流れる。のを辞める③
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「お前の話が本当なのは分かった。……だが目的はなんなんだ?一体どうして世界なんぞを渡ろうと思った」
「そこだよねー」
「ぜー……はー……」
ちょっ……と待て。何も無かったかのように話を続けるなおっさん。
「自分が居た場所を捨ててまで、世界を渡ることのほうにメリットが有ったという訳なのか?」
「はー……、ふー……。……ふぅ……やっと息が落ち着いてきた……」
「ごめんねー、つい」
つい、じゃねーっつの……
「いやまぁ良いよ……。……で、なんだっけ。おっさん」
「この世界に来た事による、お前にとっての得とはなんだ?」
あー……それか。
「それなら単純だ。俺は、変わる……変われるきっかけが欲しかった。この世界には魔法とか魔力とかの力が有るんだろ?俺の世界にはそれが無い。才能とかの個人差はそりゃ、有ったけど。でも、自分の居場所を犠牲に世界を渡ることで新たな能力を授かれるって書いてあったんだ。本に……。なら、答えは一つだった。少なくとも俺にとってはね」
「何故だ?」
えっ?
「新たな力を得たところでお前は変われると、何故思う?その程度で変われるのなら元の世界でも良いではないか」
おっさんは多分、単純な疑問を投げ掛けている。
でも……
そんなの、俺にだって分かんねぇよ。
「とりあえずのきっかけが欲しいってのは別に悪じゃないだろ?変わりたいと望む事も……」
「……。人はそう簡単に変われるものなのか?……まぁ良い。私には関係の無い事だ……第二の人生を送りたい、というのも分からなくも無いしな」
簡単に、……か。
「アメトよ。お前がそれほど害の無い男なのは分かった。解放する故、好きに生きるが良い。少しばかりの路銀も用意させよう」
「……え」
ズシッと重い袋を受け取る。
マジで?
自分でいうのもなんだけど、こんな怪しい奴なかなか居ないと思うぞ……?
「世界を渡ってきたばかりという真実は、お前がこの世界に於いてまだ何もしていない事と同義だ。……つまり犯罪歴等も皆無という事。ならば、私の一存で此処へ縛り付けるなどという愚行は出来まい」
おっさん……。
「あんた……思ってたよりもずっと良い男だったんだな。……いや。――ですね」
……俺は、事情を話している様で実際には肝心なところをはぐらかしている。
おっさんはそこら辺を全て理解した上で、失礼な俺を許し、見逃し……多分俺の感情を察して、好きに生きろとまで言ってくれた。
思わず自分から敬意を払いたくなる……本当に、出来た大人だと思う。
俺には到底なれなかった……なりたかった、な。
「最初に発見したのが我が家の者だったのも、きっと何かの縁なのだろう。お前にはヴァンシュタイン家が後ろ盾となる……その証となるこの家章を授けよう」
これは……バッジか。
こんなの、貰っちゃって良いのかな。
「構わん。人材は宝……お前が宝になるかは知らんが、別に何処かで野垂れ死んだところで損にはならんからな」
ハッハッハ……!!と笑うおっさん。
そりゃそうだ。今の台詞で、むしろこのおっさんが更に好きになった。
しかし異世界に来たばっかで、デカい恩が出来たもんだな。
「ねー。お兄さんはこの世界で何をしたいの?」
何をしたいか……か。
「カーンさんに言われたから、って訳じゃないけど……好きに生きるよ」
「て言っても、やりたい事は有るんでしょ?」
うーん……
「……ちなみにさ、この世界には『冒険者』って職業は有るの?」
ありきたりかもだけど、やっぱりロマンだよな。
「あー、あるよ。モンスターと戦ったりダンジョンに行ったりしてお金を稼ぐ人達でしょ?」
「戦いかぁ」
正直……無理じゃね?
俺の授かった能力が分かればまだ、だけど……そもそも俺に戦いなんて出来るのか?
生き死にっつーかそれ以前に、戦いそのものが怖いんだよな。
「大抵は魔法持ちの人らしいけど。じゃないと結構厳しいって聞いたー」
「へぇ、この世界は魔法を持ってる人ばかりじゃないんだな」
「んー、半々?」
ふむ。
「のんびり暮らすってのも悪くないよな……どっか安全な場所で」
「それなら我が街に場所を用意してやるぞ」
マジか。
「ありがとう……カーンさん。でも、暫く見て回って……それから決めるよ」
「そうか。まぁ、好きにしろ」
マジでなんだこの人は。惚れそうになるだろ……いや流石に無いけどさ、俺は女の子が大好きだから。
「それにどちらにしろ、今すぐは取りかかれん。……こちらにも色々と事情があってな」
さっきの、ニーナの事情って奴か。
なんか助けになれりゃ良いけど……まだそこまでは踏み込んじゃいけないよな。
大体、俺が力になれる訳無いし。
「じゃあ、取り敢えず俺は行くよ。色々と世話になった……ありがとう、二人とも」
「うむ」
「まったねー」
そのまま、俺はヴァンシュタイン家を後にした。
「さー……て、と」
街の大通りを歩きながら考える。
取り敢えずは……宿か。うん、宿だな。
野宿は嫌だ。
「宿は……」
……どれだ?
話す言葉は理解出来ても、文字は全く読めねぇ。
……いや、頑張れ俺!ニュアンスでなんとか……!
うん。全っ然分かんねぇ。
「今日のクエストは厳しそうだね」
「でもさ、先月のアレよりはまだマシじゃない?」
おぉ……あの女の子達、耳が長い。それに大分、薄着だな……
あれが冒険者ってやつか。
よくよく辺りを見渡せば、色んな人が居るな。
肌の色も、体の造りもバラバラ。本当に異世界に来たんだって実感が湧く。
……ん。…………あっ、そうか!人に聞けば良いんじゃねーか!こんな簡単な事、すぐに気付けよ俺……!
「あのー……すいません」
適当な出店の店主らしき男の人に話しかける。串焼きみたいなのを売ってるようだ。
「お?いらっしゃい!何本だい?」
「あ、いや、えーと」
「おすすめはこの『カエル肉』だ!一本で銅貨十枚だぜ」
どうしよう。
道を聞きたいだけなんだが……やっぱ何か買ったほうが良いよな。……いや、でもカエルはちょっとな……
「あー……じゃあこっちくれるかい?一本で良い」
「お!お兄さん通だねぇ。……はいよ!『トカゲ肉』銅貨十五枚だ!」
トカゲかよ。まぁ……カエルよりはいいか。つうかトカゲのほうが高いんだな……
「えーっと……?」
カーンさんに貰った袋を開ける。……めっちゃギンギラギンだ。
いや、これ……全部金貨じゃないのか?
一枚を取り、屋台の主人に見せる。
「これで払えるかな?」
「ん……金貨!?いやいや、そんなの出されてもお釣りが足りないよ!他は無いのかい?銀貨か銅貨は」
「無い……みたいだ」
「みたいって……まさかアンタその金、どっかから盗んだんじゃ……?」
「……は!?いやいや、違うよ!これは貰ったやつで――」
「どうも怪しいな。衛兵を呼ぶか」
まずい。すごくまずい……!
……あっ、そういえば……
「コレで信用してもらえないか?」
取り出したのは、ヴァンシュタイン家の家紋が入ったバッジ。
「あん?一体なんだって……。……!?あ、アンタ!これはヴァンシュタイン様の……!!」
お。
良かった、やっぱ通じるんだな。これでどうにかピンチは避けられそうだ。
そうしたらようやく宿の場所も聞けそうだ。
「し……失礼を!とんだ失礼を致しました!!お詫びに、ここにあるもの全て持っていって下さい!!」
へ?
「大恩ある領主様の関係者様とはつゆ知らず!どうかお許しを……!!」
えぇ……?
とんでもない量の串焼きが入った袋を押し付けられてしまった。
……いや、それはまだ良いんだけど……
――ざわざわ……ざわざわ……
なんでか、街中に注目されている気すらする。
……いや、無理無理……!!変な汗出るって!!
「……くっそ!」
串焼きを持ったまま、逃げ出すようにその場を後にした。




