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第13話

 その日の活動は綾嶺の一言から始まった。


「やる事ないから……他の部を見学に行きましょう」

「……」


 またこいつは変な事を言い出したよ、と御上は溜め息を漏らしながら読んでいた本を閉じる。


「やってもいいが、冗談が通じるくらい親しいとこにしとけよ」


 黒魔術研究会やオカルト研究会あたりはヤバい気がする。機嫌を損ねたら呪われそうだ。


「園芸部……バードウォッチング部……地学部……天文部……文芸部……演劇部……礼賛会……茶道部……華道部……弦楽部……その辺りかしら?」

「十個もあると迷っちゃいますね」


 何だかハルカまでノリノリだった。


「そうね……十個もあると……そうだ」


 綾嶺は手をポン! と叩くとロッカーを開いて中を漁り出した。

 程無く、ある物体をテーブルの上に置く。


「何ですかこれ? サイコロ?」

「十面ダイスよ……いざという時の為に部費を使って三十個ほど常備しておいたけど……意外な所で役立ったわ」


 淀みない口調で説明しながらダイスをテーブルに放る。

 ころころと転がったダイスは「5」を頂点にして止まる。


「5……文芸部ね……部室も近くだしちょうどいいわね」

「私は行った事ないです」

「なかなか楽しい所よ」


 二人は楽しそうに話しながら部屋を出ていく。

 残された御上にはこのまま帰宅するという選択肢もあったが、制止役も必要だろうと二人の後を追う。





「邪魔するぞー」


 扉を二回ノックして中に入る。

 部室内には三人程度が座れる長机が幾つかあり、その内の一つに男が二人、椅子を向かい合わせて座り、少し離れた机に女が一人でいる。


「やあ、御上君。いらっしゃい」


 御上達の入室に気付いたのは知人である瀬田だった。


「よう瀬田。もしかして今日は部活休みだったのか?」

「元々部室はあまり利用されないよ。コンピューター室がメインだ」

「そういやそうか」


 言葉を交わしながら空いている椅子に腰かける。

 コンピューター室がメインという事はここに来た意味は薄いが、迷惑をかける人間が少ないと考えれば十分な意味がある。

 周囲を見渡すと、壁に密着させてある長机には部員の創作物が置いてあり、ハルカはそれを興味深げに手に取っていた。

 綾嶺はというと、椅子を移動させ、瀬田ともう一人に対して机を挟んだ反対側に陣取っていた。


「……調子はどう? 瀬田君に古雉君」

「それなんだけどね綾嶺君。古雉君から相談を受けていたところなんだ」

「何かあったの?」



「……」


 何となく気になったので、御上は観測会の部室で読みかけだった本を開きつつ、三人の会話に耳を傾ける事にした。



「あのな……」


 古雉と呼ばれたのは中肉中背で少し頼りなさそうな男だった。


「俺、二次創作書いてるじゃないか。それで時々、二次じゃなくてもいい、ってか二次じゃない方がいいって気持ちになるんだ」

「具体的に……何でそう思ったの?」

「……」


 古雉は親に叱られる子供のように目を逸らし、


「オリキャラと原作キャラの比率が……オリキャラばっかりでさ。ここ最近はオリキャラしか出てこないんだ」

『ああ』


 納得したように瀬田と綾嶺が頷く。そこには妙な実感がこもっていた。


「原作にはいないオリジナルキャラクターを登場させる事によって物語に深みを出す事も出来るけど、オリジナルキャラクターはあくまで添え物に留めておくべきだと思う」

「やりすぎるとただの自己満足よね……創作活動全般が作者の自己満足を多分に含むといえばそれまでだけど」

「先にも言ったように上手く使えば面白い話が作れるだろう。ただ、ストーリーや設定を把握している作者が登場させるキャラクターはどうしても優位な立場になりやすい。力量のある人間は上手く調整するけど、さじ加減を間違えれば原作のキャラクターを貶める事になってしまう。それゆえにオリジナルキャラクターは好む人がいる一方で猛烈に嫌う人もいる」


 容赦ない言葉に古雉の顔が思いっきりひきつる。

 言葉は時として鋭利な刃となるのだ。


「あのーちょっと聞きたい事が」


 それまで話に入っていなかったハルカが挙手して質問する。(御上は最初から入る気がない)


「よく分かんないんですけど、何で最初からオリジナルでやらないんですか?」

「ぅぐ……」


 古雉は車に潰されたカエルみたいな悲鳴を上げる。


「新しく設定を構築するより既にある設定を弄る方が楽なのは事実だ」

「世界観を考えるのは楽しいけど……時間がかかるから」

「それに二次創作は一定の需要があるんだ」


 そう言う瀬田はどこか寂しげだった。


「……あんなスカスカで小学生の作文みたいな物より僕の方が面白いと思うんだけどなぁ」

「……知名度の差はいかんともしがたいものよ」

「俺の場合、二次創作でも反響がいまいち何だが……」

『……』

「黙るなよ……」


 古雉はがっくりと項垂れる。


(憐れな……)


 そろそろ見るに見かねてきた。


「なあ、瀬田。そろそろ許してやれよ。お前も」


 御上は綾嶺の肩に手を置いてたしなめるが、綾嶺は不当だと言わんばかりに唇を尖らせる。


「御上君。苛めてる訳じゃない。今ので揺れるならさっさと止めた方がいい。書いても楽しくないんじゃないのか?」

「無責任な話だけど……プロじゃないんだから完結させる義務はない訳だし」


 二人の提案に対して、古雉は逡巡する素振りを見せたが、すぐに首を横に振った。


「見てくれる人はいるから切りがいい所までは書きたいんだよ」

「その心意気は立派」

「まあ、他人の創作活動についてあれこれ言うのは無粋だ」

「……悪いな、二人とも。相談に乗ってもらって。お陰で決心がついた」


 一段落ついたらしい。

 そして三人の会話をずっと聞いていた御上は思った事を素直に口にした。


「お前、変な部を作らないで文芸部に入れば良かったんじゃないのか?」

「……考えた事もあったんだけど……」


 綾嶺は言葉を濁す。(綾嶺の場合は口調が口調なので判別が難しいが)

 御上が追及しようと思ったその時、


「暖かい吐息が優しく肌を撫でていく。京介の下腹部に湊は武骨な手を這わせる。与えられた快感に、京介は恥ずかしげもなく大声で嬌声を上げる。そして、二人は膨張した互いの分身を愛おしむように口へ……」


 近くから聞こえる朗々とした声にハルカが顔を赤らめ、綾嶺が眉を潜める。


「おいそこ! BL小説を音読すんな!」


 残った御上が突っ込みに回った。

 部室にいた三人の内の最後の一人、御上は面識がなかったのでスルーしていたが、とんでもない伏兵だった。


「句読点を確認する為に音読は基本なのよ、君」

「知らねーよ!」

「……相変わらずね……寿音じゅねちゃん」


 声に疲れを滲ませながら綾嶺は御上と女性の間に割り込む。


「ごぶさた。神社で会って以来?」

「ええ……そうね」

「さーたん男性化verを描いてみたから意見が聞きたいんだけど」

「……それはまた……原点回帰というか……何というか」

「カップリングは誰がいいかしら? 今のところ候補はスサノオの俺様受けと天之御影神の強気攻めなんだけど」

「私……そっちの趣味はないから……絵単体の評価しか出来ないというかしたくないんだけど」


 スケッチブックを捲りながら綾嶺に話しかける、寿音と呼ばれた女性を横目に入れながら御上は瀬田の肩を叩いた。


「良いのか、あれ」

「……自分の趣味に合わないからといって他人の創作活動を否定する事は出来ない。男色は昔から日本にあるものだし」


 溜息混じりに呟く瀬田を見ながら、どこの部活も人間関係には苦労しているのだなと御上も内心で吐露する。

 三人しかいない自分の所がどれだけ気楽な事か。


「18禁の描写をしているとかなら注意も出来るんだけどね」

「イラストは最近の少女漫画を引き合いに出されるときついし、小説は更になぁ」


 古雉が話題に入ってきた。

 御上とは初対面だが、共通の知人である瀬田がいるので幾分か話しやすい。


「大変そうだな」

「基本的には教師に目を付けられないなら好きにやってくれってのが本音なんだが、明らかに俺達がモデルのキャラがいるんだよ」

「それに関しても偶然と言われればそれまでだから」


 等と会話していると、綾嶺が横にやってきた。

 その顔はどこか憔悴して見える。


「凄いな。お前が押されてた」

「たまに会うくらいなら良いんだけど……毎日はちょっとね……」


 その時、ふと、御上は綾嶺や瀬田以外の視線を感じた。

 それは酷くねちっこく、背筋に嫌なものが走る。肉食動物に睨まれた獲物はこんな気分なのかもしれない。

 御上がゆっくりと振り向くと、寿音と目が合った。

 彼女は無言で御上の爪先から頭上まで順々に見上げていく。


「……なんだよ」

「御上君といったわね。君、受けっぽいわ」

「はあ?」

「瀬田×御上の誘い受け……悪くないけど瀬田もどちらかと言えば受けだからリバーシブルかしら。君はどれがいい?」

「どれも嫌だよ!」


 御上が全力で否定すると、寿音は小さく眉をひそめる。


「じゃあ君、兄弟はいる?」

「……妹がいるが」

「…………女装した弟?」

「染色体XXの歴とした妹だよ!」


 何故そういう発想になるか分からないが、理解したいとも思わない。


「え、凄い……入っちゃうんだ」

「お前も何見てんだ!」

「ふふ、なかなか素質がありそうね。その和希×怜治の兄弟相姦絵はかなりの自信作なのよ」


 薄い本を取り上げる御上と暖かな目でハルカを見る寿音。


「くそ、こんな部屋にいられるか。俺は帰らせてもらう! 邪魔したな、瀬田!」


 綾嶺とハルカを引っ張るようにして御上は文芸部の部室を後にした。

 こうして今年度の部活訪問の一回目は終了した。


HDDに眠っていたのを見付けた。

公開するか迷ったけど、7割くらい書いてあったので完成させて公開する事に。

ちなみに、綾嶺が挙げた部活が十個だったのは本当に偶然。10面ダイスネタは後付け。


没台詞

「また、君の作品がどうかは知らないが、二次創作が活発なのは原作に不備が多いとされる作品だという」

「ダメダメな原作のキャラクターに代わって……自分の作ったキャラクターが大活躍……みたいな」

「ああ、それは分かる。俺が今書いてる二次創作の原作も設定に隙があってさ、感想で読者がうるさいんだよ。いや、俺はアンチじゃないからキャラを酷い目に遭わせるつもりはねーからさ」


「ブログやってるんだけど、聞いてもいないのに自分の考えた設定書き込む奴がいるんだよ」

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