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目覚めたら僕はダンジョンにいた【第三回なろうコン一次選考通過作】  作者: 悠然やすみ
第七章「ハツラツ魔術師、下水道の魔物」編
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18

 宿から外に出ると、涼やかな風が僕を出迎えた。空を見上げると、少しだけ端の欠けた月や満点の星々が煌めいているのが目に入る。もうすっかり夜だが、街は未だ溢れんばかりの輝きを保ち続けていた。色鮮やかな灯に彩られた露店が立ち並ぶ通りは日中と遜色ない程に賑やかで明るい印象を抱く。店主達や売り子達が上げる高らかな呼び込みを聞きつつ、僕は人混みの中を歩いていく。色々な事実が思考をかき乱していたが、少しでもボーッとしてしまうと前から来る人間にぶつかりそうになってしまい、僕は一旦考えるのを止め、注意して歩を進めなければならなかった。どうやら、ここは夜中でもお祭りのような状態らしい。強面のおじさんが食べ物を売っている店もあれば、美人のお姉さんが飲み物を売っている店もある。大人でも楽しめそうなゲームの露店もあり、前に見かけたスライムすくいの出店もあった。林檎飴を売っている所もちょくちょく見受けられて、その紅く綺麗なシルエットを目にする度、僕は真昼の事を思い出しては危うく人と激突しかけた。


 城へと続く野道まで来れば流石に人気もなくなり、僕は人混みから解放された事で自然と安堵の息をついていた。人々の陽気な声は今でも絶えず聞こえているが、やけに遠くから発せられているように感じられる。ふと立ち止まって顔を向けると、眼下に広がる街は様々な灯りで眩しく照らされていた。しばらくその様子を眺めた後、僕は再び振り向いて歩き始めた。両脇に連なる木々や草々の間から発せられる葉のざわめきや生き物の鳴き声に耳を委ねつつ、僕は宿でワズリースから告げられたミレナに関しての話を思い返す。


 ――優しそう……か。


 常日頃、そんな目を向けられているとはとても信じられないが、ちょっとだけ心当たりがあった。あの変なダンジョンからやっとの事で脱出した日の事だ。見知らぬ草原に独り投げ出され、遭遇したゴブリンに殺されかけた僕を助けてくれたミレナ。出会った直後の彼女は普段とは少し雰囲気が異なっていたような気がする。自分の名前すら分からなかった僕の事を、心の底から気遣ってくれていたように思うのだ。もしかすると、記憶喪失の僕と昔の自分を重ね合わせて、それで親切に接してくれたのかもしれない。僕は今更ながらにそう感じた。


 ――今でも、なのかな?


 どうして僕にミレナの過去について語ったのかワズリースに問いかけた時、彼は僕と話す時の彼女の様子が違ったからだと話した。正直、聞いた当初は思い違いも甚だしいと感じたのは事実だ。いつも荷物持ちを僕やフォドに押しつけたりしている彼女なのだから。


 けれど。もし、父親が語る事が本当だとすれば。そこには一体、ミレナのどんな気持ちが潜んでいるのだろう。


 ――うーん。


 どれだけ頭を悩ませても、答えは出なかった。


 色々と気持ちを巡らせているうち、あっという間に城まで到着した。幸いにも門番に立っていた二人は今朝の兵士達で、事情を話すとあっさり僕の入場を許可し、中庭まで向かう道も丁寧に教えてくれた。


 彼らのおかげで中庭までは難なく到着出来たのだが、そこから先がまた難題だった。庭が迷路のような形状をしている事をすっかり忘れてしまっていたのだ。兵士達に訊ねていればと溜息をついたが、後悔しても始まらない。僕は意を決して石造りの迷宮へと足を踏み入れた。


 しかし。程なくして、僕は呆気なく迷ってしまう。


「えっと、どっちに行けば良いんだっけ……」


 恐らく、今朝にたどり着いた訓練場の方にいるとは思うのだが。行きは後先考えずに歩き回ったし、帰りは出会ったセディルに道案内を受けていたので順路を全く気にしていなかった。従って勘頼りで目的地の方向へ向かうしかないのだが、進めども進めども容赦ない行き止まりが僕の前に容赦なく立ちはだかってくる。せめて壁の高さが僕の身長ほどであれば背伸びして様子を探る事も出来たのだが。大声を上げて二人に呼びかけるという方法も思いついたが、考えた末に止めた。そうこうして迷っているうちに、別の不安が首をもたげてくる。


 ――ひょっとして、もう中庭にはいないんじゃ……。


 今朝の会話から推測してここへ来てみたが、いくらが何でも昼過ぎから今までずっと訓練はしていないのではないだろうか。そんな考えが思いつくと同時に、嫌な想像が脳裏をよぎってくる。セディルとミレナが楽しそうに談笑しながら露店の並ぶ通りを歩いていく。


 ――って、こんな時に何を考えてんのさ!


 勢いよく頭を横にブンブンと振り、僕は頭の中の光景を思考の隅へと追いやる。とにかく今はここに彼女がいるのかどうか、確かめるのが先決だ。


 思いの他、迷路は複雑に作られているようで、僕は何度も何度も突き当たりにぶつかっては新しい通路へと進む事を繰り返した。酷い時には分かれ道を五つも戻ったくらいだ。頭を悩ませ、道を記憶し、僕は迷路を歩き続ける。




 そしてようやく。僕はあの訓練場まで到着したのだった。

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