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目覚めたら僕はダンジョンにいた【第三回なろうコン一次選考通過作】  作者: 悠然やすみ
第八章「実直騎士、猛特訓、乙女心に男の意地」編
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 時は巡って、とある日の朝。ワズリースとの稽古の為、僕はいつものように町を歩いていた。まだ昼まで時間がある筈なのに、どこもかしこも買い物中の人々を始めとして、観光客やら旅人達やらで賑わっている。最早すっかり見慣れた光景だ。人混みの中を進みながら、ふと空を見上げる。蒼く澄み渡った空に真っ白な雲がフワフワと浮かんでいた。今日も絶好の特訓日和だと思いながら、視線を前方に戻す。


「あれ?」


 そして、思わず目を擦って二度見してしまった。僕の視線の先にあるのは、ジューシーな牛肉サンドの匂いが香ばしい屋台に、主人と思しき中年男性に注文を行っているらしい少年の後ろ姿。通りを行き交う人々が真っ先に凝視するほど印象的な、ツンツン逆立っている黒い髪の毛。ほっそりとしながらも引き締まっている体には、あちこちが裂けまくりの黒マントを羽織っている。素肌には至る所に切り傷が出来ていて、鞘も付けていない短剣を腰に差している事もあり、傍目から見れば、真っ当な生活を送っている人間とはとても思えないだろう。これらの分かりやすいにも程がある特徴から、僕は彼の正体が顔見知りである事を容易に推理出来た。僕は店の主人から受け取った牛肉サンドに夢中でかぶりついている彼へ歩み寄り、その肩をポンポンと叩く。彼は不機嫌そうに振り向き、


「うっせーな、食事中に非常識だろうが……って」


 と、ぼやいている途中で話している相手が僕という事に気がつくと、


「なんだ。お前かよ」


 小さく息を吐いた後、濃厚な肉汁滴るサンドに再びかぶりつき始める。


「随分、久しぶりだよな」


「そりゃ、そっちがずっと宿に戻ってこないからね。一体、何してるのさ」


 すると、彼は牛肉サンドを口一杯に頬張りつつ、得意げな笑みを浮かべた。


「へへっ、それは内緒」


「お金とか大丈夫なの?」


「心配御無用さ」


 と、彼は片手で懐をまさぐると、何かを取り出す。それが目映い光を発する掌一杯の金貨だと言う事に気がついた僕は、思わず飛び上がった。彼が無造作に出した額は、僕達がエリシアから貰った依頼料なんて目じゃないくらいのものだったのだ。


「ど、どうしてそんな大金、持ってるのさ!」


「ま、これも秘密さ」


「なんだよ、それ……まあ、いいや」


 是非ともお金を稼いだ方法を教えてもらいたい所だが、今の僕が問い詰めるべき問題は彼が王都でどんな事をしているかではないと思い直す。


「あのさ、フォド。ちょっと聞きたい事があるんだけど」


「ん?」


 通りの端っこに寄り、今までの経緯を簡潔に伝えた後、森で見つかった剣をどうしたか、と質問した。フォドは食べ終わった牛肉サンドの包みをポイと投げ捨てると、


「ああ、アレか。一応、ちゃんと取っておいてあるぜ」


 と答えた後、懐をまさぐって小さな皮袋を取り出した。大きさは掌にのるくらいだが、これはただの皮袋ではなく、マジックアイテム。彼がぎゅっと手を握りしめて再度開くと、それはたちまち巨大なサイズへと変貌を遂げた。彼は袋の口に手を突っ込み、しばらく中をまさぐった後、


「あ、これか」


 と、ある物を引っ張り出す。それはかつて、僕が森で宝箱から入手した、鈍い茶色の輝きを放っている幅広の長剣だった。


「よいしょっと……ほら」


 彼は袋から取り出したそれの切っ先を地面につけた後、僕に柄を差し出してくる。僕はすぐに受け取った。


「ありがとう。これ、ずっと貰ってもいいかな?」


「ああ、別に構やしねえよ。けどさ」


 彼は何故か眉を潜め、小さく肩を竦めた。


「お前、本当にそんな欠陥武器使うつもりなのかよ?」


「えっ、欠陥ってどこが?」


「どこがって……」


 フォドは訝しげな表情のまま、僕が握りしめている例の剣を一瞥して、


「その剣って随分と重いし、お前に扱える代物じゃないだろ。もっと使いやすい武器を選んだ方が良いと思うぜ」


 思わぬ言葉を聞き、僕は自然と首を傾げた。


「そんな事ないよ、めちゃくちゃ軽いじゃんか」


 試しに力を入れてみる。前と同様、剣はすんなりと持ち上がり、刃の先端は天に向いた。


「ほら、こんな風に……どうしたの?」


 何故だろう。フォドは驚愕の面持ちで、僕と剣を交互に見つめていたのだ。


「おいおい、冗談だろ?」


 彼はとても信じられないといった口調でそう告げると、


「ちょっと貸してくれ」


 と、僕の剣を返事も聞かずに引ったくり、両手で構える。しかし、その動作はとても鈍重なものだった。フォドの歯を食いしばった苦悶の表情、引き締まった腕の筋肉が張っているところを見るに、どうやら力をかなり入れていたようだった。その様子を目の当たりにして、僕は動揺する。今までフォドが抱いていた疑念を理解したからだ。


 やがて剣を地に付けた彼は、それを僕の手に返しながら問いかけてくる。


「な? これで分かったろ?」


「うん、でも……」


 一拍おいた後、僕はフォドに訊ねるというより、殆ど独り言のような感じで、半ば呆然としながら呟いた。




「どうして、この剣は僕が持つと軽くなるんだろう……?」

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