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目覚めたら僕はダンジョンにいた【第三回なろうコン一次選考通過作】  作者: 悠然やすみ
第八章「実直騎士、猛特訓、乙女心に男の意地」編
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 柔らかく解れた肉や野菜を、口元へ運ぶ。途端、たっぷりと塗られていたタレが生み出す濃厚な味わいが、口一杯に広がった。


「あのさ」


 頬を食べ物で膨らませながら、セティが話しかけてくる。彼女は既に二本目へ取りかかっていた。


「あたし、あれから考えてみたんだよ」


「考えたって、何を?」


 彼女と同様に口をモゴモゴとさせつつ、僕は訊ねる。


「ほら、君がやってる、何だっけ? そうそう、あのメーソウとかって奴の事で……あ、もう一本食べる?」


 僕のバーベキュー串に刺さっていた具が全て無くなっている事に気がついた彼女は、無造作に紙袋を差し出してきた。若干の罪悪感を覚えて躊躇したものの、僕は結局、その中からもう一本の串を抜き取った。本人はちゃんと金を払ったって証言しているのだし、問題ない筈。問題ない……筈。


「えっと、何の話してたっけ?」


「僕の瞑想の事」


「あ、そうだった。それでね、どうして君の魔法が上手くいかないんだろうって考えてみて、それで一つ思い当たった事があるの」


 早くも三本目に取りかかりながら、彼女は言葉を続けた。


「君ってさ、魔法をイメージしてる時、ちゃんと自分で作ってる?」


「……作ってるって、そりゃ作ってるけど」


「あー、いや。作ってるっていうか、その魔法を自分で行っている感じで作ってるか、って事なんだけど」


「んん?」


 文脈の意味が読みとれず、僕の脳内には沢山のハテナマークが浮かび始めた。その疑念が表情に出ていたのだろう。セティは照れ笑いを浮かべて頬を掻き、


「ゴメン、分かりにくかったと思うけど……えっと、これはあたしの場合なんだけどね。魔法を詠唱してる時、あたしは『自分で物を作り出す』ようなイメージをしてるの。こう、魔力を一点に集めて、氷柱とか炎とかに変化させる感じ?」


 ――あっ。


 その話を聞いた瞬間、僕の背筋に電撃が走るような感覚が起こった。彼女の言わんとしている事が、朧気に理解出来たからだ。


「そういえば、今までずっと『岩を作り出す』イメージはしてたけど、『自分で変化させる』じゃなくて、『何もない所にポッと現れる』ような感じだった」


「じゃあ、さっき言った感じでやってみなよ」


「う、うん」


 彼女に促され、僕は食べ終わった二本目の串を地面の上に置くと、木に体重を預けて瞑想を始める。魔力を使って何かを作り出すような経験はないが、以前に森でトラフェールの剣を握った時に受けた不思議な感覚を受けた事はあった。その経験を頼りに、僕は頭の中でイメージを膨らませていく。脳内で岩が形作られていくにつれ、今までには起こらなかった妙な感覚が僕を襲った。自分の内に秘められている見えない力が、想像上の岩へと凝縮していくような、そんな感覚が。


 ハッとして、僕は目を開く。


「どう?」


 問いかけてきたセティに対し、僕は額を手で押さえながら、ゆっくりと言った。


「……うん、上手くは言えないけど、何か掴めたような気がする」


 そして、僕は懐から紙切れを取り出す。以前にイルラミレから渡された、魔法『ロック』の詠唱文だ。


「今なら、出来るかもしれない」


 立ち上がり、僕は草原の真ん中へと歩き出す。十分にセティと大木から離れ、僕は取り出した紙切れをしっかり眺めた後、再び両目を瞑った。先ほどの瞑想で得たイメージをしっかり保ちながら、暗記していた文章を言葉として発する。魔法を唱え始めてからすぐ、足下で微弱な振動が起こったのが微かに感じ取れた。段々と詠唱を進めていくにつれ、その揺れは僅かながら強まっていく。


 そして、最後の言葉を発し終えた後、僕は遂に目を開いた。




 拳骨大の石ころが、若緑色をした草原の中、場違いに転がっていた。




「やったじゃん!」


「わわっ!?」


 急に背中に強い衝撃を受け、僕は振り向く。見ると、嬉しそうな表情をしたセティが僕に勢いよく抱きついていた。彼女の真っ赤な髪が僕の頬を撫でた途端、ほの甘い桃のような香りが漂ってくる。その匂いを嗅いだ途端に何ともいえない恥ずかしさが押し寄せてきて、僕の顔はパアッと熱くなった。


「ずっと見守っていたから、感動もひとしおだよっ!」


「あわ、わわわわ」


 ドギマギしながら、僕は彼女を引き離そうともがく。


「わわ、分かったから離して……あっ」


 そして、セティの肩越しに僕を見つめる視線に気がつき、一気に硬直した。




 ――ミレナ!?




 そう。城下町に続く道に、彼女が立っていたのだ。その顔は恐ろしいくらいに無表情で、両手には見覚えのある紙袋を抱えている。そう、セティの持ってきた差し入れと同じものだ。ただし、遠目から見ても中身は真っ赤なので、違う店の食べ物らしい。何となく、僕は彼女と前に食べた林檎飴を連想した。しかし、そんな事は今、どうでもいいい。問題は何故ミレナがここにいるのか、いや、それでもない。もっと重要な、そしてマズい問題がある。


 それは、今現在の僕が、ちょうどセティと抱き合っているようなポーズに見えてしまっているかもしれないという事で。


「あれ、どうしたの……ん?」


 僕の様子が一変したのに気がついたらしいセティも、ミレナの存在に気がついたようだった。セティは僕から体を離し、二人の視線がぶつかる。セティは『誰?』とでもいうような敵意のない顔つきをしていたが、ミレナの方は相変わらず感情の読めない表情だった。やがて、ミレナは自身を見つめるセティから目を逸らし、プイッとそっぽを向いた後、スタスタと町の方へ歩き去っていく。


 ――あ。


 とんでもない事になってしまったと、今更ながらに気づき、僕の体は先ほどまでとは打って変わって熱を失い凍りつく。一方、何かを察したらしいセティは少し躊躇った後、おずおずといった調子で僕に問いかけてきたのだった。




「あの、あたし……マズい事しちゃった?」

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