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目覚めたら僕はダンジョンにいた【第三回なろうコン一次選考通過作】  作者: 悠然やすみ
第七章「ハツラツ魔術師、下水道の魔物」編
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 あれから。盗人の少女に連れられて、僕は再び目覚めた半壊の家屋までやってきていた。話によれば、ここは彼女が一応の住まいとしている場所なのだそうだ。旧市街には沢山の放置された住居が存在し、行き場のない者達はその一つ一つをそれぞれの家として暮らしているのだという。尤も戸締まりなどというのは全く期待出来ないので、持ち物は自己責任で管理しなければならないらしい。この界隈での盗難は日常茶飯事だそうだ。なので、彼女がこの場所に置いているのは盗まれても特別問題ない道具だけらしい。


 少女は僕が寝かされていたベッドの下に手を滑り込ませると、中から大きな荷物袋を引っ張りだした。そして、彼女はその口を開いて何かを探し始める。


「えっと、確かこの前のやつが余ってた筈……あった!」


 お目当ての物が見つかった喜びの声を上げながら、少女は袋から何かを取り出す。それは緑色の液体が入った小瓶だった。すぐに僕はそのアイテムの正体に思い当たる。道具屋や雑貨店によく並べてある体力回復のポーションだ。ローリエンでエリシアと旅支度をした時に買い貯めして、旅の間も戦闘要員であるミレナやフォドがよく飲んでいた記憶がある。


「はい、これで少しは具合良くなるでしょ」


「え、でもこれって確か体の疲れを取るだけでしょ。怪我が治ったりはしないんじゃ」


 僕の指摘に、小瓶を差し出していた少女の目が点になる。


「あれ、そうだっけ?」


「うん」


 僕が頷くと、彼女はしまったと言うようにクシャクシャの頭を掻きながら、


「いやあ、あたしってこう言う文明の英知って感じなアイテムには疎いんだよね」


 と、思わず耳を疑ってしまうような事を言う。次の瞬間、僕は疑問をそのまま口にしていた。


「えっ、でも確かさっき魔法使ってたじゃんか」


「あー、アレね。アレは見よう見まね」


「見よう見まね!?」


 先ほどよりも更に衝撃的な言葉が飛び出したので、僕は自然と口をあんぐりと開けてしまう。僕の反応があまりにおかしいのか、少女はクスクスと笑いながら説明を始めた。


「あのね、城かどこかの魔法使いの卵達がよくこの辺までやってきて詠唱の練習してるんだ。ここならたとえ魔法が失敗して炎が広がったりしても被害は少ないから、知識を試すには打ってつけってわけ。それで小さい頃から、そういう奴が魔法の練習するのを隠れて聞いてたんだけど。そしたらいつしか詠唱文を暗記しちゃって。それである日、人気のない路地裏で何となく唱えてみたんだ。そしたらいきなり目の前で炎が爆発しちゃってさ」


 あの時は参ったよ、少女は滑稽な体験談を思い出しているかのように溜息をつく。


「多分、文字が一つか二つ間違ってたんだと思うけど。辺りは瓦礫の山になっちゃってね。誰も死ななかった事だけが救いだよ。それから興味が芽生えて、魔法を練習してる奴を見つけたらこっそり詠唱を盗み聞きするようにしてたんだ。まあ、最近はあたしも有名になり過ぎちゃったみたいで、そういう人があんまり現れなくなったんだけど」


 何気ない調子で繰り広げられた彼女の語りが終わる。僕はその突拍子もない話に驚きつつも、どこか納得もしていた。


 ――だから『魔術師崩れ』なんだ。


 最初は訳の分からない異名だと感じていたが、事情を飲み込んだ今となってはなるほどと思う。多分、詠唱を盗み聞きしていた人々の中に、彼女の存在に気がついた者がいたのだろう。そしてその噂が王都を騒がせている盗人と結びつき、あだ名となった。


「何回もドデカい失敗はしてきたけど、今ではいくつかコントロール出来るようになったし。結構便利なもんだよ」


「……それで泥棒にも使ってるんだ」


 別に咎めるような調子で言ったつもりは無かったのだが、少女はムッとした顔つきになる。


「だって、しょうがないじゃない。こっちだって生きていかなきゃいけないもの。稼いでる人からちょっとくらい儲けを奪ったって困らないでしょ」


「でもさ、せっかく魔法って凄い力持ってるんだから、掲示板の依頼をこなしてお金を稼ぐとか」


「何度もそうしようとしたわよ。けど町の奴らって、結局見てくれだけで人を判断するじゃない。酷い時は足下見てきたりもするし」


 そういえば、エリシアと初めて会った時、彼女は不審そうな男達が護衛を引き受けようとするのを必死で断ろうとしていたなあと、ふと思い出す。尤も、彼らは本当にろくでもない男達だったのだが。


「それに城の人達もここまで追っては来ないしね。半ば容認みたいなものなのよ、きっと」


「そ、そうなんだ」


 彼女と話しながら、僕は妙な気分に襲われる。どことなく既視感のある会話というか、落ち着かないというか。


「今度はこっちから質問していい?」


「え、うん」


 おもむろに訊ねられ、僕は深く考えずに了承してしまう。彼女の唇がゆっくりと開かれる。




「あの時、なんであたしを庇ったの?」




「……え?」


 戸惑いの声を上げる僕を、彼女は無表情で見つめ続ける。何と答えるべきか、僕は必死で頭を巡らせた。その時だ。




「セティお姉ちゃん、いる~?」




 崩れた壁の方から、幼い女の子の声がした。

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