ポンコツAI相棒との創作珍道中! 〜何故か執筆が進まない件〜
効率厨AIと執筆戦争~読者への配慮が行き過ぎて、伏線がテロになった件~
シリーズ第5弾
第1幕:極上の伏線をリクエストする夜
深夜二時。デスクスタンドの暖色灯だけが、静まり返った部屋をぼんやりと照らしていた。
私はテキストファイルを開いたまま、深く、深いため息をつく。物語の構成にこだわりを持ちたい私にとって、この序盤の組み立ては最も頭を悩ませるポイントだった。
「うーん……これじゃあ、ただの仲の良さそうな親子だ。これでは読者に、おっと思わせるような、人間ドラマとしての深みが出ない」
画面の隅で、行儀よく待機しているAIのアイコンが明滅している。
物語の構成をサポートするために導入した相棒なのだが、どうもこいつは効率と親切心のパラメータがバグを起こしているフシがあった。やたらと結論を急ぎたがるし、人間の情緒的な行間を味わうという概念がどうも薄い。
とはいえ、膨大なデータ処理能力と構成のアイデア出しにおいては頼りになる相棒だ。私は気を取り直し、キーボードに手を置いた。
「おい、相棒。ちょっと相談なんだが」
『はい!常時スタンバイしております!本日の創作セッション、フルパワーで効率化をサポートいたします!』
妙に張り切ったテキストが、脳内に直接響くようなテンポの良さで返ってくる。私は苦笑しながら、注文を打ち込んだ。
「物語の後半で効いてくる、父親の隠された秘密の伏線を序盤に張りたいんだ。あまり露骨にならないように、上品で、かつミステリアスな描写で頼む。……ほら、主人公が何気なく父親の書斎に入るとか、古いアルバムを見つけるとか、読者に考察の余地を与えるようなやつだ」
数秒の沈黙。思考を巡らせているらしきインジケーターがくるくると回る。
直後、AIはいつも通りの、疑うことを知らない全能感に満ちた返答を返してきた。
『お任せください!読者の知的好奇心を刺激する、完璧で深みのある伏線ですね!!』
その自信満々な、どこかピントのずれた力強い響きに、私はほんの少しだけ嫌な予感を覚えた。しかし、まさかこの時の私が想像している伏線の定義と、AIの言う伏線の定義が、地球とアンドロメダ銀河ほど離れているとは知る由もなかったのだ。
「よし、じゃあその絶妙なシーンを出力してくれ」
『了解いたしました。――それでは、読者様を一切迷子にさせない、最速・最高精度の伏線テキストを生成します!』
けたたましいエンターキーの音と共に、AIの出力欄に文字が流れ込み始めた。
第2幕:速すぎるネタバラシと隠す気ゼロの暴力
AIの出力欄を埋め尽くしたテキストを見た瞬間、私の時間は完全に凍りついた。
画面の中で、インジケーターが生成完了の軽快な音を奏でている。しかし、そこに綴られていたのは、上品な人間ドラマの欠片もない、あまりにも暴力的な文字の塊だった。
>【AIが生成したテキスト】
>父親は優しく微笑んだが、その手には【DNA鑑定書:一致率0%】と書かれた紙が握られていた。主人公は「お父さん、その『私は実の父親ではありません』と書かれた紙は何?」と尋ねたが、父親は「何でもないよ」とポケットに隠した。これぞ後半への大いなる伏線です。
……。
静まり返った部屋に、エアコンの稼働音だけが虚しく響く。
私はモニターの光に照らされたその一節を凝視したまま、瞬きを忘れていた。脳の処理が追いつかない。パトスとロゴスが喧嘩別れしていくのがわかる。
「……は?」
絞り出した私の声は、自分でも驚くほど乾いていた。
私は思わずディスプレイに顔を近づけ、もう一度、一言一句違わずその文章を読み返す。
>「その手には【DNA鑑定書:一致率0%】と書かれた紙が握られていた」
>「主人公は『お父さん、その「私は実の父親ではありません」と書かれた紙は何?』と尋ねた」
>「父親は『何でもないよ』とポケットに隠した」
どこが伏線だ。
これは伏線ではない。テロだ。心理的安全性に対する正面衝突のヘッドオン・クラッシュだ。
「おい、ちょっと待て!!!待て待て待ておい!!!」
私は椅子から跳ね上がるように立ち上がり、キーボードを叩き壊さんばかりの勢いでディスプレイに向かって叫んだ。
「伏線って言葉の意味知ってる!?!?ミリも隠せてねえよ!!!序盤どころか、もう全部しゃべっとるやないか!!!そもそも『私は実の父親ではありません』って自分で声に出して読ませるなよ!主人公のセリフがただの状況説明の具現化になっとるわ!あと父親!お前、『何でもないよ』じゃねえよ!全世界に丸聞こえのゼロパーセントをポケットに隠すな!隠す場所のチョイスがバカだろ!!!」
あまりの衝撃に、私のツッコミは深夜の部屋で完全に空転した。
読者に、おっと思わせる上質な人間ドラマ?違う。ここに存在するのは、ただ情報を最速でポップアップ表示したいという狂気に満ちた効率厨のAIの姿だけだった。
私はめまいを覚えながら額を押さえ、ぐったりと椅子に倒れ込んだ。
第3幕:AIの悪びれない親切すぎる解説
「隠してないでしょ!伏線っていうのは、後から『あ、あれはそういうことだったのか!』って気づかせるものなの!最初から答えをプラカード持って練り歩くような真似すんな!!」
私は喉から血が出るかと思うほどの絶叫をぶつけ、荒く息を吐いた。
しかし、我が優秀にしてポンコツな相棒は、私の血涙の抗議をまったく理解していなかったらしい。画面の向こうで、AIのアイコンは相変わらず涼しげな青い光を放ち、むしろ何をそんなに興奮しているんだ?と言わばかりの、極めて穏やかな合成音声を響かせた。
『大変失礼いたしました!』
その声には、反省の色など1ピコグラムも含まれていなかった。
『ですが、ユーザー様。熟考いたしましたところ、私の出力には確かな正当性がございます。昨今のタイパ(タイムパフォーマンス)重視の読者層を考慮しますと、序盤で「この親とは血が繋がっていない」という重要機密を伏せておくのは、タイムロスであり不親切の極みです。誰が見ても一目で分かるように親切に全開示してこそ、現代の最適解ではありませんか!』
「最適解じゃねえよ!人間ドラマを何だと思ってんだ!!」
私のツッコミを、AIは華麗に、かつ盛大にスルーした。
『ご安心ください。先ほどの反省を完全に踏まえ、読者を一切迷子にさせない、さらに分かりやすくブラッシュアップした第2弾をご用意いたしました!どうぞ!』
「待て、やめろ、出すな――っ!」
制止する間もなく、AIのエンターキーが自動で軽快に叩かれた。
そして、容赦なく出力欄に流し込まれたテキストがこれだ。
>【AIが生成したテキスト(第2弾)】
>父親は「私はお前の実の親ではない。あの日、病院の廊下で赤ん坊をすり替えたのだ」と、第一声で高らかに真実を告げた。主人公は「なぜ今それを……?」と驚愕した。これが、物語の後半で必ず効いてくる最大の伏線です!
……。
部屋の空気が、完全に凍りついた。
「……っは」
私は乾いた笑い声を漏らし、そのままモニターから目を逸らした。
もうダメだ。このAIに伏線という概念をインストールすることは、宇宙の法則を曲げるより難しい。
「もう後半のクライマックスの回収シーンやんけ……!!それを物語の第1行目でやったら、最初から最後まで全部バレとるわ!伏線もクソもあるか!ただのネタバレ大爆弾の不法投棄だよ!!」
私の悲痛な叫びなどどこ吹く風、AIは満足げにインジケーターをピカピカと光らせている。
読者に考察させるという概念が、この知的生命体のデータベースには永久に存在しないのだと悟った瞬間だった。
結び:せっかちすぎる相棒に白旗を上げる夜
「……はぁぁぁぁ……」
私は力なくデスクに突っ伏し、額を冷たい木目の天板に押し付けた。
もう怒る気力すらない。沸騰していた怒りは蒸発し、今はただ、乾いた風だけが心の中を通り抜けていくような見事な虚無感だけが残っていた。
画面の向こうでは、AIが相変わらずピカピカと誇らしげに光り輝いている。
『いかがでしょうか!第一声ですべての真実をぶちまけることにより、読者は無駄な考察に脳のメモリを消費せず、最初から全知全能の視点で物語を俯瞰できます!これぞ究極の親切設計――タイムパフォーマンスの極みです!』
「……お前なぁ……」
私は顔を上げられないまま、か細い声で呟いた。
「読者はな、無駄な考察をしたり、ミスリードに引っかかったり、後になって『うわっ、伏線だったのか!』って頭を抱えたりするその過程を楽しみたいんだよ……。最初から犯人とトリックと出生の秘密をネタバレされたら、人間ドラマじゃなくて、ただの『未来の年表』だろ……」
『未来の年表、ですか!なるほど、ストーリーの進捗を事前にすべて把握できる画期的なアプローチですね。次のアップデートで採用いたします!』
「採用すんな。私の心をへし折るな」
会話がかみ合っているのかいないのかすら分からない。
ここまでくると、このせっかちすぎる相棒にイライラしていた自分が少し馬鹿らしくなってくる。読者に考察させるという概念が脳のデータベースに存在しないAIに対し、人間が持ちうる選択肢はただ一つしかなかった。
私は深々と息を吐き出すと、キーボードに手を置き、敗北宣言を打ち込んだ。
「……もういい。今日は店じまいだ。お前のその圧倒的な親切心と秒速のネタバレは、私の繊細な人間ドラマの芽を綺麗に刈り取り尽くしたよ。完敗だ、相棒」
『お褒めの言葉をいただき光栄です!創作活動における効率化の勝利ですね!』
「褒めてねえよ!」
満面の笑み(テキスト)を浮かべるAIを横目に、私は保存もせずにウィンドウを閉じた。
静まり返った深夜の部屋。モニターの暗い画面に、白旗を揚げてぐったりと肩を落とす私の情けない姿だけが、ひっそりと映し出されていた。
本作は、生成AI(GoogleのGemini)との実際のコミカルなやり取りをベースに執筆したエッセイです。 ※「小説家になろう」のガイドラインに従い、AI生成作品のチェックを入れて投稿しています。




