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目覚めたら僕はダンジョンにいた【第三回なろうコン一次選考通過作】  作者: 悠然やすみ
第八章「実直騎士、猛特訓、乙女心に男の意地」編
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「ふーん、なかなか粘るじゃん」


 相変わらず余裕綽々といった様子の少年は、明るい調子で声を掛けてくる。一方、フィールドの中央へと戻りつつ、必死に魔法を唱えている僕には、彼へ言葉を返す余裕すらなかった。相手もその事を察したのだろう。すぐに無駄口を叩くのを止め、詠唱を始める。やがて、またもや強風が僕を襲ってくる。


 しかし、以前とは異なり、僕の身体が後方へと飛ばされかける事はなかった。


「なっ……!」


 少年の唖然とした声を聞き、僕の口元には自然と不敵な笑みが浮かんでいた。そして、僕の眼前に聳えるは、高く分厚い岩壁。




 ――新魔法『ロック・ウォール』、イルラミレから受けた厳しい指導の産物だ。




 その名が示す通り『ロック』の応用技であるこの魔法は、近くの地面を中心に岩を作りだし、敵の攻撃を防ぐ壁を形成する。遠距離攻撃に対する防備には打ってつけの魔法だと、彼女はそう言っていた。もう一つ面白い活用法も教えてもらっているのだが、今は有効に使えないだろう。


 とにかく、岩に守られていれば、少なくとも風はしのげる。今までずっと苦しい展開続きだったが、ここにきてようやく体勢を整える間が出来た。


 だが、ホッと一息ついている暇は無い。僕の読みが当たっているとすれば、恐らく相手は僕と同じ手に出る筈だ。僕はすぐに詠唱を始める。たちまち、足下には茶色に輝く魔法陣が形作られた。


「なるほどね、ロックウォールか……でも、いつまで保つかな!」


 少年の高らかな叫びが聞こえ、しばらく経った後。先ほどまでとは比べものにならない突風が吹き荒れ始める。彼はきっと、通常の詠唱で魔法を発動したのだろう。『省略詠唱』は確かに便利な技術だが、ただ単に素早く魔法を扱えるだけではなく、どうしても一つのデメリットが生じてしまう。それは、発動した魔法の威力が通常詠唱のそれと比較して劣りがちな事だ。熟練の魔術師ならそんな事もないのだろうが、僕はまだその領域に達していない。勿論、それはあの少年も同じ事だろうと思う。


 しかし、僕が『ロック・ウォール』で相手の攻撃を防御した結果、両方に『相手の反撃を心配せず、詠唱に集中出来る時間』が発生した。その為、お互いが通常の詠唱を進められる状況になったのだ。


 省略詠唱で形作られた岩壁はどうしても強度が下がっている。だんだんと縁が欠け、亀裂が入っていき、終いには砕け散る。


 けれど、こっちも準備万端だった。間一髪で『ロック・ウォール』の通常詠唱を終わらせる。そして、僕をグルリと取り囲むような形状をした新たな防護壁は、またしても風の攻撃をしっかり阻んだ。


 ――よしっ!


 僕は心中で自然とガッツポーズする。確かに魔法を扱う技術も、覚えている技の種類も、あちらの少年が格段に上だろうが、幸運な事に、僕には彼よりも勝っているであろう点が一つだけある。それは、僕が体内に秘める『土の魔力』が常人のそれを遙かに凌駕しているという点だ。通常詠唱でじっくりと準備さえすれば、普通の魔術師よりも遙かに強力な魔法を放つ事が出来る。たとえ初級魔法でも、沢山の魔力を込めれさえすれば、その威力は桁違いなものとなる。


 とにかく、これで準備は万端だ。次なる魔法の準備に取りかかった僕は、再び魔法陣を生成する。一方、少年は何度も何度も僕の防御を崩そうと試みていた。


「くそっ……何でこんなに頑丈なんだよ」


 苛ついた叫びが耳に届いてくる。しかし、焦っているのは相手だけではなく、僕もまた同じだった。魔力にだって限界はある。渾身の魔法を見舞うチャンスは一度しかない。その時に間に合うよう、僕は必死の思いで詠唱を続ける。


 遂に、その時はやってきた。唸る暴風を受け、ついに防壁は崩壊する。大小様々な岩々が轟音を立てながら地に落ちていく中、一直線上で歓喜の笑みを浮かべる少年の姿を、僕は見た。




 ――今だ!




 間髪を入れず、僕は反撃を見舞った。次の瞬間、ありったけの魔力を込めて作り上げた巨岩を、前方に向かって勢いよく放つ。そのサイズは、大柄な男を難なく潰せるほどだ。僕の攻撃に気がついた少年は驚愕から目を見開きながらも、横へ逃げようとする。どうやら、今から風を操って迎撃しても無駄だと悟ったらしい。しかし回避は間に合わず、大岩は彼の身体に盛大な音を立てて直撃した。その衝撃に耐えきれず、少年の身体は軽々と吹き飛び、やがて後方の地面に仰向けの体勢で強烈にぶつかる。受け身すら取れていなかった相手に、巨岩が駄目押しの一手を食らわせた。あまりに衝撃が強すぎたのか、彼は白目を剥き、泡を吹き始める。


 こうなれば、勝敗は誰の目から見ても明らかだ。審判が僕の勝利を告げ、場内には高らかな歓声が沸き起こる。僕は照れくささから足早に闘技場の廊下へと戻ると、激戦を終えた事に安堵の息をついた。だが、喜んでばかりもいられない。次の相手は、先ほどの魔術師よりも手強い事は分かりきっているのだから。




 準々決勝、僕と闘う事になったのは、勿論あの少年だった。

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