流れる。のを辞める⑱
震える手でバックパックからポーションを引き抜き、一息に飲み干す。
残りは……二本。
「なんだ……このヤロー。余裕かよ」
この一連の動作を、値踏みでもしているかの様に泰然と見逃されると流石に腹も立つ。
「それが強者の権利だ」
ムッカつく……!言い返せはしないけど……
「お前は何を以て冒険者を目指した?」
……あぁ?
「貧弱な身体。欠片も感じない魔力。お前からは何も届かない」
……あぁ……。
「通常、人は何かが秀でているからこそ何かを目指す。なのに何故?」
「……うるせぇ」
「身の丈を知れ。己の器を知れ。どの道だろうが履き違えれば待つのは絶望なのだから」
「うるせぇっつってんだろ……!?」
犬か狼かモンスターか知らねぇけど、上から物言ってんじゃねぇよ……!
「――以前はそうしたのだろう?」
「……!?」
「己には何も出来ず。何も変えられず。流れるままに身を任せ、大勢に迎合し」
なんなんだよ、こいつ……なんで……
「自己発信のつもりで多勢の力を借り、多勢に入り込み、己を守る。お前はそれで満足していたのだからそれで良かったのではないか」
……やめろ……
「それは決して恥ずべき事では無い。それも人間なのだから」
やめろ……!!
「下らぬ想いを抱いたままにこんな場所で死にゆくか?今まで通りに逃げ続ける事も幸せではないか?お前にとっては――」
「――やめろ!!!」
「知らねぇよ!!どいつもこいつも……!俺に干渉してくるな!!」
「どれだけ強い言葉を用いても変わらない。お前はただ流されるだけの人間だ」
「理解ってんだよ!だから変わりたいんじゃねぇか!」
「それは本心か?つまるところ、お前は逃げただけでは無いのか」
「俺が何から逃げたって……!?」
「世界から。この世界へと」
「っ!!」
てめぇに何が……!!
「何が分かるんだ!!?」
【動】だ!動け……岩!!
アイツの土手っ腹にブチ込んでやる……!
「念……?」
!?
動かす前に、岩のほうを見やがった……!?
「くそっ!当たれ!!」
……ダメだ、これは……!
「成程。それがお前の力か」
……当たらない!
ボス……大魔狼は、高速で迫る岩をひょいと避けると、その上に悠然と降り立つ。
「済まなかった」
「……は!?」
「訂正しよう。その心体だけは本物だった」
何言ってんだ、こいつ?
「『心の強さ』。持ち得なかったモノを、お前は確かに此処で手にしたのだな。……いや、至ったのか」
全然、意味分かんないけど……
「……あ、ありがとう?」
「――。……くっ。くく……」
笑っ……てる、のか?……モンスターが?
「確かに強い」
「どうせなら理解るように喋ってくれる?」
「……いや、最早言葉は要らぬ。後は精々、示してみせろ。冒険者を目指す者よ」
なにがなんだか分からんけど……分かった。
つまり、やる事は変わってねぇって事だよな!
「見せてやるよ……!俺の覚悟は嘘じゃねえ!!」
身体中の血管から悲鳴が聞こえた……気がする程に。
集中力と気合を高めて【動】を発動する。
「今日の俺はツイてるな!そこらに武器が落ちてやがる!!」
操れ……操れ!
意識を全部ここに集めてコントロールしろ……!
技術も無い、経験も何も無い。
そんなのは俺が一番、理解ってる。
だったらなんだ?諦めろってか?
舐めんな……!!!
この時の為に練りに練った即席の策。……見せてやるよ!!
「…………どうやらお前の心をまだ測り損ねていたらしい」
一。
十。
百……。
千……!
「シンプルで……良いだろ?……質よか量だ……!!」
鼻から冷たい、赤いモノが垂れているのが分かる。
視界は急速に縮まり、白く染まった。
……正直、もう帰りたい。
痛いし、苦しいし。疲れたし、眠たいし。
だけど。
今は……!!
「気張る時、……だよなァ!!!」
喰らって、くたばりやがれ!
「<飽和弾>!!!」
「む……ッ!」
大魔狼は高く跳躍する。
……逃がすかよ……!
「追え!」
石の、岩の。
ひとつひとつは真っ直ぐ飛んでいくだけじゃない。勿論、自動追尾なんかも掛かってない。
――動かすんだよ……!
俺が!自分の意思で……気合で!!
全てを!!!
「く……!」
先頭の石が大魔狼に当たる。
それを切っ掛けにして、俺の意思は次々と大魔狼へと襲い掛かっていった。
――土煙が上がっている。
何百もの攻撃を喰らった大魔狼は宙から土へと沈み、その後を追う様に攻撃は間断無く続いた。
時間にすれば一分程度だったかも知れないが……俺にしてみれば、無限にも感じられた。
「はっ、はっ…………!」
やった……か……?……くそ……マジで気持ち悪い。グラグラする……。
自分で名付けた<飽和弾>。
今の俺に出来る、最高最強の攻撃。
捻りもなんもない、質量での攻め。
もし。
……もし、これに耐えられたら、もう……
「ぐ……っ、あ」
……吐きそうだ。
まるで頭の中をハンマーで直接、叩かれているみたいだ。
手足の指、その先の先までが痛い。
「――見事だ」
…………!
くそ……ッ!
「もう一度言おう。見事だった。冒険者を目指す者よ」
土煙の中に、立ち上がる巨大な影が見える。
「ちくしょう……!!」
ゆっくりと煙が晴れていく。
「無傷とか……巫山戯んなよ」
「だが我を討伐する事は叶わない。それだけではとても足りぬ」
「アメトさん!!?」
「……熱……っ!?」
不意に、左腕に熱を感じる。
あまりの熱さに目を遣れば、そこに有った筈のモノが無くなっている。
――いや、それは地面に転がっていた。
「!!?……あ、あぁあ……!!」
瞬間。
熱さを上回り、例えようも無い痛みが奔る。
「っ!!……うあぁぁああああ!!!」
「心だけでは足りぬ。それだけでこの世界を生きてはいけぬ」
「ぐ……うぅう……!!」
「その先が無いのなら。引導を渡してやろう」
「アメトさん!!撤退しましょう、もう無理です!その身体じゃ……!」
…………ダメだ……!!
「俺っ、は……まだ……!」
ポーション……ポーションを……!
「その怪我はポーションじゃ治りませんっ!早く街に戻らなきゃ!」
「大……丈夫、片腕が無くっても、俺は戦える……」
「死んじゃうんですよ!?死んだらなんにも――」
「――死んだら死んだで、構わない……!」
ポーションの蓋を噛み、捻り開けて飲み干す。
「言った……だろ、アクア。……俺の覚悟は……!!」
気力だけで立つ。
文字通り死ぬ気で、目の前の敵に再び立ち向かおうとしたその時。
何処からか……声が聞こえた。
何処かで聞いた、声が。
――――――――
(剣を)
……剣?
(剣を手に取って)
剣なんてどこにも……
(此処……!)
バックパックの中に何かを感じる……
……これ……あの時の……柄……?
(さぁ、剣を……!)
――――――――
「何……?なんだそれは……」
「……アメトさん、腕が……!?」
取り出した柄から、力を感じる。
未だ目に見えなくとも、重みすら感じなくとも。
確かに、其処に存在する剣身を。
「もう一度、言っといてやる……!!」
剣なんて使えない。
だけど、やれる気しかしねぇ!
「俺の覚悟はッ!!嘘じゃねえ!!!」




