第15話 敗北
転機は、5月の中旬に訪れた。
渋谷で、今までにない規模の侵食体が出現した。危険度A。ビルの10階建てに匹敵する巨大な闇の塊が、スクランブル交差点の上空に現れたのだ。
一般の人間にも「何か」が感じ取れたらしく、交差点はパニックになった。空が暗くなり、不気味な圧迫感が辺りを包む。
蒼太は駆けつけた。凛も来た。そして——零も。
3人がかりの戦闘。蒼太は【浄光の矢】を連射し、凛は【風の詠唱】で侵食体の動きを封じ、零は漆黒の炎で闇を焼いた。
しかし、この侵食体は今までとは次元が違った。攻撃しても再生し、反撃の黒い触手が3人を薙ぎ払う。
「くそっ——!」
蒼太は吹き飛ばされてアスファルトに叩きつけられた。左腕に激痛が走る。折れたかもしれない。
それでも立ち上がろうとした。しかし——MPが完全に枯渇していた。指先からは何の光も出ない。
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残りMP:0/30
──警告:MP枯渇。スキル使用不可──
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蒼太は無力だった。
「桐谷くん!」
凛が叫ぶ。しかし彼女もMPが底をついている。
零だけがまだ戦っていた。漆黒の炎をまとい、侵食体と正面からぶつかっている。しかし、零の表情にも焦りが見える。
「——これは無理だ。撤退する!」
零が叫んだ。闇の波動で侵食体を一時的に押し戻し、3人はその場を離脱した。
後に残ったのは、渋谷の街に居座り続ける巨大な闇の塊と、パニックに陥った群衆だけだった。
ニュースは「渋谷上空の異常気象」と報じた。しかし蒼太は知っている。あれは気象現象なんかじゃない。
——負けた。
初めて、明確に「敗北」した。




