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目覚めたら僕はダンジョンにいた【第三回なろうコン一次選考通過作】  作者: 悠然やすみ
第七章「ハツラツ魔術師、下水道の魔物」編
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 いきなり大声を上げた僕を、三人は驚いた様子で見つめてきた。彼らを代表するかのように、セティが訊ねてくる。


「分かったって、答えが?」


 僕は小さく頷いて、


「うん、そうだよ。答えは多分『とかげ』なんだと思う」


「とかげ? どうして?」


 率直に訊ねてくるユミラに、僕は説明を始める。


「ちょうど、二問目がちょっとしたヒントみたいになってたんだよ。兎が答えだったのは」


「うさぎだけ『わ』って数えるからでしょ?」


「うん、その通り。今度の問題も一緒なんだ」


「いっしょ?」


 彼女は首を傾げ、手に持った本を眺めつつ顔を悩ませる。そしてそのまま、うーんと唸り声を上げて考え込んだ。


「……わたし、よく分かんない」


「つまり、今度も『数え方』の問題なんだよ」


「けど、ぜんぜん違う生き物ばっかりじゃない」


 ユミラは口を尖らせて、自身が先ほどまで見つめていたページを僕に向けた。そこには可愛くデフォルメされたそれぞれの動物と共に、問題が載せられていた。




ちょう

とかげ

わに

だちょう




「虫と爬虫類と、鳥でしょ?」


 僕と同じく文章に目を走らせていたセティが、目を細めながら口を開く。


「あたし、共通点なんて見つけられないな。数え方もてんでバラバラのように思うけど」


 彼女の言葉に、ラムンも小さく頷きながら、


「……ぼくもそう思う」


 と、か細い口調で言った。彼らに対し、僕はゆっくりと正解を告げる。




「実は……蜥蜴だけ、『頭』って読まないんだよ」




 すぐさま、三人は驚いたように僕を見つめてきた。


「『ちょう』とか『だちょう』って、ウサギみたいに『わ』じゃないの? はねだってあるのに」


「『わに』も『ひき』って読みそうな気がする……」


 戸惑いの言葉を呟く子供達二人に、僕は解説した。


「そういう数え方もするのかは分からないけど、とにかく蝶も鰐も駝鳥も通常『一頭、二頭、三頭』って数えられるんだよ。この中で蜥蜴だけが、一般的に『頭』って呼ばれる事はないんだ。例外はあるかもしれないけどね」


「へー、そうなんだ」


 セティは口笛を吹きながら、感嘆の表情で僕を見つめてくる。


「あたし、知らなかったよ。そういうの。君って結構、こういうの得意なんだね」


「いやあ、別にそんな事ないよ」


 照れくさくて視線を逸らしながら、僕は小さく手を振る。


「けれど、多分これが正解で合ってると思う」


「でも、どうして?」


「え?」


 不意にユミラから再び疑問形の言葉を浴びせられ、僕は面食らった。


「どうしてって、何が?」




「『ちょう』とか『わに』とか『だちょう』とか、どうして『とう』って言うの?」




「……あっ」


 ――そういや、どうしてなんだろう。


「ねえ、何で?」


 質問に答えられず絶句する僕に対し、純粋な少女は無垢に答えを催促してくる。僕は返答に困り、曖昧に笑った。


「さ、さぁ。そこまではよく分からないや」


「えーっ」


「……それじゃ、本当に正解か分からないね」


 途端。子供達二人の辛辣な言葉がグサリと突き刺さる。しかし、ユミラはすぐにしかめていた顔に明るい笑顔を浮かべた、


「でも、とにかく一応答えが分かったし、ありがと! 他のみんなにも伝えてくる!」


 次の瞬間、彼女はラムンを連れて家屋に空いた穴から飛び出し、急に立ち止まったかと思うと、セティに振り返った。


「そういえばお姉ちゃん、わたし達が見つけた『アレ』早く退治しといてね! ちっちゃい子がケガするといけないから!」


「あ、すっかり忘れてた」


 セティはしまったというように笑いながら、頬を掻き、


「じゃあ、今日にでも行ってみるよ」


 彼女の言葉を受け、ユミラは一際激しく自らの手を振った後、


「それじゃあね!」


 と、ラムンと共にどこかへと駆け出していった。その後ろ姿を見送りながら、僕は胸の中にどこか暗い感情が湧いてくるのを感じた。あんなに小さい子供達が、カビ臭いパンを大事そうに抱えながら持っていたなんて。町の広場では、同じくらいの子達が暢気に紙芝居やら大道芸やらを楽しんでいたというのに。


 しばらく、ぼーっと二人の走り去っていく姿を見つめていると、何だか強い視線を感じ、僕はセティの方へと振り向く。そして、強いショックを受ける。彼女が恐ろしいくらいの無表情で僕を凝視していたからだ。彼女は僕の動作に気がつくと、慌ててその表情に不自然な笑みを浮かべた。


「そ、そういえばさ」


 ぱっと話題を変えるように、彼女が素早く口を開く。


「君って、これからどうするの?」


「これからって?」


「町の方に帰らなきゃでしょ? でも、この辺って」


 セティは言葉尻を濁しながら、複雑そうに顔を歪める。


「……結構、危ない奴らもいるからさ。そのまま道を歩いていったら、襲われるかもしれないよ?」


 都市部の路地で見かけたならず者達の姿を思い出す。あんな人達がゴロゴロいるかと思うと、僕は背筋がゾッとした。


「え……えっと、それなら途中まで送ってもらえない? 無事に一人でも歩けるような所まで」


「今すぐにはちょっと無理かな。だって、あたしを追っかけてる奴らがいないとも限らないし」


「あ、そっか」


 ――でも、それならどうしよう。


「なら、さ」


 途方に暮れて悩んでいると、セティがおずおずといった調子で、僕に口を開いてきた。




「普段ならいっつも安全な裏道があるんだけど、そこを使って帰らない? あたしも丁度、用事が出来た所だし」

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