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目覚めたら僕はダンジョンにいた【第三回なろうコン一次選考通過作】  作者: 悠然やすみ
第七章「ハツラツ魔術師、下水道の魔物」編
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 可憐な声につられて振り返ると、そこには二人の子供がいた。どちらも三、四歳くらいだろうか。一人は桃色の紐ゴムで髪の二ヶ所を可愛らしく結んでいる活発そうな女の子で、手にはみすぼらしい小さな本を持っている。もう一人は撫で肩のいかにも大人しそうな俯き気味の男の子で、彼の方は黄土色をした泥みたいな何かを両手で握っていた。性別は異なるものの服装は似ていて、どちらもボロ布を継ぎ接ぎしたような物を身に纏っている。


「おー、二人とも久しぶり」


「ひさしぶり~」


「……ひさしぶり」


 親しげに手を上げる盗人の少女に対し、子供達はそれぞれの雰囲気に似合った挨拶を返す。先ほどの言葉から察するに、どうやら『魔術師崩れ』の本名は『セティ』というらしい。二人の子供は見慣れない僕の姿に一瞬身を強ばらせたが、すぐに彼女の方に向き直った。僕の事は気にしないようにしたらしい。


「どうしたの? 何の用?」


「あのね、ラムンがね」


 女の子が傍らの男の子を心配そうに見つめながら訴えるように言う。


「このパン、食べたいけど食べれないんだって。お姉ちゃんの魔法で何とか出来ない?」


 ――パン?


 彼女の言葉で、僕はようやく男の子が大切そうに握りしめている泥に似た何かの正体に気がついた。そう、それは紛れもないパンだった。しかし、その表面にはあまりにも膨大な量のカビが生えていたので、一見では食べ物だと気が付かなかったのだ。しかし、たとえパンだと認識していたとしても、これを食べようとする人間はほとんどいないだろう。僕なら多分、いや、間違いなく捨てる。


 ――こんなのを大事そうに持ち歩くなんて。


 ワズリースに奢ってもらった店の食事や、泊まった宿の簡素ながら食べやすい朝食、城で堪能した豪勢な食材を使ったグラタン。最近自分が食した料理を思い返しながら、僕はどれだけ自分が幸せな立場にいるのか、何気なく口にしていた食事がどれだけ恵まれた物なのかを痛感した。城に似つかわしくない平凡な一品だと、ミレナ共々小さな不平を洩らした事を今更ながらに後悔する。


 もし彼女と出会わなければ、僕もまた同じような生活をしていたのかもしれない。


「うわー、こりゃもう流石に食べれないって。あたしの魔法でも無理だわ」


 内心で強く動揺している僕に気がつく様子もなく、セティは苦笑しながらラムンと呼ばれた男の子の手からカビまみれのパンを無造作に取り上げる。口を尖らせて何かを口にしようとした彼の頭を、彼女は優しく撫でた。


「そんなに怒らないでよ。代わりの食べ物あげるからさ」


 セティはカビパンを近くに置くと再びベッドの側へ屈み、またもや自らの腕をその下に突っ込む。次に引っ張り出されたのは、茶色い紙袋だった。通りの騒動で彼女が抱えていたものだ。恐らく盗品だろう。セティはその中からある物を取り出した。色鮮やかなレタス、卵、ハムが挟まったサンドイッチだ。


「ほら、こっちの方が美味そうじゃない?」


 さっきの態度から一変して涎を垂らすラムンに向けて、彼女は手に持った食料を差し出す。彼は嬉しそうにそれを受け取ると、すぐにモグモグと頬張り始めた。


「もう、ラムンったらお礼も言わないで」


「ハハハ、よっぽどお腹が空いてたわけだ」


「そうだ、お姉ちゃん。私も頼みがあって来たの」


「え、何?」


 セティから訊ねられ、少女は手に持っていた小さい本の表紙を掲げる。そこには消えかけた黒いインクで『よいこのためのクイズブックその3』と書かれていた。


 ――クイズブック?


 今までの旅で散々謎解きに挑戦してきた僕の血がむずむずと騒いでいく。いつの間にか、僕はなぞなぞの類に心惹かれるタチになってしまったらしい。


「これのね、このページの答えが分からないの」


「んー、どれどれ」


 困ったように口元を歪ませる少女が開いたページを、セティは覗き込む。そして、彼女の顔つきがすぐに曇っていった。


「……う、あたしこういう頭使う系の遊びは苦手なのよね」


 ――うう、凄く気になる。


 とうとう我慢が出来なくなった僕は口を開いた。


「ねえ、僕にも見せてくれないかな」


 見知らぬ男から話しかけられてびっくりしたのか、女の子はびっくりした様子で僕を凝視する。その様子を眺め、セティはおかしそうに笑った。


「ユミラ、そんなに緊張しなくてもいいよ。コイツはある意味、あたしの命の恩人なんだから」


 流石に少し誇張しすぎているような気もする彼女の言葉を聞いて、少しは女の子の疑念も薄らいだらしい。ユミラと呼ばれた少女は、未だに少し強ばった様子で僕に近づくと、


「ここの部分なの」


 と、問題のページを指し示してくる。僕は目を凝らして、擦り切れた文字を読み始めた。そこには子供に親しまれそうな丸っこく可愛い文体でこう書かれてあった。




『このなかでなかまはずれはだ~れだ?


クイズその1!


いえねこ

うみねこ

すなねこ

とら


クイズその2!


うさぎ

ねこ

すかんく

いぬ


クイズその3!


ちょう

とかげ

わに

だちょう


こたえはいちばんさいごのページにのってるよ!』

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