第13話 新宿の上位個体
翌日の放課後、蒼太と凛は新宿に向かった。
歌舞伎町の裏路地。人通りの少ないエリアに、今までで最大の侵食体が潜んでいた。ビルの3階建てほどの巨大な黒い影。無数の目と口を持つ、悪夢のような姿。
「……でかい」
蒼太の口から、思わず声が漏れた。
「桐谷くん、これ……」
凛の声も震えている。
蒼太は【叡智の瞳】を発動した。
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侵食体・上位個体
危険度:B
周囲半径500mの負の感情を吸収中
浄化には【浄光の矢】を10発以上要する
推定必要MP:80以上
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——80? 俺の最大MPは30だ。全力で撃っても、足りない。
「白石さん、援護頼む。俺が正面から攻撃する」
「わかった。気をつけて」
蒼太は覚悟を決めて飛び出した。【浄光の矢】を連射する。金色の光が闇を切り裂く。しかし、侵食体はすぐに傷を修復してしまう。凛の【風の詠唱】が影の動きを鈍らせるが、決定打にはならない。
——ダメだ。MPが足りない。
3発、4発。蒼太のMPがみるみる減っていく。5発目を撃った時点で、残りMPは2。視界が霞み始めた。
その時——。
「——情けないな、桐谷蒼太」
声が降ってきた。見上げると、ビルの屋上に黒崎零が立っていた。
零は片手を軽く振った。漆黒の炎が放たれ、侵食体の半身を一瞬で焼き尽くした。
侵食体が悲鳴を上げて後退する。零はビルから飛び降り——いや、闇を足場にして滑るように降りてきた——蒼太の前に立った。
「光の力だけじゃ無理だって言っただろう。闇には闇をぶつけるのが効率的だ」
「お前……助けてくれたのか?」
「助けた? ——そうだな、結果的にはそうなった。でも僕の目的は別にある」
零は蒼太に振り返った。銀色の髪の下から覗く瞳は、深い闇色をしている。
「桐谷蒼太。僕と手を組まないか」
「……手を組む?」
「侵食体はこれからもっと増える。君の光の力と、僕の闘の力。両方がなければ、東京は守れない」
蒼太は迷った。零の力は圧倒的だ。あの侵食体を一撃で半壊させるほどの。けれど、その力には何か不穏なものを感じる。
「……考えさせてくれ」
「いいよ。でも、あまり長くは待てない。時間がないんだ——文字通りね」
零は意味深な笑みを浮かべて、再び闇に消えた。
戦いの後、蒼太と凛はボロボロの状態で帰路についた。身体中が鈍く痛む。MPの枯渇は、肉体にもダメージを与えるようだった。
「桐谷くん……あの人、信用できるの?」
凛が不安そうに言った。
「正直、わからない。でも……あいつの言う通りだ。俺たちだけじゃ限界がある」
蒼太は自分の手を見つめた。あれほど輝いていた金色の光が、今は弱々しくちらついている。
——力が足りない。もっと強くならなきゃ。でも、どうやって?
答えは見つからないまま、蒼太はただ歩き続けた。
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