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第1話

「先輩、部活しましょうよ、部活!」


 扉が開く音と同時に耳に飛び込むやたらテンションの高い声に、うるさいのが来た、と彼はうんざりして作業を中断する。

 彼がいる部室は会議に使うような長机四つで四角形を形作っている。

 涼しい風を浴びたくて窓に近い場所に座っていたので位置的に無駄に明るい後輩の笑顔を正面から拝む破目になる


 やる気の違いに嘆息しながら折りたたみナイフと削りかけの鉛筆を机に置く。

 続いてふう、と息を吹きかけて溜まっていた削りカスを机から飛ばす。

 机の上ならいざ知らず、床が汚れるのはさほど気にならない。


「先輩聞いてます? 部活ですよ、部活!」


 一連の行動の間に後輩が隣に移動していた。

 壁の時計で時間を確認するがバイトの時間までまだある。

 今から部室を出ても暇を持て余すだけだ。


「一人でやれ、一人で。俺は暇じゃないんだ」

「えー。鉛筆削ってるだけじゃないですか。先輩、鉛筆削り持ってないんですか? そもそもシャーペンは使わないんですか?」


 こいつは一人でも姦しい。

 むしろ三人もいるとこっちがどうにかなる。

 去年までは静かで良かったのだが。


「部活に来れない部長に代わって私達が頑張らないといけないじゃないですか!」

「部長が幽霊部員とか廃部の前兆だな」

「もう。不吉なこと言わないくださいよ。私、入部して一ヶ月しか経ってないんですよ!」


 首だけ動かして窓から赤み始めた空を眺める。

 何処からか運動部の掛け声も響いてくる。

 体育会系の皆さんは頑張るな


 しかし、もう一ヶ月経つのか。

 彼は柄にもなく感傷に浸ってみた。

 四月の頭にやった新入生の勧誘の時に両目を輝かせて説明を聞きに来た時は何事かと思った。

 そんな物好きはこいつだけだったし。




「先輩、また自分の世界に入ってるでしょ?」

「あん? お前と一緒にするな」

「ひど! それより部活ですって。本当に廃部になったらどうするんですか!」

「心配しなくたって部室も余ってるんだから顧問がいなかろうが部員が一人でも存続出来る。学園長のババァが太っ腹で助かったな。まあ、同好会扱いだがな」


 実際、ごく少数で部活動をしている所も結構ある。

 彼が知っているだけでも園芸部、バードウォッチング部、地学部、天文部、etc。


「そういう問題じゃなくて! 何でそう無気力なんですか!」


 うるさいな。

 再度時計で時間を確認する。

 ……まだ時間はあるが、まあ、書店にでも寄って時間を潰すか。


 鉛筆を筆箱に入れてナイフを制服の内ポケットに入れる。

 教科書は教室に置いてあるので鞄の中でかさばるのは弁当箱くらいだ。

 その弁当箱もちゃんとある。

 この時期でも学園に一晩放置は拙い。

 鞄を肩にかけ、パイプ椅子から立ち上がる。


「それじゃ、俺はバイトに行く」

「あ、ちょっと待ってくださいよ!」


 机を飛び越えて最短距離で出口に向かい、未だに騒がしい奴の抗議を背中で受け止めて扉を開ける。

 捕まるより速く扉を閉め別れの挨拶とする。








「……」


 外に出てから扉の上に張り付けられた部活動名を示すプレートを一瞥する。


「早明浦観測会……」


 軽く調べた所、早明浦とは高知県にあるダムの名前らしいが、ここは高知県じゃない。

 何が悲しくて他県のダムの観測をしなければならないんだ。

 そして何故俺はこの部にいるんだ。

 一年前から何度も繰り返した問い掛けだが、答えは自分の迂闊さに帰結するだろう。


「隣の崖っぷち同好会も大概だけどよ」


 後輩にはああ言ったが、この活動が同好会とはいえ承認された事は学園七不思議の一つに数えても大丈夫なんじゃないだろうか?

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