第3話 模試の奇跡
模試の日は、灰色の曇り空だった。
蒼太は会場の高校に向かう電車の中で、相変わらず右手を見つめていた。あれから何度試しても、光は出てこない。夢の延長だったのだと、理性は言っている。
けれど、心のどこかで期待している自分がいた。あの光が本物だったら。もしも本当に「力」が目覚めたのだったら。
——馬鹿馬鹿しい。試験に集中しろ。
模試が始まった。英語、国語、数学、理科、社会。5教科を1日で詰め込む過酷なスケジュール。
午前中の英語と国語は、まあまあの手応えだった。問題は午後の数学だ。
蒼太は問題用紙をめくった瞬間、血の気が引いた。
——難しい。前回とレベルが違う。
周囲でもざわめきが起きている。シャーペンが止まる音がいくつも聞こえた。
蒼太は深呼吸をして、1問目に取り掛かった。微分と積分の融合問題。頭の中で解法を組み立てようとするが、途中で思考が絡まる。
焦りが胸を締め付ける。時計を見る。もう15分経っている。まだ1問目の途中だ。
——ダメだ。このままじゃ、半分も解けない。
冷や汗が背中を伝った。母の顔が浮かぶ。期待と不安が入り混じったあの目。
そのとき——右手が、熱くなった。
光ではなく、熱。指先からじんわりと広がる温かさ。そして、頭の中の霧が、すっと晴れていくような感覚。
——え?
目の前の数式が、急に「見えた」。
いや、見えたというのは比喩ではない。文字通り、数式の構造が立体的に浮かび上がって見えたのだ。まるで、RPGのゲーム画面のように、解法のルートが光る線で示されている。
蒼太の目が見開かれた。手が勝手に動き始める。解法が次々と頭に流れ込んでくる。いつもなら10分かかる計算が、30秒で終わる。
——なんだ、これ。
2問目。3問目。4問目。すべてが同じだった。問題を見た瞬間に、解法のルートが「見える」。
蒼太はほとんど無我夢中で答案用紙を埋めていった。残り時間をたっぷり残して、全問解き終えた。
試験が終わった瞬間、右手の温かさがすっと消えた。
蒼太は自分の手を見つめた。震えていた。
——今のは、何だったんだ。
答えは、この夜——蒼太の部屋で明かされることになる。




