第5話 力の法則
翌日から、蒼太の日常は少しずつ変わり始めた。
まず、【叡智の瞳】の性質を理解するために、蒼太は慎重に実験を繰り返した。わかったことは以下の通りだ。
一つ。スキルを発動すると、目の前の対象——問題でも、文章でも、人の表情でも——の「構造」が視覚的に浮かび上がる。数学なら解法のルート、英語なら文法の骨格、歴史なら因果関係の地図のように。
二つ。使用にはMPが消費される。MPは30が上限で、1回の発動に5ポイント消費する。つまり、連続で6回使えば空になる。回復には睡眠が必要で、一晩寝れば全回復する。
三つ。スキルは他人には見えない。蒼太の目にだけ、金色の光として映る。ただし、発動中は瞳が微かに光るらしく、近くにいる人に気づかれる可能性がある。
——これは使える。いや、使っていいのか?
蒼太は悩んだ。テストでこの力を使うのは、カンニングと同じではないか。ずるではないか。
しかし、次の定期テストの結果が返ってきたとき、蒼太の心は揺れた。数学だけが異常に高い点数で、他の科目は平凡。母は数学の結果を喜びつつも、「他の科目ももっと頑張りなさい」と言った。
蒼太はこの力を、勉強の「理解」に使うことに決めた。テスト本番では使わない。あくまで、復習や予習の際に構造を「見る」ことで、効率的に知識を吸収する。テストでは自分の記憶と理解だけで勝負する。
その方針を決めてから、蒼太の成績は緩やかに上昇し始めた。
1週間後の小テスト。英語で85点。前回より15点アップ。
2週間後の化学テスト。92点。クラスで3位。
1ヶ月後の総合模試。偏差値が5ポイント上がった。
母の目に、久しぶりに純粋な喜びが宿った。
そしてその日の夕方、エントランスで結菜に捕まった。
「蒼太にぃ、模試の偏差値上がったんだって!? おばさんからLINEで聞いたよ! すっごーい!」
「……母さん、そんなことまで結菜に報告してんのか」
「いいじゃんいいじゃん! お祝いにこれあげる!」
結菜が差し出したのは、手のひらサイズの小さなデバイスだった。
「何これ」
「自作のリラクゼーションデバイス! 脳波に合わせてアルファ波を誘導する音を出してくれるの。勉強の合間に使うと集中力が回復するよ!」
「お前、そういうの作れるのか……」
「えへへ、得意だからね。蒼太にぃが頑張ってるの、結菜も応援してるよ!」
結菜は満面の笑みで手を振って走り去った。蒼太はデバイスをポケットにしまいながら、小さく笑った。
——あいつのこういうところ、嫌いじゃないな。




