流れる。のを辞める⑦
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「――兄さんや」
「うおぉ!!?」
日が落ちた街中をあてもなくブラブラしていると、不意に背後から声を掛けられた。
振り向くとそこに居たのは――
「ひっひっ。よう、朝方振りじゃな」
あの古宿(?)の婆さんだった。
「なんだ、婆さんかよ!びっくりした……!」
「どうじゃったね?今日の一日は」
「はぁ?……あぁ、まぁ……良い事も悪い事も有ったかな」
後半の所為で前半が吹き飛ぶ勢いだったけど。
「で?なんか用かい」
「ひひ!おや、随分な言い様じゃのう。ちょいと口利きしてやろうと思ったが要らんかったかの?」
「口利き……?……って、何処に?なんの?」
「兄さん。あんた、冒険者ギルドに入りたいんじゃろ?」
「え?あぁ。ギルドに入っておいたほうが何かと便利かと思ってさ。……ん?もしかして婆さん……」
「ひっひっ……!儂ゃ昔に少しばかり冒険者を齧っておったでの。今でも多少の顔は利くんじゃ」
マジで!?渡りに船って事か?
「しかしこんな幼気な婆さんの助けを兄さんが要らんと言うなら仕方が無い。儂ゃこれで……」
立ち去ろうとする婆さんの足に慌てて縋り付く。
「待って!?謝るから!!」
「ん?待てよ。用が有ったのは兄さんのほうだったかいのぉ」
ぐっ……!
「俺なんでもするからさ!なんだったらもう一度あの宿に泊まっても良い!」
そこまで言い放ち、婆さんの顔を仰ぎ見る。
直ぐに後悔した。……婆さんがめっちゃニヤついていたからだ。
「なんでも、のぉ?」
「……いや待て、待ってくれ。なんでもって言ってもアレだよ?常識の範囲内で尚且つ――」
「ひっひっ。そうかいそうかい……ひっひっひっ!」
なんかヤバくない?これ。ヤバいよね?
失敗したか……?
「じゃあとっととギルドへ向かうとしようかね。兄さんや」
……あれ?
「あ、あぁ……だけど婆さん、俺に何か頼み事が有るんじゃないのか?」
「ひひ!今のところは無いから安心せい」
「あ……そう……?」
……いや、安心は全く出来ないけど……今のところはってなんだよ。……ま、今は婆さんに付いていくしか無いよな。
なんだか釈然としないまま俺は、先を行く婆さんに続いて歩き出した。
――――――――
「ちょいと邪魔するよ」
堂々とギルド内へ入っていく婆さん。
おぉ……これはもしかして、元は相当に高名な……?
一瞬期待は膨らむが、受付嬢の訝しむ顔を見て直ぐに萎んだ。
「……?……お婆さん、こんな時間に何か御用ですか?あっ、もしかして緊急のご依頼とか」
……おいおい。本当に大丈夫なのか?
「嬢ちゃん、ギルドマスターを呼んでくれんかね」
ギルドマスター?……ってアレだろ?ギルドの代表的な人だろ……えっ?ダメじゃない?
流石に、それまで丁寧に受け答えしていた受付嬢も露骨な溜息を吐く。
「――ふー……っ。……あのですね、お婆さん。ギルドマスターはお忙しいんです。それもこんな時間に……。いちおう聞いておきますけれど、面会のお約束などありますか?」
「約束なぞないわ。良いから呼んでおくれ、呼べば分かるでの」
「駄・目・で・すっ!どうしてもお会いになりたければまた明朝にでも――」
「どうした?そんなに騒いで」
ん?
あの女の人は……?
「エトナさん!……あっ、いえ大した事じゃ……」
エトナっていうのか。
へー、装備からして冒険者って感じだな。
背も高くて、シュッとした美人だなぁ……あんな人と冒険出来るなら戦うってのも悪くないかな……?
「おぉ、久しいのエトナ。ところでギルドマスターが何処に居るか知らんか?この嬢ちゃんじゃ話にならん」
「?…………!?も……もしかして貴女はヴィトリッタ様では……!?」
「ん?どっからどう見てもそうじゃろ。…………ぁ」
「そうですよね!?その魔力は……!お久しぶりでございます、しかし何故そのような――」
エトナの口は婆さんに塞がれる。
……んん?なんだろな、今の会話。
婆さんは何かを耳打ちすると、エトナから離れた。
「えっ…………はい、分かりました。そのように……おい、君」
「ヴィトリッタ様……?え、でも……」
受付嬢は困惑している様だ。ちなみに俺もめっちゃしてる。
「おい。急ぎギルドマスターに取り次ぐように。私の名を使っても良い。……いや、私も共に行こう」
「あっ……は、はいっ!」
……なんなんだ?
「おい……婆さん。あんた一体何者なんだ?」
「ひっひっ。ただの元冒険者で幼気な婆さんじゃよ」
「いやそんな訳……」
「――面会の準備が出来ました!ど、どうぞこちらへ!」
「よっこらせ。では行くかのう、兄さんよ」
「あ、あぁ」
さっきまでとはまた別の不安がでてきたんだが……。
ま……行くしかないよなぁ。
受付嬢と婆さんの後ろを大人しく歩く。
あー……なんだろな、この廊下の無機質な感じ。学校とかそんなんを思い出させるなぁ。
程なくして、一つの部屋の前で止まる。
「お連れしました、ギルドマスター」
「――うむ。入りたまえ」
ん。
なんか想像してたよりも若い声だな。
部屋に入る。
そこにはさっき見た女冒険者、エトナも居た。
んで……椅子に座ってるのがギルドマスターか。
……え?下手したら俺より年下じゃねーのかアレ。めっちゃ若く見えるぞ。
「やぁ、貴女が僕に会いたいという方かな。はじめまして。当ギルドマスターの『ダンタルタ』だ」
「ひっひっ。はじめましてじゃな?……いやいや、何を隠そう、あんたに会いたいのはこっちの兄さんでの」
「え!?」
俺!?
「ほれ兄さん。何をボーッとしとるか」
「えっ、あ……あぁ。――はじめまして。冒険者志望のアメトと言います……」
「ふむ。君の事も聞いているよ……この子からね。昼間にも来たそうだね?」
ギルドマスターの横に立つ受付嬢から会釈をされる。
「は、はい。でも、今は新規の登録はやってないという事で諦めたんです。が……」
そこで婆さんに振る。
「この人が口利きしてくれるというので、ついてきました」
「ひひっ。どうなんじゃ?この兄さんは登録出来るのかの?」
「……今、新規の登録を停止しているのは事実です。とある事情がありまして」
事情……?
「ほう?それは、儂の頼みでも聞けん……そういう事かの」
「ヴィトリッタ様……」
「どうなんじゃ?言うてみぃ」
……いや、あのさぁ。
はじめましての設定はどこいったの?絶対に知り合いだろお前等。
婆さんが曲がりなりにも俺の為にやってくれているのは伝わるので、口は挟まないけどさ。
「……はぁ。分かりました、その者の登録を特別に許可しましょう」
「ひっひっひっ!物分かりが良くて何よりじゃ。そうかい、よかったのう兄さん」
「そうだね……?」
良かった。……そりゃ良かったよ?
でも今は、どっちかっていうと婆さんの正体が知りたいんだけど。
「そうと決まれば先ずはアレじゃのう。な、ギルドマスターよ?」
「冒険者になる以上、それは勿論そうです。――おい、準備を」
「は、はいっ!急いで準備します!」
受付嬢が何処かに駆け出していった。
……えっ、何かやらされるの?嘘。
俺、何も出来ないよ?




