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目覚めたら僕はダンジョンにいた【第三回なろうコン一次選考通過作】  作者: 悠然やすみ
第八章「実直騎士、猛特訓、乙女心に男の意地」編
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「んー、やっぱり上手くいかないなぁ」


 晴天に包まれるようにして爽やかな風が吹き抜ける草原の午後。伸ばした無数の枝に多くの若々しい緑葉を纏う大樹に背中を預けて座り、僕は小さな溜息をついた。今はイルラミレから行うように言われていた瞑想に挑戦している最中である。


「この前から、なーんにも変わらないや」


 イメージしている岩がとてつもない光を放ったり、体中を不思議な力が包んだり、そんな分かりやすい変化は全く起こっていない。せめて、自分が僅かでも進歩したという明確な証拠さえあれば、モチベーションもまだ違ってくるのだが。


「イルラミレさんも、分かりやすいヒントはくれないしなぁ」


 何度もコツを教えてくれるよう頼んではいるのだが、いつも曖昧な返答しかもらえないのだ。なんでも、『最終的には自分の力で気づかないと駄目』との事らしい。


「本当にこんなんで、魔法が使えるようになるのかなあ」


 自然と、疑念を呟いてしまう。イメージすれば嵐を起こせたり雷を落とせたり出来るなんて、どうにも納得がいかない。詠唱文や魔力の方が大切なのではないかと、どうしてもそのように考えてしまうのだ。


 ただ、こうして彼女の指導に対する疑いを覚えても、今の所は仕方がない。


「……とにかく、もう少し頑張ってみよう」


 気を引き締め、再び鍛錬に戻ろうとした、まさにその時だ。




「ねー、一人で何ブツクサ言ってんのさ」




「わっ!」


 背後から突如浴びせられた声に不意を突かれ、僕は驚きの叫びを上げた。慌てて振り返った視線の先には、以前に知り合った少女の姿。


「ちょっと、そんなに驚かなくてもいいじゃん」


 フードのついた茶色い衣服を身に纏う彼女――セティはおかしそうに言った。活発な性格が表れている顔に向日葵のような笑顔が灯る。今は顔を隠す必要がない為か頭を覆っておらず、ボサボサの赤い短髪が仕草に釣られて僅かに揺れた。


「セ、セティ? 何でこんな所にいるの?」


「こんな所って……」


 思わず問いかけた僕に対し、彼女は先ほどの明るい顔から一変して当惑の表情になり、


「ここはあたしのホームグラウンドの近所だよ。君だって知ってるでしょ?」


「あ」


 そういえば、町外れであるこの草原は、セティの暮らしている旧市街、通称『貧民街』からさほど遠くない位置に存在する。活気ある城下町へ向かう通り道の脇にあるのだから、彼女がここを訪れてもおかしくない話だと今更ながらに気づいた。


「それより、あたしとしては君がどうしてここにいるかの方が心に引っかかるんだけど」


 セティは左手人差し指をこめかみに当て、頭上に広がる枝葉を見上げながら言った。


「最近、ずっとこの場所で何かやってるよね。いい大人とチャンバラしたりしてさ」


「えっ、見てたの」


「ちょっと前から知ってたよ」


 彼女は軽く噴き出しながら、


「こんなだだっ広い場所でああいう事してたら、嫌でも目立つって」


 セティの言葉を聞いていると、恥ずかしさが急にこみ上げてくる。


「じゃあ、話しかけてくれれば良かったのに」


「いやあ、何度もそう思ったんだけどさ」


 彼女は笑いながら、自身の髪に指を絡ませる。


「他の人といる時は声を掛けづらいし、一人の時は熱心に素振りとかやってたり、昼寝してたりしてさ。タイミングが悪かったっていうか」


 なるほど。どうやらセティは僕の瞑想している姿を睡眠中だと勘違いしているらしい。彼女も一応は魔術師の筈なのだが、やはり独学で魔法を覚えたせいで、こういった訓練には疎いのだろうか。そこまで思考を巡らせた時、僕の頭にとてつもない名案が閃いた。


 ――そうだ! セティに聞いてみよう。


 城下町の間でも『魔術師崩れ』という異名で知られた盗人である彼女だ。その実力は僕もよく知っている。魔法のコツを訪ねてみたい手はない。


「ねえ、セティ。ちょっと聞きたい事があるんだけど」


「ん、何?」


 かくかくしかじか。今までの経緯を簡潔に説明すると、彼女は腕組みをしながらうんうんと頷いて、


「なるほどなるほど。要するに城の騎士さんにガールフレンドを取られそうだから、必死こいて剣と魔法の修行をしているってわけね」


「そ、そんなんじゃないよ!」


 自然と否定の叫びを上げてしまった僕の頬が、急激に熱を帯びていく。一方、セティの方はというと不思議そうに瞬きをして、


「え? 君の話、だいたいこんな感じだったでしょ」


「そりゃ! 大体はあってるけど!」


 一瞬だけ躊躇した後、僕は意を決して口を開いた。




「別にガールフレンドとか、そんなんじゃないよ!」




 静かな草原に、僕の大声が嫌にハッキリと響いていく。驚いたせいか、僕が背を預けている木から、数匹の小鳥達が空へと羽ばたいていった。セティは僕を呆気にとられた顔つきで眺めている。やがて、僕の抱く羞恥心が頂点に達した時、彼女は盛大に噴き出した。 しばらく経って発作が治まった様子の彼女は、僕に両手を合わせて、


「急に笑っちゃってゴメン。でもさ、君の気持ちは何となく分かったよ」


 と、穏やかに言い、その後、自らの胸をポンと叩いて、力強い口調でこう告げたのだった。




「他ならぬ君の頼みだし、分かったよ。あたしも精一杯協力する!」

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