第17話 力の放棄
翌日から、蒼太は力を使うのをやめた。
侵食体が見えても、見て見ぬふりをした。凛からの連絡にも返事をしなかった。健吾にも避けられている——いや、自分から避けている。
塾にも行かず、学校でも誰とも話さず、ただ機械的に授業を受けて、家に帰って、眠る。
灰色の日常。力が目覚める前よりもなお暗い、真っ暗な灰色。
蒼太は思った。
——力なんて、なければよかった。
あの夢の声。『目覚めよ、若き勇者』。あんなもの聞かなければ、ただの受験生として、灰色でも穏やかな日常を送れていたはずだ。
蒼太は本棚の『勇者エルドの冒険』に手を伸ばし——そして、引き出しの奥にしまい込んだ。
もう見たくなかった。
日が経つにつれて、蒼太の中の光は薄れていった。スキルのステータスすら確認しなくなった。MPは回復しているはずだが、それを使う気力がない。
——俺は勇者なんかじゃない。ただの高校生だ。こんな重荷、背負えない。
1週間。2週間。蒼太は殻に閉じこもり続けた。
その間にも、東京の状況は悪化していた。渋谷の巨大侵食体は健在で、その影響は範囲を広げていた。不安障害やうつの報告は爆発的に増え、社会問題として取り上げられるようになった。
零からの接触もなくなった。一人で戦っているのか、それとも——。
蒼太にはもう、それを気にする余裕すらなかった。




