[第1話:8月18日 ことの始まり]
その夏、ニュースでは過去最高の猛暑を報じていた。
僕のアパートは西向きで、どういうわけか冬は寒く夏はくそ暑い。
そんな夏のある日に僕は地獄を経験することになる。
しかし、当初の僕は待ち受ける地獄など知る由もなく、先輩にただで譲ってもらったバイクにウキウキしていた。
「それにしてもラッキーだったなあ。先輩もタダで譲ってくれるなんて太っ腹だよな♪」
僕はついさっき先輩からバイクを譲り受けたところで、先輩の家からバイクに乗って帰路についている所だった。
バイクはかなりボロボロで、カラーリングは剥げ、ランプは割れ、いたる所が錆付いていた。
それでも貧乏な僕は乗れればなんでもよかった。
しばらく走ると右手にガソリンスタンドが見えた。
そういえば先輩がガソリンがそろそろなくなる、ということを言ってたっけ。
ここから僕のアパートまではまだ時間がかかる。
僕はそのまま右折してガソリンスタンドに入った。
「満タンで。」
「あいよ。」
ガソリンスタンドのおっちゃんは人のよさそうなニコニコ顔で、鼻歌まじりにガソリンを注入し始めた。
僕はこれから始まるであろうルンルンドライビングライフに思いを馳せ、心弾ませた。
彼女なんかもできちゃったりして〜うへうへ(笑)
しかしゴプゴプッという音で我に返った。
見ると、(思わず二度見してしまった)おっちゃんはオイルを入れる方にガソリンを入れていた。しかも溢れるほど…
「おっちゃん、そこ違う!」
「あちゃっ!」
おっちゃんはペロリと舌を出し、いけね!っという表情をしたがすぐに笑って
「大丈夫、大丈夫☆ガソリンもオイルも同じようなものだから。」
と言って何事もなかったかのようにガソリンタンクにガソリンを入れ始めた。
そうなんだ、問題ないんだ…と思った僕はそのままガソリンスタンドを後にした。
しかし思えば僕の戦いはここから始まっていたのだった。