第24話 闇の中の声
内部は——異界だった。
暗黒の空間に、蒼太は一人で浮かんでいた。上も下もない。左も右もない。ただ、闇が無限に広がっている。
そして、声が聞こえた。
無数の声。悲しみの声。怒りの声。絶望の声。この侵食体が吸い上げてきた、東京中の人々の負の感情が、ここに凝縮されている。
蒼太の心にも、闇が侵食してきた。
——お前は無力だ。
——何も守れなかった。
——母親を泣かせた。友達を傷つけた。成績も落ちた。
——お前には価値がない。
声が頭の中に響く。否定の言葉。自己嫌悪。虚無感。それはかつて蒼太自身が感じていた感情そのものだ。
膝が折れそうになった。
「……っ」
手から光が消えかける。MPが、感情に引きずられて減少していく。
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残りMP:8…… 5…… 3……
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——ダメだ。このまま飲まれる——。
その時、イヤホンから声が聞こえた。ノイズ混じりの、途切れ途切れの声。
「蒼太……聞こえ……か……健吾だ……お前なら……きる……」
「桐谷く……凛です……一人じゃ……いよ……私たちが……いる……」
「蒼太にぃ! ……結菜のデバイス……ちゃんと届い……てるから……! ……帰ってきて……ね……!」
「桐谷く……ん……成瀬です……データは……全部こっちで……見てる……信じて……るよ……」
そして——。
「……桐谷蒼太」
零の声。ノイズの中でも、不思議と明瞭に聞こえた。
「闇に呑まれるな。闇は敵じゃない——お前の中にもある。認めて、受け入れて、乗り越えろ。光と闇は、共に在るものだ」
蒼太は目を見開いた。
——そうだ。
俺の中にも闇がある。弱さがある。不安がある。
それは消えない。消す必要もない。
おとぎ話の勇者エルドも、恐れを感じなかったわけじゃない。恐れを抱えながら、それでも前に進んだのだ。
——怖くても、前に進むからだよ。それが勇気だ。
父の言葉が、心の底から蘇った。
蒼太は立ち上がった。闇の中で、ゆっくりと。
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残りMP:1
```
——1だけ残っている。
たった1。けれど、ゼロじゃない。
蒼太は両手を広げた。指先から——金色の光ではなく——金と銀と紫が入り混じった、見たこともない色の光が溢れ出した。
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最終スキル【暁光】が発現しました
光と闇を統合し、すべてを照らす力。
消費MP:全量
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蒼太は叫んだ。
「俺は——完璧な勇者じゃない! 弱くて、情けなくて、逃げ出したこともある!」
光が膨張する。闇の空間全体を、暁の光が満たしていく。
「——でも!」
「——それでも前に進む! 大切な人を守るために! これが現実の世界の、俺の勇気だ!」
暁光が、侵食体の核に直撃した。
核は——泣いていた。
蒼太には、一瞬だけ見えた。核の中心にあったのは、一つの悲しみだった。誰かに愛されたくて、でも愛されなかった、名もない悲しみ。それが負の感情を吸い寄せ、膨れ上がり、この怪物になった。
「——お前も、寂しかったんだな」
蒼太は、核に手を触れた。
壊すのではなく。包み込むように。
光と闇が、核を優しく溶かしていった。
——ありがとう。
最後に、かすかな声が聞こえた気がした。




