流れる。のを辞める②
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「はいっ、到着」
いやいや……
「ここが私のお家でーす」
デカい門。強そうな門兵。広い庭。
「開ーけーてー」
「はっ!只今!」
「…………」
そして……バカでかい家、ときたもんだ。……つうかホントに家かコレ?城じゃないの?参ったなこりゃ。
「さ、どうぞ?……あれ?どうしたのお兄さん。おーい」
「未だ名も知らぬ美少女ウサギが手を振っているが今の俺はそれどころじゃない」
「お?そんな事実を急にどうしたどーした」
あれ、あまりの衝撃の所為でうっかり声に出てたか。
嘘は言ってない筈だからそこは良いんだけど……
「――やっべぇ……!!」
てっきり、この見た目で警備関係のお偉方かなんかかと思ってたのに。
よくあるギャップ狙いかと思ってたのに……!
「……お、お嬢様?」
「お嬢様ですけどなにか?」
――やっぱそうなのかよ!!
くそっ、やっちまった!やっと、やっと念願叶って異世界に来れたっつうのに!
初っ端から弩級の展開、引いちまった……!
金持ちの娘って事は、その子に話しかけただけで即、檻にぶち込まれたって事は。
……確実にトラブル持ちじゃねぇかバカヤロー!
「聞くだけ聞いてみたいんだけど。あのー……俺、ここで帰ったりしても良いのかな?」
「またまたー。せっかく解けた疑いが復活するかもですよ?」
「だよね〜。うん、言ってみただけ……」
理解ってたけどさ……。
大体、馬鹿か俺は?何処に帰るんだよ。
……ま、ここは大人しくこの子に付いてくしかないか……
長い廊下を歩く。
すげぇ……。そこら中に、高そうな宝石が付いたモンがいっぱい飾ってあるぞ。
この世界の通貨は知らんけど、俺が知ってる通貨に換算したら一体いくらになるんだ?
…………此処で生きてくにも金は必要になるよな勿論。こっそり持ってったらやっぱバレんのかな……一つくらい……
「ねー、お兄さん」
「……んっ!?ど、どうしたのかなお嬢様!?」
「そういえばお兄さんの名前はなんていうの?」
「あ……あぁ、名前!名前な!俺の名前は『天渡』、アメトだ!テントじゃないからな、そこよろしく」
名字は……まぁ別に言わなくても良いよな。
「間違えるわけなくない?」
「いや、読みがな……」
「読み?」
「すまん。なんでもない。とにかくアメトだ、よろしくな」
「アメト……アメト。よし覚えたよー」
「あぁ。今度は君の名前を聞いても?」
「私は『ニーナ・ヴァンシュタイン』。ニーナって呼んでね」
「ニーナ……素敵な名前だ」
響きが可愛い。見た目も可愛いので更に素晴らしい。
元の世界で好きだった城に似たファミリーネームなのもグッドだ。
「なになに、軟派?軟派お兄さんだったのかな」
「いやいや。本心からの感想ですよ、はい」
「ふぅん。……ま、良いや。素敵で可愛い美少女なのは周知で確固たる事実だからー」
すっげー自信。
羨ましいぜ……
「でもアレですよ?私、許嫁がいるからね。いちおう」
「へぇ。許嫁か、初めて本物を見た気がするぜ」
「本物?」
「いや。ニーナは本当にお嬢様なんだな」
「せやでー」
なんで関西弁?
「さてさて、着きました」
長い廊下を歩いた先にあったのは、両開きの大きな扉。
いかにもだなぁ。
「たのもー」
言葉の調子とは真逆の勢いで、デカい音を立てて扉をバーン!と開けるニーナ。
「連れてきたよ、御父様」
部屋の奥、これまた大きな椅子にドカッと座る男。……彼女の父か。
スーツの上からでも分かる筋骨隆々の身体にウサ耳はマジで似合わないな、うん。
「ニーナ。私を呼ぶ時はパパと呼ぶようにと……」
「ガチ勘弁」
「……そうか……」
筋骨隆々のうさ耳おじさんが凹んでいる。なにコレ、笑って良いの?ねぇ?
「……うおっほん!……君が件の男か」
件のってなんだよ。
「話は聞いているぞ。なんでも、街中でうちの娘に狼藉を働いたそうだな」
は?
「狼藉って、いやいや……!俺はなんにも――」
「ニーナちゃんに声を掛けたろうがぁッ!!!」
……えー……?
「面識も無い女子にいきなり声を掛けるなど不埒の極みではないか!!それもよりによってニーナちゃんに!!」
……言いたい事は色々あるけど。何より気になるのは……
「いや。…………ちゃん付けって」
「何だァ!!?自分の娘を呼んで何が悪い!?」
「いやぁ、あのですね……」
きついって……めっちゃ言いたい。
いやでも、このおっさん怖いしな……
「御父様」
「おぉ、ニーナちゃんからもこの不埒者に言ってやってくれるか!!」
「ほんっ…………とに気持ち悪いからやめて。恥ずかしいしマジ無理だから」
おっさん……もう凹むっつうか床にめり込んでる。大丈夫か?
「そんな事より早くこの人に事情を説明してあげて。誤認逮捕だったんだから」
そうだった。それを聞かない事には始まらないよな。……あんまり聞きたくないけど。
「改めて謝らせて、お兄さん。有無を言わさず檻に叩き込んでごめんね」
「ま……そんなに気にしてないから。すぐに出れたし」
「実はね、御父様からこの街の衛兵や私の護衛に命令が出てたの。怪しい奴が居たら即、捕まえろって」
そのくらいは予想してたけど、重要なのはその先だ。
この子が金持ちの令嬢でも美少女であっても……いくらなんだって声を掛けただけで、なんてのは有り得ないよな。
つまり……
「そうしなきゃならない事情って、なんなんだ?」
「それは……」
「そこからは私から説明しよう」
「……おっさん」
復活したのか。
「おっさんではない。私は『カーン・ヴァンシュタイン』だ」
「あ、はい。よろしく、カーンのおっさん」
「このっ……」
「御父様」
「く……!……ふんっ。貴様の名はなんという」
「俺はアメトだ。よろしく……あ、敬語とか使ったほうが良い?そこら辺、まだ理解ってないから失礼が有ったら申し訳ないです」
「そんな事はどうだって構わん!……だが、ヴァンシュタイン家に対する敬意は持っておけよ」
おぉ。……結構話せるおっさんだな。
「で、だ。アメト……だったか?お前は一体何者だ?何処から来た」
「えっ?なんでそんな事……」
「国どころか街の住民登録にすらお前の名は無い。データも無い。更には入街記録にも、犯罪歴が有る人物のデータベースにもな」
そんなのが有るのかよ!
やっべ……思ったよりもしっかりした世界なんだな。……それともこの街が特別に発達してるのか?
「正直に話せ。お前は何処の手の者だ……何が目的でこの街に入ったのだ。ニーナの事情とは関係は無さそうではあるが、この街の領主としてそれを聞かなければお前を解放する訳にはいかん」
まさかの領主なのかよ!……めんどくせぇ……!だから嫌だったんだ。
いや、でも……こんなの適当に誤魔化すしか無くないか?正直に話したところで、信じてくれる訳無いし。
「いや、あのですね?実は……」
「待て。――おい、入れ」
おっさんの声で、一人の人物が部屋に入ってきた。
ん?なんだあいつ。フード付きのローブで顔まで隠しやがって……
「嘘を見抜く魔法を持つ魔法士だ。これでお前の言葉が真実か否かを判別する」
マジか。すげぇな魔法。……ていうかチートだろ。
……でも、この世界に来てから一番の幸運だ!こりゃ運が巡ってきたぜ。
その場しのぎの通用するか分かんない嘘なんて言わずに、ただただ真実を話せば良いんだからな。
そこから俺は、経緯を話した。
異世界から転移してきたなんていう、突拍子もない話を。
「そんな事が現実に……?信じられん。られんが、しかし……」
「領主様。この男が言った事は全て事実のようです」
「むぅ…………っ」
そりゃ信じ難いよな。うん、良く分かるよ。俺だって自分に起きた事じゃなきゃ信じてない。
「おー……」
「っ!?ちょ……ちょっとお嬢様!?やめてくすぐったいから!」
ニーナの細い手が俺の身体をまさぐってくる。
「おもしろー……!お兄さんが宇宙人……!」
「い、いやどっちかっつーと異世界人……あっひゃっひゃっ!」
全然やめてくれない……!
「こらっ、ニーナちゃん!男の体に軽々しく触るなんてはしたない!」
「うざいから」
「ぐふぅ……」
「ぐふぅ、じゃねーよ!おいおっさん!」
「おっさんじゃない……」
「助かったと思ったのに!……あっはははは!も、もうやめてー!」
「おー……」
その後、力任せに振りほどく訳にもいかない俺は五分くらい、お嬢様の責めに耐えた。……誰かに褒めてもらいたいくらいには耐えた。




