間章
「あ?今日はアイツ来てないのか。」
そう言ったのは髪と髭を、無造作に伸ばした男だった。
その為かぱっと見は五十歳位に見えるが、髪の間から覗く目は研いだ刃物のように鋭く、ダラけた印象を持つことはない。
「えっと~、このまえね、本よんでたよ~。」
次に話し始めたのは金髪の少年だった。
手に犬のぬいぐるみを持った姿は、十四、五歳に見える。
「いい加減その話し方やめろ、トリス。二十五の奴が言ってても気持ち悪いだけだ。」
「斉志だってそのカッコ、おっさんくさいよ~。」
「うっさい。つーか、あいつ記憶力皆無なのに本なんて読んでたのか?なんで?」
「こんにちは……あれ?まだ二人しか来てないんですか?」
ドアを開けて入って来たのは若い女性だった。
パンツタイプの動き易そうな服を着ていて、どこかほんわかした雰囲気がある。
「そういえば彼、しばらく来ないらしいわよ。この前、サポーター用の職員証作らせたみたいだし…なにやってるのかしら?」
「さあな。ほかのやつは来ないって連絡来たぞ。」
「え、今月は三人だけ?いくら参加自由といっても、少なすぎよね。真由莉は来ないの?また部屋に篭ってるのかしら」
少し困ったように言うがそれなら、と真剣な顔に戻って言った。
「それなら、これから四月の特位級会議を始めます。」
センターの異能者には十から一までの階級がつけられる。
一位の中でも抜きんでた実力を持つ者は特位という階級を名乗り、強さの象徴とされる。
だが、じぶんが特位だと明かしている者はほとんどいないため、事実上の暇人になっている。
組織としての繋がりを持つ目的で、自分が担当した任務や処理中の任務の情報交換の会議を、月に一回開いている。
………、ほぼ形式的な物になっているようだが。
「僕は特になんにもないよ~。」
「じゃあただ飯食らいかよ。」
「僕は異能研究もやってるから。斉志の方がなんにもやってないんじゃ?」
バカにしたようにトリスが鼻で笑うと、そんなことねーよ、と返す。
「……俺が先月受けた任務はじいさんと、ゲーテ国の戦線応援に行ったくらいだ。今受けてんのは特に無いな。」
島国であるこの紅雪国は、異能者のレベルが高いことで有名になっている。
そのため、貿易の支払いとして戦力を貸し出すことが多い。
「やっぱ、ほとんどなんにもしてないじゃん」
「俺は職員の監視もやってっから良いんだよ」
「でも、全自動化してるじゃん」
「うっせ」
「まあまあ、二人ともちゃんと仕事してるんだから良いじゃない。」
二人の会話が喧嘩腰になってきたところで、美野里が間に入った。
斉志は、全センター職員の名簿情報が外部に漏れないかの監視を任されている。
「あら?バルデから密航してきた、戦犯の異能者は誰が担当?」
「あいつだよ~。若い異能者が狙われてるって聞いたら、血相変えて担当するってさ。」
「そう。それなら大丈夫ね…っと。よし。」
美野里が全ての情報を手元の紙に記入すると、その日の会議は終了となった。