第5話
今日は週の始めの月曜日。
休みが終わり、新しく訪れる五日間に憂鬱なものを感じながら登校した御上は教室に入るなり更にテンションを落とした。
その日は早く目が覚めたので教室で一眠りしようとしていた事もあり、教室にいる人間は少ない。
が、一人の少女が席に座って本を読んでいた。
長い黒髪は艶やかで美しいのだが、前髪が目元まで伸び、表情を隠しているのが原因か陰鬱な雰囲気を漂わせている。
夜道で遭遇すれば幽霊と間違えること請け合い。
この少女こそ御上の天敵と言っても過言でない存在だった。
天敵だとはっきり認識しているなら無視すれば良いのだが、生憎と彼女の席は御上の隣だったりするので無視しても向こうから接触して
くる。
そうして基本的にヘタレな御上は相手のペースに乗せられて会話を始めてしまうのだ。
しかし、それは何となく面白くないので最初くらいは能動的に行こうと思うのは彼のくだらない自尊心だった。
「……来たのか。一週間ぶりだな」
鞄を机の上に乱暴に放り投げ何気ない口調で話しかける。
向こうは読んでいた本に白詰草の押し花で作った栞を挟んでパタンと閉じる。
「……ええ…………百六十時間ぶりね」
声に色があるとしたらこいつの声は間違いなく黒系統だ、と御上は確信を持って言える。
この女の名前は綾嶺槙葉
本人曰く、現世での名前らしい(御上は前世での名前も聞いた事があったが、覚えていても何の役にも立たないのでさっさと忘れていた)
そして早明浦観測会の部長である。
余談になるが、人数の関係で御上は仕方なく副部長をやっている。
しかし、部長の登校状況は教師陣にとっては周知の事実なので連絡事項はすべて副部長に伝えられている。
「毎度の事だが、休んでいる間なにをやってた?」
「…………世界の平和を……影ながら」
一年前から変わらぬ返答。
完全な予定調和。
綾嶺槙葉という女はちょっと電波が入っているのである。
なお、欠席の理由は対外的には病気という事になっているが、頭がアレなので大筋では間違っていないだろう。
「……そうかい。そりゃご苦労様。感謝状でも贈ろうか?」
「別に……見返りが…………目的じゃないから」
「あっそ」
生返事をしながら椅子を引いて席につく。
会話が一段落した事を察したのか、相手は本を開いて読書を再開する。
本は黒いハードカバーで表紙はよく見えないが指の隙間から黒魔術という単語が確認出来る。
記憶を呼び起こすと一週間前は陰陽道関連でその前はアメリカ発の創作神話だった。
その読書傾向から分かるようにオカルト関係が大好きだったりする。
だが、別にそれは構わないと昔の御上は思っていた。
人の嗜好までとやかく言うつもりはなかった。
他人に押し付けさえしなければ。
彼女に言わせると御上は「未だ目覚めぬ精錬の御子」らしい。
期待されても一生目覚めないと御上は思う。
それと巫女や皇子や神子もいるらしいが深く考えないようにしている。
高校二年にもなって何を言っているのだろうか。
そういうのは三年前に卒業してほしい。
そして、これが学年トップクラスの成績なのだからこの世界は間違っている。
なので「一週間も休んで大変だな。俺のノートを見せてやるぜ!」などという気遣いの心が沸き上がる余地はまったくない。
尤も、御上のノートは字が汚い上に黒板を全部写している訳ではないので他人に見せられる代物ではないのだが。
ふと、黒板の上にかかった時計を見上げると長針が「11」を指している。
HRまで時間があるので御上は当初の予定通り机に突っ伏して瞼を閉じる。
時間が経つにつれ生徒が増え教室内がざわめきだす。
週明けなのか、いつもより明るく、賑やかな気もする。
そんな中、退屈ながらも平和だった日常は呆気なく終了し、また今日から始まるだろう波乱に満ちた日々の予感に御上は背筋を震わせるのだった。




