第21話 チーム結成
翌日、蒼太は健吾に謝った。
「悪かった。八つ当たりして」
「……おう」
健吾は蒼太の目をじっと見た。それから、ふっと笑った——けれど、いつものムードメーカーの笑いとは少し違った。
「謝んなよ。——俺の方こそ、ごめんな」
「健吾が何を謝るんだよ」
「気づいてたんだ、お前がおかしくなってたこと。でも踏み込めなかった。怖かったんだよ。聞いて、もし答えが俺にはどうにもできないことだったら——また、何もできない自分を突きつけられるから」
健吾の声が、かすかに震えた。蒼太は驚いて親友の顔を見た。いつも明るい健吾の目の奥に、ずっと隠されていた暗さがあった。
「中2のとき、親父が出てった。理由もクソもなかった。『自分の人生を生きたい』、それだけ。——母さんは泣いてた。俺は何もできなかった。引き止める言葉も、母さんを笑わせる方法も、何もなかった」
「健吾……」
「それ以来、俺は笑うことにしたんだ。周りを明るくしてれば、少なくとも場の空気は守れる。——でもな、蒼太。場の空気を守ることと、人を守ることは違う。俺はずっと、前者しかできない人間だった」
蒼太は覚悟を決めた。健吾にも、すべてを話すことにした。
健吾は最初、目を丸くしていた。やがて信じられないという顔になり、蒼太が実際に【叡智の瞳】を発動して見せると、口をあんぐり開けた。
「……マジかよ」
「マジ」
沈黙が落ちた。健吾は自分の手を見つめた——何も光らない、普通の手を。
「お前、ずっとそんなもん抱えて一人で戦ってたのか」
「……ああ」
「……くそ。ラノベの主人公じゃん、お前」
健吾は笑った。しかしその笑いの裏に、蒼太は気づいた。悔しさだ。親友が苦しんでいたことに気づけなかった悔しさ。そして——自分には「光る手」がないという、どうしようもない無力感。
「健吾。頼みたいことがある」
「……何だ」
「直接戦うのは、多分無理だ。侵食体は魔法でしか倒せない」
健吾の顔が、一瞬だけ歪んだ。わかっていた。それでも、言葉にされると刺さる。
「でも、俺一人じゃ勝てない。情報がなさすぎる。侵食体の出現パターン、弱点の分析、作戦の立案——それができるのは、健吾だけだ」
「……俺に、戦えない代わりに頭を使えってことか」
「違う。『代わり』じゃない」
蒼太は真っ直ぐ健吾の目を見た。
「お前がいなきゃ、俺は考えなしに突っ込んで死ぬだけだ。——お前の力がなきゃ、魔法なんて持ってても意味がないんだよ」
健吾は長い間、蒼太を見つめていた。
やがて——口の端が、持ち上がった。今度は本物の笑顔だった。
「……お前、そういうところだぞ。そういうとこで人を巻き込むんだよ」
健吾は右手を差し出した。
「任せろ。魔法は使えねえけど——お前の目の代わりには、なってやる」
蒼太はその手を握った。温かかった。魔法の光とは違う、人間の体温だった。
健吾はIT系の知識に明るく、2030年の先端技術——AIアシスタントやセンサーネットワーク——を活用したデータ分析が趣味だった。侵食体の出現を記録し、パターンを見つけるのは、まさに彼の得意分野だ。
こうして、チームが形成された。
蒼太——前衛。光の力で侵食体と戦う。
凛——中衛。風の力で支援と防御を担当。
健吾——後方支援。ソフトウェアによる情報分析と作戦立案。
結菜——後方支援。ハードウェア開発と独自通信システムの運用。
梓——参謀。戦略立案と「現実側」の問題(学校・社会)への対応。
そして——もう一人。
蒼太は零に連絡を取った。零が渡してくれていた、闇色のカードに意識を集中すると、零の声が頭に響いた。
「おや。復活したのかい」
「ああ。——お前に聞きたいことがある」
「何だい?」
「お前は、なぜ侵食体と戦ってる? お前の力は闇の力だ。侵食体と同じ属性のはずだろ」
零はしばらく黙った。そして、初めて——本当に初めて、声から仮面が外れた。
「……あの本を読んでいたとき、僕はいつも一人だった。家にも学校にも居場所がなくて、レイスだけが味方だった。闇に生まれた存在が、それでも世界のために戦うことを選ぶ——その姿に、救われたんだ」
「……」
「だから僕は、闇の力で戦う。レイスがそうだったように。闇は悪じゃない。光が照らせない場所を、闇は守ることができる。——それが僕の答えだ」
蒼太は理解した。零もまた、物語を愛した子供だったのだ。孤独の中で、一冊の本に救われた少年。蒼太と鏡写しのような存在。
「零。一緒に戦おう。光と闇、両方の力で」
「……いいだろう。ただし、僕のやり方には口を出すなよ」
「わかった。ただし、仲間を傷つけることだけはするな」
「取引成立だ」
4人のチームが揃った。




