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目覚めたら僕はダンジョンにいた【第三回なろうコン一次選考通過作】  作者: 悠然やすみ
第七章「ハツラツ魔術師、下水道の魔物」編
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 宿に着いた僕達は会話もそこそこに別れ、それぞれの部屋へと向かった。体中に疲れが溜まっていて、一刻も早く休みたかったのだ。


 木製のベッドに机、椅子。簡素な作りの室内に一つだけ備わっている窓からは、沈みきろうとする陽が作り出す淡い夕焼けが差し込み、眼下では様々な人々が陽気な声と共に行き交っている。その様子をぼんやりと眺めながらゆっくりとくつろいでいると、しばらくして扉をノックする音が聞こえてくる。僕がドアを開くと、そこにはエリシアの姿があった。下水道の冒険で汚れた服から着替えたようで、先ほどまで着ていた白い僧侶の装束ではなく、一般的な村人の茶色い衣装を身に纏っている。両手には相変わらず自身の胸元まである大杖を抱えていた。


 話を聞くと、どうやら僕の身体を治療しに来たらしい。もう治まったから大丈夫、と僕はやんわり告げたのだが、


「一応、処置はしておいた方が良いと思いますよ。だって、病気というのはもう大丈夫だって思った時が一番危険なんですから」


 そこまで言われれば断る事など出来ず、僕はエリシアに押されるようにして備え付けの椅子に腰掛ける。嘘をついていた事がバレやしないかと冷や冷やしている内に、彼女は大杖の先端を僕の腹辺りに当て、両目を瞑った。途端、杖の先から淡く白い光が発せられ、仄かな温もりが服の上から全身へと伝わっていく。程なくして、彼女はゆっくりと杖を僕の身体から離し、目を開いてふうと小さく息を吐いた。


「……これで、取りあえずは大丈夫だと思います」


「うん、ありがとうね」


「いえいえ」


 その時、一つの質問が降って湧いてきた。丁度良い機会だと思い、僕は彼女に訊ねる。


「そういえばさ、ミレナとフォドはもう帰ってきたのかな?」


 疲労感の為にすぐ自室に入ったので、二人と顔を合わせる事がなかったのだ。するとエリシアは困ったように首を傾げながら、


「ここに来る途中は会いませんでした。部屋にいるのかもしれませんけど、私は分からないです」


 それから二言三言話した後、彼女は部屋を出ていった。再び一人になり、僕はベッドの端に腰掛けながら、ミレナの部屋まで行ってみようかと思いを巡らす。しかし、しばらく悩んだ末にやっぱり止める事にした。急に会いに行っても変な感じになるだけだろうし、少なくとも日が沈みきるまでには戻ってくるだろう。焦る必要はないと思った。


 気持ちに結論を出すと、急に睡魔が襲ってきた。夕食まで一眠りしようと考え、僕は一つ盛大な大欠伸をして、柔らかい布団の中へもそもそと潜り込む。すぐに僕は深い眠りの中へと落ちていった。






 夢も見ずにグッスリと快眠していた僕の目を覚ましたのは、部屋の扉が控えめにノックされる音だった。再びの訪問を受け、寝ぼけ眼を擦りながら、僕は鈍重な動作でベッドを抜け出る。誰だろうとぼんやりした頭で考える。最初にミレナの姿が浮かんだが、すぐさま彼女ではないだろうと思い直した。彼女ならもっと豪快にドアを殴打する筈で、こんな礼儀正しく叩かないだろう。残りは二人だが、フォドのそれにしては音が小さいような気もする。


 となると、答えはエリシアか。今度はどうしたんだろう。疑問に思いながら、僕はドアを開く。


「はーい……えっ」


 そして。冷水を浴びせられたかのように、僕の意識はすぐさま覚醒した。


「やあ、レン君。こんにちは……いや、もう『こんばんは』、かな?」


「ワ、ワズリースさん?」


 そう。廊下に立っていたのは、奇抜な黒白衣装が特徴的なミレナの父親だったのだ。そして、一応は城に雇われる偉い人である。背筋が自然にピンと張りつめた。


「あの、どうしてここに?」


「いやあ、実はね」


 気さくに笑いながら、ワズリースは話し始めた。


「今日は仕事で出掛けてたんだけど、その関係でたまたま近くまで来てね。せっかくだからミレナに一目会おうと思ったんだけど、部屋にいないみたいなんだ。君、どこにいるか知らないかい?」


 そういえば、今朝に城を訊ねた時、姿が見えなかったなあと今更ながらに思う。彼の問いに、僕は小さく首を振った。


「僕は知らないです。朝は一緒に城まで行ったんですけど、途中で別れたので」


「じゃあ、街の方にいるのかい?」


「いえ、ミレナは城に残ったので、多分まだそこにいると思います。もう少ししたら帰ってくるんじゃないかなって」


「ふむ……そうか」


 ワズリースは僕から視線を逸らしてしばし考え込んだ後、


「じゃあ、ちょっと中に入れてもらえないかな? ずっとここに立っていると目立ってしまうのでね」


「はい、良いですよ」


 僕はあっさりと頷く。目立つのはヘンテコな服装のせいではないだろうか、とは口にしなかった。ワズリースはパアッと顔を輝かせて、


「済まないね。助かるよ」


 と言った後、すぐさま部屋に入ってくる。僕がドアを閉めて振り返ると、彼は既に一つしかない椅子に座っていた。僕はベッドの方へと腰掛け、彼と対面する。先ほどに比べ、窓の外から差し込む光はとても弱々しく薄暗い。夜の帳がまさに下ろされようとしている時間帯だ。


「そういえば」


 ワズリースがおもむろに、僕の目をその深い瞳で覗きこみつつ、しみじみといった口調で言った。




「君とこうして、二人きりで話すのは初めてだね」

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