流れる。のを辞める⑤
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――ぎゅるるる……
「あー……腹減ったなぁ……」
この世界に来てから恐らく丸一日くらいは経つが、その間、何も口にしていない事に今更ながら気付く。
「今日は冒険者とかの話を聞いて回りたかったけど、まずは腹ごしらえだな」
昨日みたいな屋台よりも、やっぱちゃんとした店で喰いたいが……。……お?
「これは食い物屋、だよな」
看板に肉と魚らしき絵が描いてある。
……よし、入ってみるか。
暖簾を潜る。
中は……カウンター席に、テーブル席。
ここらへんの作りは、普通に見慣れた感じだな。
「――らっしゃい!何名様で!?」
人差し指を立てる。
「ハイよ、一名様ご案内!」
可愛い制服(かな?)を着たウェイトレスの女の子に案内され、カウンター席に座る。
「さ、何にしやしょう!?」
……どうでも良いけど、なんでこんなちゃきちゃきなんだろ。そういやニーナからは関西弁も聞いたよな。
「あー、そうだな……おすすめなんかは有るかい?」
「あいよー!おすすめいっちょう!」
まだ決めた訳じゃないんだけど。……ま、いっか。
注文した品が来るまで、置かれた水を啜って待つことにする。
そうしていると自然に、隣に座る二人連れの話が耳に入ってきた。
「なぁ、聞いたか?例の話」
「ん……どれだ?草原に出るって噂の人食いシマウマの事か?」
なにそれ。
シマウマが人を喰うの?めっちゃ気になる。
「違う違う。ニーナ様の話さ」
「あぁ……例の犯人はまだ捕まってないんだってな。くそ、俺達に出来ることが有れば何でもするのによ」
「はっきりとした証拠が有る訳じゃないけど、十中八九……犯人はあの馬鹿貴族だろ?諦めが悪いにも程があるよなぁ」
「多分な。だけど尻尾を掴ませないあたり、しょうもない悪知恵だけは働くみたいだな」
「違いねぇや!」
ハッハッハ……と笑う男達。
ニーナ……やっぱ予想通り、面倒な事に巻き込まれてるみたいだな。
俺も、何か力になれたら良いんだが……まだ事情も良く知らないからなぁ……。あれは、カーンさんの気遣いだ。
無関係である俺を、無闇に巻き込まない為の。
だけど……いや、だからこそあの家には大きな恩がある。
なんとか、力になりたいな。うん。
と、いうことは……ここはやっぱり冒険者になるのが良いのかな?
戦いとかは怖いけど、戦い以外にも稼げるってイメージが有るし。……勝手なイメージだけどさ。
「あいよ兄さん、お待たせ!ウチのおすすめの煮込みだ!」
ドン!と目の前に大きな皿が置かれた。
肉と豆の入った料理みたいだな。横には米っぽいのが盛られている。
へぇ……米、有るんだな。かなり嬉しい。
「いただきます」
スプーンで掬い、煮込みを口に運ぶ。
おぉ、これ……多分豚肉だ。しかし豚肉特有の臭みも殆ど無く、にんにくの風味と程よい塩気があって旨い。
「旨い、旨い」
咀嚼しながら、米も掬って口に放り込む。……うん、合うな。食感は少しだけ硬めだけど美味しい。
こんな感じのモノが有るなら、食べ物の心配はあまりしなくて大丈夫そうだ。よかったよかった。
半分程食べ進めたところで、店主に話しかける。
「なぁ親父さん。ちょっと聞きたいんだけど、冒険者のなり方って知ってるかな?」
そう言うと、店主はなんとも不思議そうな顔をする。
「あん?なんだ兄さん、ンな当たり前の事を……あっ、分かったぞ!もしや兄さん、よっぽど田舎の出だな!?それが街に出てきたばっかりってとこだろ、服装も変わってるしよ。どうだ、当たってるかい?」
なんだかちょっと不本意だけど、ここは流れに乗っとくべきだな。
「実はそうなんだよ。昨日もさ、宿すら見つけられない体たらくで……。田舎の村から冒険者を目指して出てきたはいいものの、ね」
店主は何度も大きく頷く。
「うんうん……!男一匹!故郷を捨てて、夢を追い駆けてるって訳だな!好きだぜそういうの!」
おいおい、泣いてるぞ……
「良いねぇ、青春だねぇ。こんちくしょう……!!俺の料理も旨いって言ってくれたしよ、嬉しいねぇ!おし、気に入った!おっちゃんになんでも聞いてくんな!」
「あ、ありがとう……?いや、冒険者についてなんだけどさ」
「あーあーそうだったなぁ、いや悪い!近頃忘れっぽくてよ!」
「気にしてないから教えてもらえるか?」
「おう冒険者な!兄さん、ギルドは知ってるかい?」
ギルド、そして冒険者といえば……
「いわゆる【冒険者ギルド】って奴かな」
「そう!冒険者になりたきゃそこに行くのが一番早ぇえんだ。おぅそうだ、良けりゃあ一筆紹介状を書いてやるぞ」
紹介状?
「親父さん、元は冒険者かなんかだったのか?」
「まぁー、昔ちょいとな!で、どうする?」
そりゃ勿論。
「お願いしてもいいか?コネは有ったほうが良いに決まってる」
「よし来た!!ちょっと待ってな、紙とペンを持ってくるぜ」
「――おい、マジか?まさか……」
「あぁ。あの兄ちゃん随分と――」
……ん、なんだ?
隣の二人組が随分とざわついているような……
「おう、待たせたな!書いたぜ紹介状!」
あれ?紙とペンを持ってくるって言ってた気がするけど、もう書いてくれたのか。仕事の早い親父さんだなぁ。
「良いか兄さん。これを持って、この街で一番高い建物に行きな!そしたら兄さんは晴れて冒険者だこんちくしょう!」
なんでこんちくしょうだよ。
「はは……。いや、本当にありがとう親父さん。助かるよ」
「良いって事よ、べらんめえ!!」
出会ったばかりの俺に、なんでこんなに親切にしてくれるのかは分からないけど……悪い人じゃなさそうだし、これは素直に受け取った上で感謝しよう。
残りの飯もかっ込み、ドン!とカウンターに置く。
「いや旨かった、ご馳走様でした」
紹介状をズボンのポケットに突っ込みながら立ち上がる。
えーっと、伝票とかは……無いのかな?
「親父さん、ご馳走様。いくらかな」
「あぁん!?良い、良い!今日は俺の奢りだ!!故郷から出てきたばっかりなんだろ!?」
「いやいや、ここまでしてもらってそれは流石に……」
「良いっつったら良いんだよ兄さん!とっととギルドに行きな!」
背中をバン、と叩かれる。
ジーン……とする痛みは、だけど少しも嫌じゃない。
「じゃ、じゃあ有難く。料理、美味かったよ親父さん。また来るぜ」
「おう!今度は冒険者として、な!!」
暖簾を潜って外に出る。
なんだか気圧されたけど、素晴らしい出会いだったなぁ。
「さて……と。一番高い建物は……」
ぐるっと辺りを見渡す。
ほぼ真後ろを向いた時、その建物は見えた。
「あ。アレか」
他の建物に比べて、頭二つ分くらい抜けたのが有る。
「よーし、行くかぁ!」
なんか色々あったけど、俺の異世界生活がやっと本格的に始まりそうだぜ!
「――らっしゃい!……ん、なんだ。アンタか」
「ひっひっ。馳走になりに来た客に向かって随分だね」
「どうせツケだろうが!まぁいい、何にする?」
「そりゃあカエルさね」
「あいよ、カエル丼いっちょう!!」
「ところで。儂の前に黒い髪をした客が来たろう」
「ん?おう、なんだ知り合いだったのか?」
「そういう訳でも無いんじゃがね。……そうかいそうかい。やっぱりねぇ」
「なにがやっぱりなんだ?」
「ひひっ。あの兄さんは面白いぞ……楽しくなりそうじゃ。……ひっひっひっ!」
「相変わらず訳分かんねぇ婆さんだな」




