予め決められた命令にそって動いているのだとすると、あり得る話だ。


 そして、物音を感じたり、視界に異物が入れば、独自の判断で動き始めるのだとすると、今までの行動と辻褄も合う。


 となると、一人ずつの行動パターンさえ把握してしまえば、彼らと曲がり角で出くわす事も無く、挟まれて袋叩きに遭う事も無く、この階層を楽に突破できるのではないだろうか。


 ――突破口が、見え始めたかもしれないぞ!


 僕は喜びを声に出さずとも、自然とガッツポーズを取っていた。






 それから、僕らは白骨死体達の行動を入念に調べた。一人ずつの作業なので、随分と時間がかかってしまったが、彼らから追いかけ回されない事に勝る喜びは無い。広大なダンジョンの中を少しずつ、彼らから挟み撃ちを受けないように注意しながら、着実に探索を進めていく。


 そして遂に、僕は地下一階へと続く階段を発見したのである。


 ――ここまで、長かったなあ。


 今までの苦労が自然と思い返される。後一階。後一階突破すれば、僕はこのダンジョンをようやく脱出する事が出来るんだ。胸の中に熱い思いがこみ上げてくる。


 ――後少しだ。頑張るぞ!


 僕は心を奮起させて、ダンジョンの最上層への一歩を踏み出した。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ