流れる。のを辞める⑥
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「――只今、当ギルドでは新規の登録をお断りしております」
意気揚々とギルドに乗り込んだ俺は、ギルドの受付嬢から開口一番にそう言われてしまった。
えぇ……?
親父さんに貰った紹介状とか、そんなの関係無くなった……って事?
ダメ元で出してみようか。……そう考えもしたけど、登録自体やってないなら意味……無いよなぁ。
「あの、いちおう聞いてみますけど……どうしても駄目?なの?」
「申し訳ありませんが」
――駄目だな、これは。とりつく島もない。
「はぁ……。分かりました…………」
ギルドの外に出てへたり込む。
……酷く重い気分だ。
これからどうしようかな……。いっそ、別の街のギルドとか……?
うーん。
いやでも、まだ自分の能力も把握出来ていないのに、そこまでの決断は難しいな……
……どうしよう。
目を閉じて考えていたら、何かが足にガンとぶつかった。
「痛っ!」
「ん?ぶつかってしまったか、申し訳ない。だが君、そんなところに座り込んでいては危ないぞ」
「あ、そうですよね。どうもすみません……」
目を開けて移動しようと立ち上がり、迷惑を掛けてしまった人に頭を下げようと顔を見る。
「ぅお……」
「?……僕の顔に何か付いているかい?」
「あ……いえ!どうもすみませんでした!」
「いや。こちらこそ済まなかった」
その人物はギルドの中に消えていった。
……なんだアレ。
あんなイケメンが存在して良いの?なんかキラキラしてたんですけど。
鎧も似合ってたなぁ。なんか某ゲームとかのそれみたいだったけど、イケメンは何着ても似合うんですね。……羨ましい。
「はぁ…………。取り敢えず移動しよう」
「おい、見たか?」
「あぁ。……くく、良いカモ発見だぜ」
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「よう兄さん」
……。
この通り、人が少ないし……なんか薄暗いなぁ。
「おい無視してんじゃねーぞ」
――っ!?
視界が大きく傾く。
いきなり肩を掴まれた……のか?
「何シカトこいてんだよテメェ」
そもそも気付きもしなかった……とは、とても言い出せない。
男三人組……。こいつら、どう見てもチンピラだよなぁ……
「兄さんよ。お前、随分と懐が暖かいみたいだよなぁ」
男達の視線は俺の腰……に、提げている袋に注がれている。
しまった……。金貨の入った袋を無防備にし過ぎたか。
そこまで気が回らなかった……くそ。
「俺らさぁ、ちょっと金に困ってんだわ」
知らねぇよ。
「なぁ!!」
なんだよ、うるせぇよ。耳元で大声出すなよ。
「貸してくんねー?大丈夫大丈夫。その内に返すから」
「――そつけ」
「あ?なんつった、今」
あー……怖い。こういうの、苦手なんだよな。昔から。
「嘘つけって言ったんだよ。ばーか」
声が震えてるのが、自分でも分かる。
血がどんどん冷たくなっていく感じも、……だけど汗が噴き出るのも。
「状況分かってねーのかこの馬鹿は?……おいお前等、少し分からせてやれ」
「がっ……!」
リーダー格らしき男が言い終わる前に、横に立つ男から腹にパンチを喰らう。
……痛い、痛いってマジで。なんでこんな事されなきゃならねーんだよ。
「殺すぞ。何、一発でへたってんだよおい。……なぁ!!」
「――っ!?」
頭に横薙ぎの蹴りを喰らって、一瞬意識が飛ぶ。
理不尽な暴力。
こんな事、昔にもあった様な気がするなぁ……
「なんだおい?上等かましておいてコレかよ。テメェ本当に殺してやろうか」
口の中に鉄の味が広がる。
何発もパンチを喰らい、遂には腹の中のモノを戻す。
身体中が、痛くて熱い。痛すぎて、気持ちが悪い。
意識が朦朧とする。
……やべ、このままやられたら本当に死んじまうかも……
「……も、かんべん、して」
「あァ?聞こえねーよ」
また、腹に蹴りを喰らう。……もう……あんまり、痛みを感じないな……
「勘弁して、……下さい」
「借りても良いよな?」
借りる……?
あ……金か。
「はい……どうぞ」
リーダー格の男が腰の辺りを弄る。
…………。
……仕方無い、よな。
本当は……本当に、渡したく、無かったよ。
恩人に貰った大切なモノなんだから。
奢ってもらった食い物も吐き出しちまってさ。
でも……やっぱり。
やっぱり。
俺は、流されるままにしか……!
「……?おい。なんだこの手は?」
気付けば俺は、金貨を奪おうとする男の手を掴んでいた。
……どうして……だ?
なんで俺は、こんな事……
「離せよ、オラァッ!!」
頭を思いっきり踏みつけられる。
「ぐっ……うあぁぁあ!!!」
割れる……割れそうだ……!
…………でも……!
「取りたい……なら、殺せよ……!」
「……!?お前、何言ってるか分かってんのか?」
「殺せ……!殺して、みろよ!!」
なんでだろう。こんな事、一度だって考えた事も無かったのに。
どうしても、渡したくないんだ。
流れに……逆らってみたく、なったんだ。
「馬鹿かこいつ?殺さねぇとでも思ってんのかよ」
思ってねぇよ。
「殺してやるよ……!!」
頭蓋からミシミシと嫌な音が鳴る。
思って……ねぇよ。殺さないなんて。
自分から飛び込んだ世界だ。分かってんだよ。
「だ、けど……よぉっ!!あ、あァア……!」
「死ねよ……早く死んじまえよ!!」
もう……っ!!
「流されるままなのはっ、御免なんだよ!!!」
本当に死ぬ……そう思った時。
――その瞬間、確かに聴こえた。
何故か、今まで全身を襲っていた痛みさえ何処かに消え去った。
(死なせない)
だ、れ……?
(だから指先で私に触れて。心配しないで、私が貴方を死なせない)
触れる……。
(そう……指先に意識を集中して……)
なんだ?……身体の奥から、何かが湧き出るような……。
(――ありがとう。これで……!)
一瞬、何かと……俺の意識が、混ざった様な気がした。
――そこで、俺の意識は途切れた。
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「ぅ……」
痛っ……!
……たく、ない?……あれっ?
全然痛くない……なんでだ?
「まさか、全部が夢だった?……なーんて」
……そんな訳、ないよな。
第一、目の前に転がる男達が如実に物語っている。
全てが、現実だった事を。
「じゃあどうして傷が……?……それに、あの時の声は……」
なんだったん、だろうか。
それに、この男達……。
「これ、死んでる……よな」
触って確認するまでも無い。見たら……分かる程に。
「…………」
なんだろ。あんまり……感情は動かないもんだな。
死体を見るのは、そりゃ初めてって訳でも無いけど……流石に殺された人を見るのは初めてだ。
「でも……。別に、何も思わないな」
こいつらが悪人だから?そう、思っておけば……良いか。
「時間……は、そんなに経ってないな」
空に浮かぶ、元の世界に有った物よりも少し小さく見える太陽。
その位置は、気を失う前とそんなに変わっていない様に思える。
「おーい。さっき俺に話しかけてくれた……っていうか、助けてくれた誰かー?」
勿論、返事は無い。
何せ……見渡しても、人影のひとつも無いからな。
「やっぱ居ない……か」
ま。……居ないものは仕方無い。
取り敢えず……移動しよ。
……こいつらは……このままで良いや。知ったこっちゃないし。うん。
「――ひひっ。久しぶりに見たのう。……どうじゃ?」
「あぁ、驚きに驚いたぜ。どっちにもな」
「本当じゃったろ?」
「……あぁ」
「ひひっ!縁は形を成していく。大きい存在は図らずもデカいモノに引き寄せられる。そういうモンじゃ」
「俺にゃさっぱりだが、相変わらず怖い婆さんだよ」
「さて。確認も終わった事じゃし……あの兄さんに少しばかり助け舟でも出してやるかね。借りもあるしのう……ひっひっひっ!」




