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第23話 渋谷決戦

 6月15日。新月の夜。


 深夜零時の渋谷。普段は人で溢れる街が、巨大侵食体の影響で人が寄りつかなくなり、異様な静寂に包まれていた。


 スクランブル交差点の上空に、ビルの10階建てほどの黒い塊が浮かんでいる。その下では、弱い侵食体が無数に蠢いている。


「配置は打ち合わせ通りだ」


 蒼太が確認する。


 健吾は半径1km圏内に設置したセンサーからのデータをタブレットで監視。結菜が構築した独自通信網を通じて、侵食体の動きをリアルタイムで全員に共有する。


 結菜は健吾の隣で通信システムを運用。蒼太の右耳には、結菜特製の通信デバイスが装着されている。


 梓は後方のカフェに待機。ネット監視と一般市民への隠蔽工作を受け持つ。


 凛は交差点の東側に配置。【風の詠唱】で小型侵食体を一掃し、蒼太と零が巨大侵食体に集中できるようにする。


 零は西側。闇の力で巨大侵食体の外殻に穴を開け、蒼太が内部に突入する道を作る。


 そして蒼太。彼の役目は——核を破壊すること。


 ——後方指揮所。ビルの屋上。


 健吾はタブレットの画面を見つめていた。隣では結菜が通信デバイスの調整に追われている。


 画面の中で、仲間たちが配置についていく。光と闇の力を持つ者たちが、命を懸けて戦場に向かう。


 健吾の手は——光らない。何も出ない。どれだけ祈っても、この手から魔法は生まれない。


 ——悔しくないと言ったら嘘になる。


 でも。


 健吾はタブレットを握り直した。この画面には、3ヶ月分のデータが詰まっている。侵食体の出現パターン、弱体化の周期、エネルギー密度の変動。一つ一つを手作業で記録し、分析し、法則を見出した。光る手がなくても、眠れない夜を積み重ねて辿り着いた、自分だけの「武器」。


 ——親父は、何もかも投げ出して逃げた。俺は逃げない。ここにいる。この手で、できることをやる。


「蒼太」


 健吾の声がイヤホンから聞こえた。


「新月の弱体化、始まった。侵食体のエネルギー値が下がってる。今だ」


「行く」


 蒼太は走り出した。


 交差点に飛び込んだ瞬間、小型の侵食体が群がってきた。黒い影の群れ。蒼太は【浄光の矢】を放ちながら前進する。


「道を開けて!」


 凛の声。巨大な突風が吹き荒れ、小型侵食体が木の葉のように吹き飛ばされた。凛の力が、格段に成長していた。


 蒼太は巨大侵食体の真下にたどり着いた。見上げると、黒い塊が空を覆っている。星も月も見えない——新月だから月はそもそもないが。


「零!」


「わかってる」


 零が両手を掲げた。漆黒の炎が渦を巻き、巨大侵食体の外殻に叩きつけられる。


 轟音。黒い外殻にひびが入り、内部への入口が開いた。


「今だ、桐谷蒼太! ——行け!」


 蒼太は迷わなかった。ひびの中に飛び込んだ。



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