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レインドロップ  作者: uyu
1章

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18/19

流れる。のを辞める⑱


 震える手でバックパックからポーションを引き抜き、一息に飲み干す。

 残りは……二本。

 「なんだ……このヤロー。余裕かよ」

 この一連の動作を、値踏みでもしているかの様に泰然と見逃されると流石に腹も立つ。

 「それが強者の権利だ」

 ムッカつく……!言い返せはしないけど……


 「お前は何を以て冒険者を目指した?」

 ……あぁ?

 「貧弱な身体。欠片も感じない魔力。お前からは何も届かない」

 ……あぁ……。

 「通常、人は何かが秀でているからこそ何かを目指す。なのに何故?」

 「……うるせぇ」

 「身の丈を知れ。己の器を知れ。どの道だろうが履き違えれば待つのは絶望なのだから」

 「うるせぇっつってんだろ……!?」

 犬か狼かモンスターか知らねぇけど、上から物言ってんじゃねぇよ……!

 「――以前はそうしたのだろう?」


 「……!?」

 「己には何も出来ず。何も変えられず。流れるままに身を任せ、大勢に迎合し」

 なんなんだよ、こいつ……なんで……

 「自己発信のつもりで多勢の力を借り、多勢に入り込み、己を守る。お前はそれで満足していたのだからそれで良かったのではないか」

 ……やめろ……

 「それは決して恥ずべき事では無い。それも人間なのだから」

 やめろ……!!

 「下らぬ想いを抱いたままにこんな場所で死にゆくか?今まで通りに逃げ続ける事も幸せではないか?お前にとっては――」


 「――やめろ!!!」


 「知らねぇよ!!()()()()()()()()……!俺に干渉してくるな!!」

 「どれだけ強い言葉を用いても変わらない。お前はただ()()()()だけの人間だ」

 「理解ってんだよ!だから変わりたいんじゃねぇか!」

 「それは本心か?つまるところ、お前は逃げただけでは無いのか」

 「俺が何から逃げたって……!?」

 「()()()()。この世界へと」

 「っ!!」

 てめぇに何が……!!

 「何が分かるんだ!!?」


 【動】だ!動け……岩!!

 アイツの土手っ腹にブチ込んでやる……!


 「念……?」

 !?

 動かす前に、岩のほうを見やがった……!?

 「くそっ!当たれ!!」

 ……ダメだ、これは……!

 「成程。それがお前の力か」

 ……当たらない!

 ボス……大魔狼は、高速で迫る岩をひょいと避けると、その上に悠然と降り立つ。


 「済まなかった」

 「……は!?」

 「訂正しよう。その心体だけは本物だった」

 何言ってんだ、こいつ?

 「『心の強さ』。持ち得なかったモノを、お前は確かに此処で手にしたのだな。……いや、至ったのか」

 全然、意味分かんないけど……

 「……あ、ありがとう?」

 「――。……くっ。くく……」

 笑っ……てる、のか?……モンスターが?

 「()()()()()

 「どうせなら理解るように喋ってくれる?」

 「……いや、最早言葉は要らぬ。後は精々、示してみせろ。冒険者を目指す者よ」

 なにがなんだか分からんけど……分かった。

 つまり、やる事は変わってねぇって事だよな!

 「見せてやるよ……!俺の覚悟は嘘じゃねえ!!」


 身体中の血管から悲鳴が聞こえた……気がする程に。

 集中力と気合を高めて【動】を発動する。

 「今日の俺はツイてるな!そこらに()()()落ちてやがる!!」

 操れ……操れ!

 意識を全部()()()集めてコントロールしろ……!


 技術も無い、経験も何も無い。

 そんなのは俺が一番、理解ってる。

 だったらなんだ?諦めろってか?


 舐めんな……!!!


 この時の為に練りに練った即席の策。……見せてやるよ!!

 「…………どうやらお前の心をまだ測り損ねていたらしい」


 一。

 十。

 百……。

 千……!

 「シンプルで……良いだろ?……質よか量だ……!!」

 鼻から冷たい、赤いモノが垂れているのが分かる。

 視界は急速に縮まり、白く染まった。

 ……正直、もう帰りたい。

 痛いし、苦しいし。疲れたし、眠たいし。

 だけど。

 今は……!!

 「気張る時、……だよなァ!!!」

 喰らって、くたばりやがれ!


 「<飽和弾>!!!」


 「む……ッ!」

 大魔狼は高く跳躍する。

 ……逃がすかよ……!

 「追え!」

 石の、岩の。

 ひとつひとつは真っ直ぐ飛んでいくだけじゃない。勿論、自動追尾なんかも掛かってない。


 ――動かすんだよ……!

 俺が!自分の意思で……気合で!!

 全てを!!!


 「く……!」

 先頭の石が大魔狼に当たる。

 それを切っ掛けにして、俺の意思は次々と大魔狼へと襲い掛かっていった。



 ――土煙が上がっている。

 何百もの攻撃を喰らった大魔狼は宙から土へと沈み、その後を追う様に攻撃は間断無く続いた。

 時間にすれば一分程度だったかも知れないが……俺にしてみれば、無限にも感じられた。


 「はっ、はっ…………!」

 やった……か……?……くそ……マジで気持ち悪い。グラグラする……。


 自分で名付けた<飽和弾>。

 今の俺に出来る、最高最強の攻撃。

 捻りもなんもない、質量での攻め。

 もし。

 ……もし、これに耐えられたら、もう……

 「ぐ……っ、あ」

 ……吐きそうだ。

 まるで頭の中をハンマーで直接、叩かれているみたいだ。

 手足の指、その先の先までが痛い。


 「――見事だ」


 …………!

 くそ……ッ!


 「もう一度言おう。見事だった。冒険者を目指す者よ」

 土煙の中に、立ち上がる巨大な影が見える。

 「ちくしょう……!!」

 ゆっくりと煙が晴れていく。

 「無傷とか……巫山戯んなよ」

 「だが我を討伐する事は叶わない。()()()()()()()()()()()()


 「アメトさん!!?」

 「……熱……っ!?」

 不意に、左腕に熱を感じる。

 あまりの熱さに目を遣れば、そこに有った筈のモノが無くなっている。

 ――いや、それは地面に転がっていた。

 「!!?……あ、あぁあ……!!」

 瞬間。

 熱さを上回り、例えようも無い痛みが奔る。

 「っ!!……うあぁぁああああ!!!」


 「心だけでは足りぬ。それだけでこの世界を生きてはいけぬ」

 「ぐ……うぅう……!!」

 「その先が無いのなら。引導を渡してやろう」

 「アメトさん!!撤退しましょう、もう無理です!その身体じゃ……!」

 …………ダメだ……!!

 「俺っ、は……まだ……!」

 ポーション……ポーションを……!

 「その怪我はポーションじゃ治りませんっ!早く街に戻らなきゃ!」

 「大……丈夫、片腕が無くっても、俺は戦える……」

 「死んじゃうんですよ!?死んだらなんにも――」


 「――死んだら死んだで、構わない……!」

 ポーションの蓋を噛み、捻り開けて飲み干す。

 「言った……だろ、アクア。……俺の覚悟は……!!」

 気力だけで立つ。

 文字通り死ぬ気で、目の前の敵に再び立ち向かおうとしたその時。

 何処からか……声が聞こえた。

 何処かで聞いた、声が。



――――――――



 (剣を)


 ……剣?


 (剣を手に取って)


 剣なんてどこにも……


 (此処……!)


 バックパックの中に何かを感じる……

 ……これ……あの時の……柄……?


 (さぁ、剣を……!)



――――――――



 「何……?なんだそれは……」

 「……アメトさん、腕が……!?」


 取り出した柄から、力を感じる。

 未だ目に見えなくとも、重みすら感じなくとも。

 確かに、其処に存在する剣身を。


 「もう一度、言っといてやる……!!」

 剣なんて使えない。

 だけど、やれる気しかしねぇ!


 「俺の覚悟はッ!!嘘じゃねえ!!!」



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