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13

 城に到着すると、この前とは別の兵士達が門の警備についていた。


「何だ、お前達は」


 見慣れない僕達に警戒の目を向ける門番二人。


「この城に何の用だ」


「えっと……」


 返事に困り、僕は頬を掻いた。隣のミレナに目をやると、相手もまた困惑の視線を僕に向けてくる。どうやら、彼女もこの事態が予想外だったようだ。


「用がないのなら、とっとと帰れ」


「ここは王の居城だぞ」


「いや、その」


「ノルスに会いに来たんだけど」


 口ごもる僕と、まるで言い訳をするかのような口調でポツリと呟くミレナ。しかし、彼女の口から発せられた人物の名前は、兵士達に驚くべき影響をもたらした。


「ノルス殿のお知り合い?」


 片方の兵士は高圧的な態度を一変させ、もう片方の兵士は首を捻って考え込む。


「そういえば、勇者殿は朝に申していたな。『友人が訊ねてくるかもしれないから』と。名は……」


「ミレナよ」


 彼女が名乗った事で、僕達に関する兵士達の疑念は晴れたようだった。僕もミレナに倣った方が良いのだろうかと思ったが、考えた末に止めた。ノルスはまだ僕の名前を知らないし、名乗れば逆に不審に思われるかもしれない。彼女の付き添いという立場で入場した方が足止めで時間も取られずに済むだろう。


 兵士達は門の両脇に退き、僕達に進むよう促す。彼らに軽く頭を下げ、僕はミレナの後に続いて城に入っていった。そのまま、昨日も通った廊下を歩いていく。


「そういえばさ」


 ふと気になった事があり、僕はズンズンと進んでいく彼女に質問した。


「ノルスって、どこにいるんだろうね」


 すると彼女はゆっくりと立ち止まり、振り向いて僕を見る。その顔にはしまったとでも言いたげな表情が浮かんでいた。


「分かんない」


「えっ」


 硬直してしまった僕に対し、彼女は頬を掻きながら、苦笑いで言葉を続ける。


「だって、よくよく考えると城に来るのって二回目だし。昨日はぜんぜん中を見回ってないし」


「二回目!?」


 衝撃の事実を知り、僕は廊下の片隅で素っ頓狂な声を上げてしまう。すれ違った貴族と思しき女性が、変なものでも見るような目つきで僕達をジロジロ見てきた。


「僕、てっきりミレナは前にもここに来た事あるって思ってたよ」


「いや、アタシ全く貴族とか王様に縁がないわよ。どうしたらそういう想像出来るのよ」


「だって、ノルスと旅した事があるって」


「……アイツとは王都に入るだいぶ前に別れたのよ」


「ええっ?」


 どうやら、僕はすんごい勘違いをしてしまったらしい。いざという時はミレナをあてにしていれば良いと思っていたのだが、それはもう間違いだと気づいてしまった。




 という事は。




「……もしかして僕達、迷ったの?」


「当たり」


 ――ヒュー。


 どこからともなく吹いてきた風が、そんな音を立てながら僕の背中を通り過ぎていった。




「うー、どこにいんのよあのスカポンタン」


「調べ物をするって言ってたから、本の置いてある場所にいるんじゃない?」


「それが分かれば苦労しないわよ!」


「そ、そうだね……」


 あれから。僕とミレナは宛もなく城の中をさまよっていた。しかし、歩けど歩けど一向にノルスの姿は見当たらない。厨房にお邪魔してしまったり、危うく重要そうな会議に乱入しかけたり、そんな事が幾度も続いた。


 そして。


「ここって、どこかしら」


「庭っぽいよね、何となく」


 ミレナの呆然とした呟きに、僕もまた半ば茫然自失となって呟き返した。いつの間にか、僕達は城の外に出てしまっていた。とにかく無心で、闇雲に歩き回った結果がこれである。足下は青々と茂る芝生だ。一応、右手の方には城の姿が見えているのだが、一体どう進めば戻れるのかすら分からない。というのも、延々と連なる石の壁がこれでもかというくらいに僕達の行動と視界を遮っていて、どの通路を進めばいいのか全く見当がつかないからである。まるで、石で出来た迷路のようだ。


「どうしてアタシ達、こんな所まで来ちゃったわけ」


「僕だって知りたいよ」


 二人揃って途方に暮れていると、


「あれ、何か聞こえない?」


 ミレナが急に眉を潜めながらそう口にする。彼女の言葉を受け、僕は耳を澄ませてみる。すると確かに物音がした。それは剣と剣がぶつかり合うような甲高い反響音だった。


「これって、誰かが近くで戦ってるのかな?」


「行ってみるわよ」


「うん」


 僕とミレナは音が聞こえてくる方向へと歩いていく。しばらく進んでいくと、壁の終わりが見えてきて急に視界が開けた。


「うわあ……」


 僕は眼前に広がる光景に、自然と感嘆の息をつく。石の通路を抜けたそこは広い草原のようになっていた。そして、沢山の兵士達が剣や槍を振るい、戦闘の稽古をしている。不思議だったのは、彼らの纏う鎧が町を巡回している兵士や門番達のそれとは異なり、黄金色かつ豪勢に出来ているように見える事だ。もしかすると、彼らは一般の兵ではないのかもしれない。そこまで僕が考えを巡らせた、ちょうどその時だった。




「どうなされましたか」




 後ろから気品に満ちた少年の声がした。

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