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 ワズリースのお墨付きという事もあり、出された料理はとても美味しかった。僕が店員に注文したのはオムライスだったのだが、ご飯を包み込んでいる卵がトロトロのフワフワで、サクッと切れ目を入れると湯気と共に漂ってくる香ばしい香りが食欲をそそった。入っている鶏肉もそれなりの大きさで食べごたえがあり、噛みしめる度に濃厚な肉汁が周りのご飯に染み渡った。エリシアが頼んだカルボナーラも、パスタに程良くチーズと黒胡椒が絡ませてあって、分厚いベーコンが惜しげもなく散りばめられていた。ミレナはと言うと、スペアリブとライス・サラダの付け合わせというセットを食べていたのだが、ジューシーな脂がパチパチと弾けている骨付き肉はさぞかし美味いに違いない。フォドはとにかく肉やら魚やら沢山の料理を高速で消化していて、見ているこっちがお会計を心配してしまうレベルである。ちなみにワズリースはハムエッグとトースト、それに紅茶というシンプルなラインナップだった。


「そういえば」


 フォド以外の食事がひと段落済んだ頃、手に紅茶のカップを持ったワズリースが僕に話しかけてきた。


「まだ、君の名前を聞いてなかったね。何て言うんだい」


 僕が口を開く前に、ミレナが溜息を吐きながら突っ込んだ。


「コイツは記憶喪失だって、さっき言ったでしょ。だから名前なんて覚えてないわよ」


 彼は手をポンと叩いて、


「ああ、そういえばそうだったか」


「全く、バカじゃないの」


「まあ、とにかくだ」


 ワズリースは静かにティーカップを皿の上に戻すと、テーブルの上で両手の指を組み、微笑を浮かべて問いかけてくる。


「その失われた記憶を取り戻す方法があるとしたら、どうだい?」


 ――えっ?


 思いがけない質問に、僕は動揺した。驚きすぎて、返事をする事を忘れてしまったくらいだ。


「それ、どういう事?」


 僕の代わりにミレナが訊ねる。ワズリースは彼女に眼差しを向けると、


「言った通りの意味さ」


「いや、ワケ分かんないわよ。もっと詳しく説明して」


「あ、あの」


 彼女に少し遅れて、僕は口を開いた。


「僕も、知りたいです。その、僕の記憶を知る方法が」


 彼は僕に視線を戻すと、


「ふむ、そうだろうね」


 と、ゆっくり頷いた後、詳しい事を話し始めた。


「実はこの町に、古い知り合いの占い師がいてね」


「占い師?」


 ミレナが眉を潜めながら首を傾げ、


「そんな人にアタシ、会った事無いけど」


「ミレナと王都に来た時はいつも外出しててね。そういや、向こうも私の娘に会えないのをずっと残念そうにしてたか」


「そんなどうでもいい情報はいらない。さっさと話を続けなさいよ」


「とにかくその知り合いは古い魔法にも精通していてね。もしかすると君の記憶を呼び覚ます助けになるんじゃないかって思ったんだ。どうかい、会ってみないか?」


 答えは既に決まっていた。


「はい」


 僕は大きく首を縦に振り、同意の言葉を口にする。今までずっと、自分が何者なのかという疑問を抱えていた。本当の自分を知る事が出来るかもしれないなら、試してみない理由なんてない。


 ワズリースは恐らく、僕がどんな返事をするか分かっていたのだろう。彼は微笑んだまま頷くと、


「それじゃあ、善は急げだ。ちょうど、彼も食事を終えたみたいだし」


 と、今まで話そっちのけで料理を貪っていたフォドがパンパンの腹を満足げにさすっているのをチラリと横目で見た後、


「確か、今から君達は宿に向かうんだったね」


「はい、そうです」


 エリシアの言葉を受け、ワズリースは視線を天井に向けながら思案に耽る。


「それじゃ……取りあえずみんなで宿に行って、その後に君をその人の元に連れていくとするか」


「ちょっと、アタシも行くわよ」


「わ、私も行きます」


 彼の言葉に反論するように、ミレナとエリシアが声を上げる。二人の反応が意外で、僕は戸惑った。


「え、どうして?」


「そりゃ、決まってるじゃない」


 僕の質問に、ミレナは即答する。


「アンタみたいなスットコドッコイの正体、気になって当たり前でしょ」


「そうですよ。ずっと一緒に旅してきたんですから」


 エリシアは一旦は彼女の言葉に同意しつつも苦笑しつつ首を傾げ、


「スットコドッコイの方は違いますけど……でも、フォドさんもそうですよね?」


 と、未だに至福の時を過ごしているフォドへ話題を振った。彼はどうやら話を全く聞いていなかったらしく、目を丸くする。


「え、何が?」


「まあ、取りあえずアンタも来るのよ」


 ミレナが肩を竦めながら彼に告げ、ワズリースはソファから立ち上がった。


「そうと決まれば、まずは宿に向かわなくてはね。名前は?」


 ミレナが質問に答えると、彼は目を輝かせた。


「ああ、あそこか。そういえば、最初にあの宿に泊まった頃、お前はまだ幼かったなあ。人で賑わう王都が珍しいのか、あちこちの場所に飛び出していっては迷惑をかけて」


「それ以上言うな!」


 今まで彼女が拳を繰り出した中で、最も巨大な爆音が僕達の耳をつんざくかのように響きわたった。店内の振動が収まった後、娘から拳骨を食らった父親が床にめり込んでいたのは言うまでもない。

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