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レインドロップ  作者: uyu
1章

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1/7

流れる。のを辞める①


――――――――



 ――現在(いま)でも鮮明に思い出せる。

 ずっと……変われるきっかけが、欲しかった。


 あの地球(ほし)に居た頃。


 きっと、どこかの誰かの役に立っている筈。

 いつか、誰かに認められる筈。

 そう言い聞かせながら、踏ん張っていた。


 でも突然に、感情の糸は切れた。

 代わりなんかいくらでも居る……そう言われた時に。


 強い失意の中、あの古びた本屋で見つけた一冊の本。

 あの中で説明されていた儀式を、半信半疑で試してみた。ばかばかしいと、そう思いながら。

 結果は……大成功だった。

 見慣れた部屋の景色がグニャリと歪んだと思ったら、次の瞬間に俺の意識は黒い水の中に沈んだ。

 沈んだ意識はまるで、積み上げた砂が崩れる様にサー……ッと流れていった。


 薄れていく間、色んなモノを見た。


 横になった俺を覗き込んでいるような、顔の無い大勢のヒト。

 眼前にまで迫りくる、巨大な惑星。

 その他にも色々。


 特にはっきりと覚えているのは最後に見た……多分、地球。

 でも今考えれば、宇宙から見下ろす様に見ていたあの星は、だけど俺の知ってるモノとは違った。

 細部もそうだけど、何よりも……色が。


 ()()()吸い込まれる様に意識は引っ張られていった。

 気付けば……そこは、俺の知らない世界だった。



――――異世界【エスペランサ】――――



 「おーい」


 ――?

 人の声……


 「おーい。大丈夫ですかー?」


 頭の後ろから感じる柔らかい感覚はたぶん草。

 体の下から来る冷たさは……土かな。

 聞こえる声に目を開けようとするが、どうにも瞼が動かない。


 「死んでますかー。それとも生きてますかー」


 そんな事を言われたのは初めてだ。

 ……言われてるん……だよな?うん。


 「ぅ……っ……」

 「お?今指がビクッとしたような」

 どうにか体を動かそうと、もがく。

 指だけって、おい。もう少し動けよ……

 「ぐ……!」

 「おぉう……目が開いた開いた。てことは生きてるんですねー。おはようですお兄さん」


 やっと開いてくれた目に、強い光が入ってくる。

 少ししてそれが収まった時、目の前に立って俺の顔を覗いている女の子が見えた。

 つうかなんだこの子、兎耳……?

 とても可愛い、見たことも無いくらいに可愛い女の子の頭の上に、兎耳が付いている。

 耳がぴこぴこと動く。え、本物か?……いやいや、まさか……本当に成功したのか?


 「ぐ……此処は……?」

 「んっ?商店街ですけど。【アマヨ】の街ですよ。なんですか、もしかして酔っ払いですかー?心配して損したかも。帰ろ帰ろーっと」

 「ちょ……ちょっと待ってくれ」

 「もー。なんですか、酔っ払いさん」


 一瞬だけ見えた女の子の後ろ姿。

 ご丁寧に、()()には兎の尻尾……あのふわふわした丸いやつまで付いていた。

 あれも動いてるぞ……?マジか。

 自分の体を確認する。……取り敢えず、痛いところは無いみたいだ。

 手をついて体を起こす。

 

 「いや、悪い。何が何だか分からないが、酔っ払いじゃ無い事は確かなんだ……ただ、なんだか記憶が曖昧でね。ね、もし良かったら頼みが」

 「はい?……あれ、お兄さんもしかして……」

 ……ん。まさか俺を知ってるのか?そんな訳は……

 「……ヤバい人ですね?」


 うん。違った。

 マズい。凄く危ない奴を見る目になっている。なんとなく距離も取られたぞ。

 「違う!違うぞ!俺はこの街に初めて来たんだ!倒れてたのはその……そう!単に腹が減ってただけ――」


 「おまわりさーん」


 「そんなっ!?」

 問答無用かよ!?

 驚くほど早く来た警察(?)の人達に拘束される。

 「お兄さんが無実の人だったなら、またお会いしましょー。じゃっ」



――――――――



 …………あぁ……床が冷たい……


 元いた世界でも、警察のお世話になった事なんて無いってのに……。

 なんだよ、異世界じゃ皆優しくしてくれると思ってたぜ。特に序盤はよ……

 チュートリアルはどこ行った?道案内の綺麗なお姉さんはどこ行ったんだちきしょう。

 いきなりブタ箱行きって、そりゃ無いよ。


 「……なぁ看守さん」

 「うるさいぞ」

 「俺さぁ。お腹空いたなぁ」

 「飯はその内に出るから大人しくしてろ」

 「そうなんだ。……なぁ看守さん」

 「…………」

 「そもそも俺、別に悪い事してないと思うんだけど……なんでこんな檻に入れられてるのかな?」

 「お前がそれ相応の罪を犯したからだ」

 「そんな馬鹿な。……ちなみに、内容のほうを具体的に聞いても良い?」

 「黙ってろ」


 ……うーん。明らかに不機嫌そう……これ以上はマズいかも知れないな。

 ひとまず看守への質問を切り上げて、考える為に意識を沈める。現状の把握は大切だよな、うん。


 まず、一番に懸念してた言葉の壁は無い事が分かった。これは一安心。

 あまりにも()()()ご都合主義的に感じるけど、ま……気にしない事にしよう。そうしよう。


 次に食べ物。

 この世界で生きていく上でこれも大切な事。

 此処に連行される間、人々の奇異の目に晒されながらも商店を観察したところ……たぶんこれに関しても問題無し。

 実際に食べてみなきゃあ、そりゃ分かんないが……なるようになるだろ。

 もし万が一、クソ不味い食べ物ばかりなら…………。いや、慣れるしかないか。

 俺の身体に合わなくて食べたら死ぬ、とかじゃないのなら大丈夫。


 最後に、()()()()()()()()()()

 あの本に書いてあったな。

 世界を流れた者には【新たな力】が宿るって。

 そんな、少しだけ小っ恥ずかしいモノを一体、何処の誰がくれるのか知らないが……有難い話だ。でもせめて、どんな力を貰えるのかくらいは知りたかったな。


 「うーん……よしっ」

 試しに、掌に意識を集中してみる。

 「ふぬぬぬぬ……っ!」

 出ろ……!なんか出ろ!魔法の火とか水とか……っ!

 「――ぬあぁぁぁぁ!!!!」

 ダメだ。頭の血管が切れそうだ。

 看守をちらりと見れば、その背中はプルプルと小刻みに震えている。

 笑うなよおいコラ。至って真剣だぞ俺は。


 あー……なんか眠くなってきたし、取り敢えず後回しで良いや。そのうちに分かるだろ多分。

 寝よ。



――――――――



 「おーい」


 ――…………。


 「おーいってば」


 ん……んん?

 なんだ、看守の野郎。随分と可愛らしい声になりやがって……

 もしくはまだ夢の中か?

 うん、そうに違いない。目を開けても真っ暗だし。起きるにはまだ早い――


 「お兄さーん」


 ピカッ!と、強い光が瞼の上から襲う。

 「まっぶ!!……なんだなんだ!?」

 「あ、起きた。おはよう」

 「おはよう。……じゃねーよ!なんだ一体!?あとなんで手が光ってんだ、君は!?」

 「まぁまぁ。ところでここから出たい?」

 「ぁん?…………うーん。出たいのはそりゃ出たいがまだ眠いし、出来ればまた明日の朝とかに」

 「あっそう。でも良いの?」

 「?……なにが?」

 「私、次はいつ来れるか分かんないから……お兄さんが出られるのもいつになるか分かんないね」


 え。

 「……なんだそりゃ!?じゃあ出るよね!すぐに出るよ俺はこんな場所!」

 「だよねー。はいどーぞ」

 ガチャン、と音を立てて檻の錠が外れた。

 「く〜……っ、半日振りのシャバだぜ……!……ん?あれ?」

 「どーかしたの?」

 周りを見渡す。あれ、あの看守はどこいった?

 「なぁ、此処に居た看守は?」

 「どいてもらったけど?」

 へ?

 「お兄さんに罪が無いのが確認出来たからね」

 「へ……へぇ〜。そうなんだ……」

 あれっ?もしかしなくても、この子……

 「さっ、行こ行こー。こっちだよ」

 「あ、はい!行きます!」

 結構偉い人なの……ですね?


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