[第3話:8月19日 バイク屋は日焼けして]
バイク屋に向かった僕を迎えたのは昨日のお兄さんではなくおじいさんとも見えるおじさんだった。
僕が彼をおじさんと判断したのはがっしりとした体格と昨日のお兄さん同様よく陽に焼けた肌のためだ。
おじさんはバイクをいじっていたが顔をあげて僕を見ると、“あぁ、”という顔をしてのっそり立ち上がった。
「あの…バイクを受け取りに来たんですが。」
「おう。こいつだろ。」
おじさんが指さした店内の端に僕のバイクが置いてあった。
僕のバイク!!
僕のバイク…?
「綺麗になりすぎじゃないですか…?」
「おう。やっぱバイクは大事に乗ってやらねえとな。いろいろ部品かえて治しといてやったぜ。」
「あ、ありがとうございます!」
しかしこの感謝の言葉、今では返してほしいくらいた。
おじさんがくわえタバコでにこやかに手渡す領収書にはなんと
「いっ…一万五千!?」
わなわなと震える手で財布を覗き込むと一万五千と百円玉二枚が。
バイクの修理は終わっている。まさかもとのように壊して安くしてくれなんて言えるはずもない。
おじさんの白いシャツからは隆々とした筋肉がちらついている。
僕は泣く泣く諭吉と一葉にさよならを言うほかなかった。
しかし、残り二百円で給料日の25日まで生き延びれるだろうか。
僕には到底そんな自信は湧きそうになかった。
僕はなんとか“僕救済策”を考えだすことにした。
考えた結果、僕が出した結論は銀行に行くこと。
ショボ結論ですが何か?
しかし、この時期僕はとことん運に見離されていた。
きっと運命に振り回される僕を見て神様はウケケ、とか笑っていたに違いない。
そのくらい信じられない不幸だった。