第22話 新月の作戦
健吾と結菜の合同分析により、渋谷の巨大侵食体のパターンが判明した。
侵食体は月の満ち欠けに連動して力を増し、新月の夜に最も弱くなる。そしてその弱体化は数時間しか持たない。
「次の新月は、6月15日の深夜。その時間帯なら、あの巨大侵食体を倒せるかもしれない」
健吾がデータを示しながら言った。結菜が補足する。
「結菜のセンサー網のデータも裏付けてるよ。新月の前後24時間で、侵食体の電磁場強度が平均して37%低下してる」
「MP消費の計算もした。蒼太と凛の合計MPで足りるかギリギリだけど、零の戦力を加算すれば理論上は可能だ」
「理論上、ね」
零が冷笑する。
「理論と実践は別物だよ。あの侵食体には——核がある。外殻をいくら攻撃しても再生するだけだ。核を壊さなければ、倒せない」
ここで、梓が手を挙げた。
「ちょっと待って。一つ、報告がある」
梓はタブレットを全員に見せた。画面には、企業の登記情報と不動産取引のデータが映っている。
「渋谷の『異常気象』で地価が下落した地域を、ある投資ファンドが集中的に買い漁ってる。『ミコシバ・キャピタル』。代表は御子柴誠一郎——不動産と再開発を手がける投資家」
「……それが侵食体と何の関係があるんですか」
「直接の関係は——正直、まだ立証できない。でも、彼の投資先企業の中に、従業員のメンタルヘルス問題が異常に多い企業がいくつもある。パワハラ、過重労働、鬱の発症率が業界平均の3倍以上。つまり——」
「負の感情の発生源を放置している。いや、むしろ——」
零が低い声で続けた。
「意図的に助長している可能性がある、か。負の感情が増えれば侵食体が成長し、侵食体が成長すれば地価が下がり、地価が下がれば安く買える。——現実の悪は、物語の悪役より余程たちが悪いな」
沈黙が落ちた。
蒼太は拳を握りしめた。御子柴は侵食体を生み出しているわけではない。しかし、侵食体が育つ「土壌」を意図的に維持し、その恩恵を受けている。蒼太たちが命を懸けて侵食体を倒すことさえ、「無料の清掃員」として利用されているかもしれない。
「御子柴への対処は、戦いの後に考えよう」
蒼太は全員を見回した。
「まず、渋谷の侵食体を倒す。それが最優先だ。——御子柴のことは、梓さんと凛に任せたい。魔法じゃなく、社会のルールで追い詰める方法を」
梓がうなずいた。
「任せて。こっちはこっちの戦い方がある」
凛も頷いた。
「生徒会のネットワークも使える。SNSでの情報発信なら、私がやる」
「核はどこにある?」
「中心部。ただし、外殻の中は侵食体の内部空間——一種の異界だ。入ったら、出られなくなる可能性もある」
沈黙が流れた。
蒼太は仲間たちの顔を見回した。凛は不安そうだが、目には決意がある。健吾は真剣な表情でデータを見つめている。結菜は通信デバイスを握りしめている。梓は腕を組んで戦略を練っている。零は無表情だが、こちらの答えを待っている。
「行こう」
蒼太は言った。
「一人じゃ無理だ。でも、みんなでなら——」
あの台詞が、自然に口をついて出た。
「——どんな敵にも負けない」
凛が微笑んだ。健吾が拳を突き出した。零は鼻で笑ったが、その目は笑っていなかった——真剣だったのだ。




