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第6話

 昼休みになったので友人の捷護と昼食にしようと思った御上だったが、肝心の捷護の姿が見えない。

 いつも一緒に食べる訳ではないし、向こうには向こうの付き合いがあるので、残念ではあるが不満はない。

 不満があるとするなら、さも当然のように机を引っ付けて弁当箱の包みをほどいている部長殿の事か。

 尤も、これも一年前からよくある事なので今更やめろとは言いづらい。


 だがしかし。

 最近知った事だが、周囲は自分と綾嶺が付き合っていると思っているらしい。

 御上にしてみればとんでもない誤解なのだが、こうして一緒に昼食をとったりしているとどんどん否定材料が減っていく気がする。

 なので、どうやって自然に同席を断ろうか考えを巡らせる必要があった。


「……御上君?」

「何だよ」


 先手を打たれた。もう何を言っても無駄だ。今日は大人しく一緒に飯を食うしかない。

 早々と降参した御上はそそくさと昼食の準備を始める。

 こうなると捷護の姿が見えないのは幸いかもしれない。


「夏期合宿の予定だけど……」

「……今年もやる気か?」

「……勿論……ハルカちゃんも入った事だし」

「俺はパスしちゃ駄目か? 夏休みの間はずっと実家に帰省してようかな~とか思ったり」

「副部長の自覚が足りないのね」

「殆んど幽霊部員の部長に自覚を説かれるとは思わなかった」


 痛い所を突いたらしく相手は沈黙。

 御上は僅かばかりの優越感に浸るが、その刹那。


「……知り合いから聞いた話なんだけど」


 何の脈絡も伏線もなく唐突に話題が変更された。

 なんでも学園のプールに幽霊が出るとか出ないとか。


「アホらしい」

「他にも幾つかの心霊スポットの情報を入手したから……今度三人で巡ってみましょ」

「お前なぁ、そういうのはオカ研とやれ」

「御上君は一人暮らしだから遅くなっても大丈夫だけど……問題はハルカちゃんよね……」


 御上の提言は何事もなくスルーされた。

 寮は寮で門限があるのだが、綾嶺の中では部で行う事は既に決定事項のようだ。


「場合によっては御上君と二人でやるしかないわね……御上君って写真撮影すると変なモノが写ったりするタイプ?」

「心霊写真を撮った事は今まで一度もない」


 答えながら御上は会話の内容を変えるタイミングを伺っていた。

 別に幽霊が怖い訳ではない。

 断じて。


「そういえば、もしかしてお前、休んでる間に心霊スポットとやらを調べてたのか?」

「いいえ……これは……本当は先週の火曜日に話すつもりだった」


 一週間先延ばしになった事は喜ぶべきか御上には判別出来なかった。

 別に幽霊が怖い訳ではない。


「俺には余り関係ない話だが、お前、出席日数ヤバいだろ」


 それが原因で綾嶺は一年の頃に留年しかけている。

 危うく一年の部長と二年の副部長という奇妙な構図が完成する所だった。


「そうね……だから今日は放課後から補習……ハルカちゃんにもそう言っておいて」


 黙っていても後輩は普通に欠席だと思うだけで特に問題ないと思うが、登校報告の代わりにでもするつもりだろうか。


 余談だが、不登校常習者の綾嶺が補習でどうにかなるのは一重にその学力のお陰らしい。

 有名大学にも現役合格出来そうな優秀な生徒をみすみす留年、ましてや退学にするのは勿体無い、と。

 あくまで噂なのでどこまで本当かは分からないし、恭華が言うには完全なデマで別の理由もあるらしいのだが、御上は大して気にしていなかった。

 どうせ、あと二年もすれば別れる相手だ。

 日本人の平均寿命を考えれば高校の三年間などあっという間だし。


「ねえ……御上君……」

「何だ?」

「私が来ない間……寂しかった?」

「いや、全然。むしろ静かで心が休まった」


 後輩といい、何故寂しがるという結論に達するのか、御上の理解の範疇を超えていた。

 一瞥した綾嶺の表情が何処となく曇っていたのもただの見間違えだろう。

 そもそもだ。

 部員が一人しかいないのは大変だろうな、と妙な気遣いを起こしたのが間違いだったのだ。

 あの一時の気の迷いのせいで散々な目に遭った。

 二人一緒に行動したのに自分だけ被害を受けたのも気に喰わない。

 最初に会った時は綺麗な女の子だと……

 そこで御上は思考を一旦中断する。

 何時の間にか思考が脇道に逸れまくっている。


 普段なら綾嶺が会話の話題を提供するので意図せず思考が途切れるのだが、今回はなかなか新しい話題が出てこない。

 さっきの返答は流石に冷たかったかな。寂しかったというべきだったか、と御上は自省しながら綾嶺の方を見て、気付いた。

 微かに俯いているので目は髪に隠れてよく見えないが、口元が緩んでいる。

 こういう時の綾嶺は大抵、変な妄想に浸っているのだ。


「お前、なに考えてた?」

「……聞きたい?」


 そこはかとなく嬉しそうな表情になったのを見て、やっぱやめとこうかなと思ったのも束の間。


「授業中に武装したテロリストが侵入して学校を占拠」

「はあ?」

「でも偶然トイレに行っていて難を逃れた御上君が見回りに来た下っ端を倒して反撃開始」

「人を勝手に妄想の材料に使うな!」

「今は二階の教室に仕掛けられた爆弾を解体した所」

「知るか!」


 御上は立ち上がりざまに机を思いっきり叩いて大声を上げた。

 こいつの頭の中の俺はどういうキャラ設定なんだ?

 捷護や恭華じゃあるまいし、一介の高校生にテロリストが倒せる訳がないだろう。


 その時になって教室の視線が自分に集中している事に気付いた御上は気恥ずかしさを感じながら席に着いた。


「行儀が悪いわよ」

「誰のせいだ、誰の」


 無言で自分に向けれた人差し指をへし折りたい衝動に駆られた。

 ついでに何時の間にかこっちを見てニヤニヤしている捷護の奴も。

 カウンターで掌底の一発でも貰いそうなので出来ないが。


「あー、もう昼休みあんまりないじゃねーかよ」

「……どうせ時間があっても御上君って日々を無為に過ごしてるでしょ?」

「うるさい! 地味に気にしてる事を言うな!」


 懲りもせず、再び声を荒げてしまう。

 しかし、そうしながら御上はまたしても別の事を考えていた。

 ここまで心置きなく怒鳴れる相手も少ないと。

 幼馴染連中以外ではこいつくらいか。

 だからこそ、今までも愚痴を言いつつも奇行に付き合ったのだろう。

 そして多分これからも惰性で付き合ってしまいそうな予感がする。

 まあいい。どうせ、高校の三年間なんてあっという間だ。


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