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第三話

用事があるという旋達と別れて、彼方と良紀は家路(寮路?)に着いていた。


「だから、ああいう手合いはブチのめす位で丁度良いんだって。」

「…やりすぎ。」

「そんなことねえって。あれでも足りないぐらいだ。」

「道、聞かれた……。」


二人が口論しているのは、先ほど彼方が絡まれていたからだ。

寮へ住まいが移ったばかりのため、揃っていないものを買おうと店に入った時のことだった。

良紀が目を離した隙に、彼方がナンパに遭っていた。

彼方の手をつかんで、何処かに連れて行く男と、困った表情(良紀にはそう見えた)の彼方が視界に入り、良紀は即断即決で男への制裁を施したのだった。

彼方はやりすぎだと思ったようだが。


「明らかにナンパだったろ。それもかなり質の悪い奴」

「……そんな訳ない」

「見た目が良いんだから、気をつけろって。」

「……そんなことない」

「どうした?顔赤いぞ?」

「っ!………そんなことない。」

「?」

「……。」


そうこうして二人が寮に着く頃には、完全に日が落ちていた。




「彼方、それじゃあさっきの任務は受けるってことで良いんだな?」


良紀が聞くと、彼方はこくっとうなずいた。


「…二時間後、私の部屋で打ち合わせ……。」

「分かった、手続きはやっとく。」


良紀は、女子寮の方向へ歩いていく彼方の背を見て、

(あそこで自分の部屋を指定する所が、ガードが甘いというか何というか…)

などと、彼方の心配をしながら自分の部屋へ向かった。



男女各寮は四階まである建物で、一階は共用施設になっている。

各階は学年ごとに分かれていて、今年の一年生は三階に部屋がある。

センターから入学した生徒は一人部屋が与えられるため、良紀や彼方もそれぞれの部屋を支給されている。


「どこにあっかな。」


呟きながら次々と荷物を解いていく様子から分かるように、良紀は探し物をしている。


「あった!」


半分ほどの荷を開けたところで声を上げ、目当ての物を取り出した。

その手に持っている物はサポーター用の教本だった。




教本を持って部屋から出てきた良紀がばったり出くわしたのは、先ほど別れたばかりの彗だった。


「お、良紀。そこの部屋だったのか。それじゃあお隣さんだな。」

「そうなのか?にしても、どこ向かってるんだ?」


話しながら歩き始めると、同じ方向に向かっているのに気がついて訊いた。


「任務受付だよ。一週間暇だし、良紀達みたいに、強制じゃなくてもなんかやろうと思って」

「そんなもんなか?まあ、こっちも一応強制じゃないんだが」


センター職員は負傷などの理由がなければ、一定期間ごとに任務を受けなければならない。

ある程度どの任務を受けるかは選べるが、任務に就かなければならないことは変わらない。

逆に強制ではない任務を受けるときは、ほぼ自由に任務を選べ、さらにボーナスが付くことから時間の空いている者や、昇級を目指している者が受けることが多い。

学園に入学すると、定期的に任務を受けなくても良くなり、全ての任務が自由に選べる為、小遣い稼ぎ感覚で簡単な任務を選ぶ場合が多くなる。

本人の力量や現在地の都合がよいときに入る指定任務も、学園に入った以上強制ではなくなる。




寮に設置されている任務受付に着くと、思ったよりも混雑している。

五日間の連休になる二、三年が任務を受けに集まっているらしい。

彗は受けられる任務を確認するためにカウンターへ向かい、良紀は彼方の分の任務受理状を書き始めた。

これも専属サポーターの仕事だ。

といっても書き方がよく分からないらしく、先ほど持ち出してきた教本を開きつつの作業だった。


「職員番号の欄は……」


良紀は、傍らに開いたまま置いた本を睨みつけるように見ながら、少しづつ必須事項を埋めていく。

そうやってかれこれ十分位たったころ、彗が戻ってきて声をかけた。


「まだ終わってないのか?」

「ああ、こうゆうのはなかなか覚えられなくてな。そっちは決まったのか?」

「ここら辺にあるセンター旧施設の解体だ。四日くらい掛かるだろうが、報酬もいいからな。」


そう笑いながら良紀の手元の紙を覗き込むと、どう見ても三分の二以上がまだ空欄のままだった。

記入が必要ない場所があるのを考えても半分以上残っている。

彗は驚いて言った。


「いくらなんでも遅すぎるんじゃないのか?そこには任務の認証ナンバーを入れるんだよ。」

「お!マジでか。」


余りに進みが遅いのを見かねた彗が口を挟み始めると、受理状はみるみるうちに書き終わった。


「ありがとうな。助かった。今度飯でも奢る。」

「よっしゃ!楽しみにしとく。じゃ、またな。」




受付には、学園の黒制服を着た女生徒が座っている。

ほかの受付も、受付業務に着いているのは殆どがサポーター科の生徒のようだ。

良紀の差し出したのが、指定任務の受理状だったことに一瞬驚いた様子を見せたが、その後は淡々と慣れた手つきで作業を進め、すぐに受付は済んだ。


「こちらが詳細と報告書です。」


差し出された書類を受け取り礼を言うと、まだ約束まで時間があるのを見て、一度くらい目を通しておこうと思い、自分の部屋へ向かった。






指定任務  

No,00-000843947



担当者

四等級 水城彼方

中位 倉見良紀



依頼元

ゲーテ



場所

第五学園より20キロ北 稀星(まれぼし)廃村周辺




ゲーテで間諜の疑いにより指名手配された者が紅雪国に侵入。

直ちに見つけ、捕縛すること。

条件は特になし。


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