第14話 破綻
5月。ゴールデンウィーク明け。
蒼太の生活は、完全に破綻していた。
侵食体の出現頻度は加速度的に増加し、蒼太はほぼ毎日放課後に戦闘を行っていた。零と正式に手を組んだわけではないが、零が時々現れて援護してくれることもあった。
しかし、代償は大きかった。
成績は学年の底辺まで落ちた。塾は完全に休んでいる。母との関係は冷え込み、食事中もまともに会話ができなくなっていた。
健吾にも異変を感じ取られていた。
「蒼太、お前最近おかしいぞ。何かあるなら言えよ」
「……何もない。大丈夫」
「大丈夫って、お前の口癖になってるけど、全然大丈夫に見えないんだが」
「うるさいな」
その一言を言った瞬間、蒼太は後悔した。健吾の顔が、一瞬傷ついたように歪んだからだ。
「……悪い」
「いいよ。でも、お前がそういう言い方するの、初めてだぞ」
健吾は静かにそう言って、離れていった。
——何やってるんだ、俺は。
友人を傷つけ、母を遠ざけ、成績を捨てて——それで何を守っているというのか。
目に見えない敵と戦って、誰にも理解されず、一人で疲弊していく。
これが勇者の姿なのか?
こんなの、ただの馬鹿だ。
5月の第2週。蒼太は放課後、職員室に呼び出された。
毒島が、タブレットの画面を蒼太に向けた。FPSのグラフが表示されている。右肩下がりの急降下。
「桐谷。君のFPSは現在、学年で下から3番目だ。このスコアで受験学年を迎えるのは、率直に言って、学校のリソースの無駄遣いだね」
蒼太は唇を噛んだ。
「先生、FPSはあくまで予測であって——」
「予測は現実の反映だよ。AIは嘘をつかない。君の出席率、成績推移、課外活動のデータ——すべてが同じことを示している。『桐谷蒼太に投資する価値は低い』と」
毒島は眼鏡を光らせた。
「それから、もう一つ。白石凛くんの件だ」
蒼太の拳が、無意識に握りしめられた。
「彼女は生徒会副会長であり、学年トップクラスの成績保持者だ。君と交流するようになってから、彼女の成績にも微妙な揺らぎが出始めている。——君が彼女の足を引っ張っている、とは言わないがね」
言ってるじゃないか。蒼太は心の中で叫んだ。
「今後、白石くんとの不要な接触は控えたまえ。彼女のためにも、君のためにもだ」
蒼太は職員室を出た後、廊下の壁に背中を預けて、震えが止まるまで動けなかった。
——【叡智の瞳】で、こいつの弱みを暴いてやろうか。
一瞬、そんな暗い考えが頭をよぎった。しかしすぐに打ち消す。力を怒りに使ったら——それはもう、勇者じゃない。
だが、怒りは消えなかった。むしろ、侵食体の闇と同じように、蒼太の中で静かに膨らんでいった。
その夜、蒼太はニュースで奇妙な記事を見た。
「渋谷再開発プロジェクト、投資ファンド『ミコシバ・キャピタル』が主導——異常気象による地価下落地域を重点買収」
渋谷。侵食体が最も多く出現しているエリア。地価が下がっている——侵食体の影響で人が寄りつかなくなったから。
それを「買い叩く」投資ファンドがいる?
蒼太はまだ、それが何を意味するのかわかっていなかった。




